欲望や嫉妬、執着。人間の奥深い感情があふれた、恋愛群像劇が誕生した。

大人たちの“情事と事情”が複雑に絡み合い、意外なつながりを見せていく。繊細な描写と優雅な映像美、センセーショナルな展開は、観る者を虜にする。

原作は恋愛小説の名手、小手鞠るいの同名小説『情事と事情』。今作は、NTTドコモの映像配信サービス「Lemino」のオリジナルドラマ「欲望三作」の二作目として、12月5日に待望の配信を迎えた。

「美しいものだけ見ればいい。不都合な事情からは、目を逸らせばいい」

独特の美学を持って生きる愛里紗を演じるのは、映像や舞台で幅広く活躍する倉科カナ。愛里紗は、美しいもので埋め尽くされた“自分の城”を築いている。物語が進むにつれて“美しい城”が崩れていく感覚を、倉科は肌で感じたという。

想像もつかない方向へと向かう、愛里紗の心の行く末は――。7人の男女が織りなす情事の世界に、どっぷり浸かろう。

撮影/アライテツヤ
取材・文/井上由佳
【作品情報】
Leminoオリジナルドラマ『情事と事情』
毎週木曜0:00(全8話)配信
※第1、2話無料配信
・『情事と事情』特設サイト

「事情のない情事なんてない」感情を揺さぶる恋愛ドラマ

――ドラマ『情事と事情』は、7人の男女の“情事と事情”が複雑に絡み合った恋愛群像劇です。倉科さん演じる結城愛里紗は30代半ばの装幀家で、「美しいか否か」が価値基準の女性。オファーを受けたときはどんなお気持ちでしたか?
「おお、この役で来たか」と。私が演じた愛里紗は、ほかの登場人物とちょっと違って、ミステリアスな感じがあって。難易度も高くて、私にこの役のオファーがくるのって、すごく新鮮だなと思いました。
――ぜひやりたいっていう気持ちに?
そうですね。愛里紗の双子の妹、(島崎)英里華と二役を演じるということだったので、役者としても面白みを感じて。全然違うふたりを演じられたらいいなと思いましたね。
――活発で外交的な英里華は、愛里紗の夫である結城 修(演/金子ノブアキ)が好きで関係を持ちますが、複雑な心境のふたりを演じてみていかがでしたか?
今回、愛里紗が感情を抑えるタイプなので、英里華を演じることでけっこう発散できるところがあって。すごく振り幅があるので、楽しく演じさせていただきました。

私、過去にも一人二役が多いんですが、今までと違うのが、同じ場所にふたりが存在するというシーンがあって。
――倉科さん演じるふたりが同じテーブルに座っていて、とても不思議でした!
そうなんです。自分の芝居を自分で返してっていうのは初めてに近くて、やっぱり難しかったですね。計画性がすごく必要だということがわかって、勉強になりました。
――原作者の小手鞠るいさんのXを拝見したら、「素晴らしかったです」とご本人が投稿されていました。倉科さんのことも「まさに、ハマり役!」と、フォロワーに返信されていましたよ。
本当に、すごくありがたいです!
――原作を読んでからドラマを拝見しましたが、原作のイメージそのままでした。
ありがとうございます。今回ご一緒した井樫監督は『隣の男はよく食べる』(テレビ東京系)に続いて2回目なんですけど、現場で監督がいきなりタタタって来て「本当に、愛里紗のまんまですよね」っておっしゃっていただいて。

最初、愛里紗と私は似ていないと思ってたんですけど、監督からお墨付きをいただいたので(笑)、自分でも分析してみたんです。そうしたら、ちょっと似ているところがあるなと思って。
――どんなところが?
私、パブリックイメージが明るいとかニコニコしているとか、いつも笑顔みたいなのが多くて。実際そうなんですけど、冷静なところや、冷たさみたいなものは似ているなぁって。なんか、群れたりしないじゃないですか、あの子(笑)。
――たしかに、愛里紗は群れる感じがしない(笑)。
私も、馴れ合いや群れるのが苦手で、けっこうドライなところがあるので、そこは似ていると思いましたね。そういう一面が自分にもあったんだなっていう気づきになりました。

