八村が本気で怒っている――。日本バスケットボール協会(JBA)に異議の声を上げた、ロサンゼルス・レイカーズに所属する八村塁の“乱“は波紋が広がる一方だ。八村は先月13日に日本代表の強化について「お金の目的があるような気がする」などと主張。今後の日本代表招集も「プレーしたくない」と固辞する意向を明かした。世界最高峰・NBAで活躍、日本バスケを牽引する八村による協会批判に、トップであるJBA三屋裕子会長は「選手が(協会に)意見をするのは健全」と火消しに躍起だ。それでも八村の怒りは消えないという。その根底にあるものとは……。

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【写真】八村が批判した協会のトップは、「美女アスリート」と言われた往年の名選手だった!

 八村の主張には2つのポイントがある。

パリ五輪・日本代表での八村塁選手

 1つはJBAの運営が「金目当て」に過ぎるという点、もう1つは日本代表のトム・ホーバス監督との関係だ。八村は11月13日、監督について「男子のことをわかっている、アスリートとしてプロとしてやっていた、プロとしてもコーチをやっていたことがある、そういう人にコーチになってほしかった。僕としては残念」と、JBAが11月にホーバスの続投を決めたことに異議を唱えた。11月23日にも、「プレーヤーファーストの精神が見られない。そういう方針の日本代表ではプレーしたくない」と、本来、名誉であるはずの日本代表チームに入ることも望まないと明言した。

 代表チームの選手選考は「監督による専権事項」というのがどの競技でも当たり前のこと。八村が「代表に行きたくない」というのであればホーバス監督も“八村抜き”の代表チームを作り、来るべき28年のロサンゼルス五輪に向けて強化するはず。サッカー日本代表でも2002年W杯の時には“上から目線“の采配で指揮をしていたフランス人のトルシエ氏が中田英寿氏と対立を続けたように、球技では代表監督と主力選手の確執は決して珍しいことではない。

 バスケに詳しいライターによれば、

NBAでは、選手が監督に“主張“することは日常的に行われています。八村はそれを見ていますから、彼にとってもそれほど違和感のある行為ではないのです」

八村欠場を公表せず

 では、八村が代表強化に「お金の目的がある」という指摘はどうだろうか。彼の発言は以下だ。

「僕としてはあまり言いたいことではないが、日本代表のやり方が、僕としてはうれしくないところがあって。日本代表としてやっている中で、チームもそうですし、僕もNBAでやっている中で、強化というか、子どもたちのため、日本のバスケを強くしていくためにやってきている感じはあったが、日本代表の中でその目的ではなく、少し僕が思うには“お金の目的”があるような気がするので」

 八村が直接指しているのは、この7月、パリ五輪を前に日本代表が行った強化試合(対韓国戦)のことだった。6月までNBAで戦ってきた八村は、コンディション調整を優先するため、この試合には出場しないことを事前に伝えていたという。しかし、協会がそのことを発表したのは、試合当日。八村が出ると誤認させ、観客動員アップを図ったのではないか、というわけだ。実際、チケットは完売しているから、八村が抱いた不信感は理解できないわけではない。

解散危険水域

 JBAには、常にお金の問題がまとわりついてきた。

 そもそも日本バスケット界は内部での分裂が続き、2つのリーグができたことで国際バスケットボール連盟(FIBA)から2014年、「代表チームの無期限の国際試合での活動停止」という厳しい制裁を受けていた。これを解決したのがサッカーJリーグ初代チェアマン・川淵三郎氏である。

「FIBAの制裁を解いただけではなく、JBAの財政再建とBリーグ立ち上げのために、ソフトバンクの孫正義会長の元へメインスポンサーへのお願いの直談判に行っています。それにより初年度から4年120億円とも言われる他のスポーツ団体が羨む大型契約を結ぶことに成功しました」(夕刊紙記者)

 日本バスケ再建のはじめの一歩がこれだった。この契約は今年から2期目に入っている。ところが、こうした収入がありながら、JBAはコロナ禍以降、財政状況はかんばしくない。2022年には、〈【バスケ】日本協会5億8000万円の大赤字 財団法人解散危険水域も〉(日刊スポーツ)なる報道が出たほど。この記事によれば、JBAは2020〜2022年と3年連続で赤字を出し、正味財産が1億1000万円ほどに減少したという。

 そんなJBAにとって、頼みの綱とも言えるのが、日本代表の存在だ。例えば、昨年沖縄などで行われたW杯では、アジア最上位の19位に入る代表の活躍があり、チケット売り上げが想定より大幅に増加。2023年度決算の黒字化に大きく貢献した。この11月のアジアカップの予選も、日本テレビがゴールデンタイムで中継した。その代表の中心であり、スターであるのが八村。7月の“八村欠場隠し”には、金目的の意図があったと勘繰られても仕方ない。

 しかも、財政が厳しいはずのJBAだが、「役員および評議員の報酬並びに費用に関する規程」を見ると驚きの数字が出てくる。役員棒給表を見ると49通りに区分けされ、その最高額が月額250万円。三屋会長以下の報酬額は非公表だ。その三屋会長は30日の報道陣との取材の場で「(八村とは)価値観の違いを埋めたい。簡単ではないだろうけど」と話したが、この役員報酬額については、世間との「価値観の違い」があるのかもしれない。

イチローの乱、本田の乱

 ホーバス監督はNBAでの選手、指導者経験はほとんどない。日本女子の監督として東京五輪でチームを銀メダルに押し上げて名を上げ、日本語も解することから、男子の代表に抜擢された。W杯で好成績を導き、先のパリ五輪でも銀メダルを獲った強豪・フランスにあと一歩まで迫るなど結果を残してはいるものの、世界を見渡せば、彼より“上”のコーチはたくさんいる。

 八村の「金目的」発言と監督批判に、上記の経緯を加えると、現状の協会運営の問題点は以下のようなものになるだろうか。スポンサー収入や代表の収入で稼げているはずなのに、なぜ財政が厳しいのか。運営に問題があるのではないか。役員報酬を高止まりさせるくらいなら、監督にもっと金を出し、実績あるコーチを呼ぶべきでないのか。それが代表の強化や、子どもたちの未来に繋がる。代表選手を利用して集めた金は一体、どこに行っているのか――。

 他のスポーツではあるが、2009年のWBCの監督選考の際、進められていた星野仙一監督招聘に対し、イチローが待ったをかけ、話が流れたことがある。また、2018年、サッカー日本代表のハリルホジッチ監督も、本田圭佑、香川真司などの主力の反乱で退任に追い込まれた。

 今回の騒動が上記のような例まで発展するかどうかは不透明だが、こと采配だけでなく、協会の体質にも関わる問題だけに、先行きはまったく見通せない。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部