北京五輪を目標に掲げる浦田にとって、07年は不完全燃焼のうちに終わった。ワールドツアーでポイントが伸びず、現在のランキングは五輪出場の枠外にとどまっている。来年上半期のツアーでポイントを積み重ねないかぎり、後はない。インドアでエリートコースを歩んできた彼女がビーチへと転向したのは、オリンピックにこだわるがゆえだった。転向から6年、苦労を重ねつつもハードルを乗り越えてきた自負はある。勝負の08年に向け、決意を胸に秘める彼女に話を聞いた。
――この年末は少しオフがあったようですが、リフレッシュできました?
「そうですね。(12月)12日まで10日間グアムにイベントがあって行ってまして、その前は1ヶ月くらい休みました。でも、年が明ける前に、海外へ合宿に行くので、もうオフモードは終わりましたね」
――ブラジルで長期間の合宿に入ると聞きましたが?
「はい。年末から休みなしで3ヶ月ずっと合宿です。最初は体作りとかメディカル中心ですけど、来年はオリンピックへのラストスパートになるので、早い段階からボールを触っていくと思います。細かい内容は現地にいって(ブラジル人の)コーチと合流するまでハッキリは分かりませんけど、早めに技術系の練習に入るはずです」
――オフはどう過ごされたのですか?
「ええ。コーチからも合宿からはきつくなるから、リフレッシュしてこいと。当分はバレー漬けの日々が続くので、バレーのことは忘れて、家族と時間すごしたり、のんびり充電しました」
――では、合宿以降は、トレーニングと試合の繰り返しに?
「はい。オリンピックのことがあるので、ラストスパートをかけないと。ここまであまり良い結果が出せていないので、がんばらないとまずいです」
――海外での食事は問題ない?
「私は、けっこう何でも対応できますね。ただ、長期になるとさすがに飽きはきますよね。白いご飯に、味噌汁に、納豆とか。そういう和食を食べたいって欲求は出てきます」
――多少は持ち込むんですよね、食材も。
「長期合宿は自炊するんですね。外食ばかりだとバランスも悪くなりやすいし、経費もかかりますから。で、いつもチームで合宿すると、私とパートナーの女性2人が食事の用意していたんですけど、今回のブラジル合宿は、男子メンバーの奥さんが食事のほうはやってくれるようなので、そこは楽になりそうです(笑)」
(次ページへつづく)
――やはりオリンピック出場が最大の目標?
「そうですね、バレーをはじめたころからの夢です」
――ビーチバレーに転向した理由もオリンピック?
「そういう部分はあります。最初はインドアでやってましたけど、インドアの場合は、まず実業団に入って、そこでレギュラーになって。全日本に選ばれて、そこでもレギュラーになって。さらに、チームとして出場権を獲得してと、オリンピックの舞台に立つまでには、多くの段階を踏まなければならない。その点、ビーチバレーでは、個人の成績次第でストレートに本大会に出るチャンスもありますから、それは転向した大きな理由のひとつです」
――チャンスがあるぶん、リスクも大きいのでは?
「たしかに、そうですね。楽しい部分もありますけど、やはり最初のころは、とても大変でした。当たり前のことだとは思いますが、ひとりで生活していくのに“こんなにお金がかかるんだ”って(笑)。食事や家事もすべて自分でこなしていかなければならない。それらをやったうえで、トレーニングと試合をきっちりこなしていく難しさはありました。実業団のころは寮生活でしたから、正直、お金のこととか考える必要はなかった。ですから、苦労は増えましたね。ま、寮生活がダメだというつもりはないですけど、ひとりでやるようになって学んだことは多いですし、人間として日々成長できているはずだと、自分では勝手に思ってます」
――そういう逞しさを身につけることは、プレーにも好影響があるのでは?
「あると信じてます(笑)。ビーチに転向して本当に痛感してるんです、なにしろメンタルが大事だなと。もちろん、技術も大切なんですけど。やっぱり、強くじたのはメンタルの重要性。インドアのころは6人制で、少なからず周囲を頼れる部分はありました。けど、いまはパートナーと2人だけ。自分がケガしたら代わりはいないですし、調子が悪ければ、とことん狙われます。そういうなかで、きっちり結果を出していくには、もちろんパートナーの力も借りますが、やはり自分自身のメンタルがカギになりますね。ですから、ふだんの生活から、いいかげんな気持ちでたら、試合にも出てしまう。試合で、どうやって100パーセントのコンディション、100パーセントのメンタルを維持するかと考えると、ふだんの生活がじつは大事ですね。ほんとうに普段の生活がいいかげんだと、1点のミスにつながる。なので、競技への取り組み方というのも、ビーチに転向してからずいぶん変わったと思います」
――技術面でも、ビーチとインドアではずいぶん違いますか?
「そうですね。より駆け引きが重要になります。端から見ていると、2人しかいないのだから、空いてるスペースはいっぱいあるし、簡単そうに見えるかもしれません。でも、そこに足場の違いや、駆け引きが加わるので、とても奥が深い競技です。ときにはわざと前の試合で調子を落としてみせたり。癖を読んだり。ワールドツアーって年間20大会くらいあるのですが、そこでコンスタントに結果を残すには、感覚や勢いだけでは無理。戦略、作戦というものが大きなウェイトを占めます。やはり上位に食い込むペアは、調子が悪くても、駆け引きのうまさで勝ってしまう。インドアのころは相手よりも、チームや自分自身のことを中心に考えてましたけど、それだけでは、勝てないですね」
――インドアに比べると、より個人競技に近いといえるんですか?
「いや、その逆です。むしろ、チームプレーなんです。1+1が3にもなれば、もしかするとマイナスになってしまうこともある。そういう競技だと思います。メンタルやコンディションというのは個人的にしっかりしていれば問題ないですが、それだけでは勝てない。技術、戦術といった点は、パートナーとのコンビネーション次第ですね」
――ツアーで転戦すると、国によって相性などもあるのでは?
「砂の影響が一番大きいですね。国によって、ずいぶん違います。いつも上位に入るペアが、砂の影響でポロッと負けることもありますよ」
――今年を振り返ってみて、浦田選手にとってはどんな1年だったのでしょう。
「うーん、けっこう“重い”年ではありましたね。“重い”というのは、公私ともにいろいろと悩んだり、考えさせられることが多かった。成長していくために必要なんだ、これを乗り越えれば大きなステップになると信じて、とにかくがんばってきたという感じです」
――自己分析で、切り替えは早いほうだと思います?
「ほかの人からみると、早いっていわれるかもしれないんですが、いったんハマるとけっこう長引いてる気がします。そういうときは、“試されてるんだ”って言い聞かせるようにしてます。結局、悩んでいても進まないので、やることはやるという割り切りだけは持ってます」
――では、来年はどんな年にしたいですか?
「とにかくオリンピックが直前にあって、出場権を得るためのポイント(ワールドツアーの成績で加算)を取れるか取れないかの瀬戸際なので、まずブラジル合宿に集中したいです。いろいろと解消したい問題点はあります。それをアバウトに、“だいたいこんな感じ”とかではなく、ひとつひとつ問題を突き詰めて、しっかり答を出していきたいですね。大きな目標としては、オリンピックでの成績もありますが、いまの結果や内容ではえらそうなこといえません。まず目の前の課題をクリアしないと、そこにはたどり着けないわけですから。ブラジル合宿で課題を克服して、4月からの試合で結果を出す。結果が出なければ軌道修正する。ほんとラストスパートかけます」
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