未知のワンカットを一緒に作っていく、刺激的な井樫監督の現場

――井樫 彩監督は注目すべき若手の監督ですが、役を演じるにあたって、監督とはどんなお話をされましたか?
愛里紗の表現として、曖昧なところをすごく残したいとお話されていて。何を考えているかわからない感じのミステリアスさを足してほしいとか、今だとちょっと伝わりにくいから、もう少し表現を足してほしいとか、そのさじ加減みたいなものを大切にしていらっしゃって。
――愛里紗の美しさやミステリアスな表情は、惹かれるものがありました。
大きなリアクションがないだけにその調節が難しかったけれど、監督とよくお話して、心の機微を大切に演じましたね。
――倉科さんの過去のインタビューで、井樫監督の現場がすごく刺激になったとお話されていて。今回、シリアスなシーンも多かったと思うんですが、現場はいかがでしたか?
今回もまさにそうで、みんなで一緒に作っている感覚が味わえる現場でした。監督が撮る画ってすごく面白くて。

20年くらいこの仕事をしていると、普通だとここから撮るかなとか、カット割が分かってくるんですけど、監督が撮る画って本当にわからなくて、どんな画になるんだろうって。
――それはワクワクしますね!
一緒に未知のワンカットを作っていくのがすごく面白くて、出来上がりが本当に楽しみになるんですよね。スタッフも役者も、みんなで新しいものを作っていこうっていう挑戦が見えて、毎回刺激になりました。
――お話を聞いていても、素敵な現場だったことが伝わってきます。共演者の方とはどんなお話をされましたか?
金子(ノブアキ)さんとは、たわいもないことばかりしゃべっていて。「この夫婦って、なんかアダムス・ファミリー(※1991年のアメリカ映画)みたいだよね。うちらだけ雰囲気違くない?(笑)」とか。

ほかの登場人物は、共感しやすいとか日常にいそうな雰囲気があるんだけど、私と金子さんだけ、すごく異色で(笑)。
――たしかに、異色の夫婦です(笑)。
「修くんだったら、こんなときはこうするなぁ」とか、ふたりでよく話してましたね。

愛里紗を演じることで“美しい城”が崩れていく感覚があった

――愛里紗は、美しくないものは拒絶するという独自の美学を持った女性です。演じていく中で、役になりきれた瞬間などがあったのでしょうか?
あぁ、ラスト付近かなぁ。愛里紗は心の中に“自分の美しい城”みたいなものを築いているんですよ。物語が進む中で、自分が築き上げた城がどんどん崩れていくという感覚が、私自身にもあって。
――役への理解が深まった?
ドラマの後半戦で、自分の中で何か崩れていく感覚を肌で感じるようになって。例えば、とくに女性は美にすごく気を遣うけれど、どんどん老いていくことに、一瞬の恐怖を感じるとか・・・。

ラストも、こんなに衝動的になるんだなって、演じていて面白かったですね。
――愛里紗の心の行く末・・・ラストシーンは最大の見せ場ですね。
そうですね、ラストもぜひ楽しみにしていただければ! 日常ではやらない行動をするので、新たな経験になりました(笑)。
――ラストシーンに至るまで、全8話約30分の中に毎回センセーショナルな展開が待ち受けていますね。
本当に、業(ごう)や欲望が渦巻いている作品で、ここまで事情が絡まり合うこともないと思うので、どっぷりこの世界に浸かっていただけたら嬉しいです。

負の感情を持ったら、自分の気持ちを認めることが大切

――欲望や嫉妬など、人間の奥深い感情が描かれているのは、このドラマの醍醐味だと思いました。
そうですね。この作品は本当に、嫉妬だったり欲だったり、業(ごう)が渦巻いているんですけど、面白いのは、愛里紗はそこを見ないふりをするんですよね。

一瞬フワッとよぎるけど「こんなに汚い欲とか知らない」みたいなふりをしているのが、すごく面白くて。
――そして、20代の若い男性・世良晴人(演/佐藤寛太)に出会って、感情の微妙な変化が現れますね。
そう。美しい男の子、晴人に出会って次第に感情を寄せていくんです。自分でも欲に染まっていることに気づいていないんだけど、そこからどんどん崩れていくんですよね。
――先ほどのお話にあった“美しい城”が崩れていくところですよね。でもその崩れていくところが、すごく人間らしくもあって。倉科さん自身は、欲望や嫉妬などの感情とどう向き合っていますか?
欲望に関していえば、私はちょっと愛里紗に近くて、見ないふりをしようとしているかもしれない(笑)。ふたをしちゃうっていうか。我慢しちゃうタイプかなぁ。嫉妬に関しても、私の場合は分析のほうに入っちゃいますね。
――自分の思いをノートに書かれることもあるんですよね。
そうです。自分が今どういう気持ちなのか、どうしてそう思ったのかとか。例えば「嫉妬する」だったら、どこに惹かれて、なぜ嫉妬するのか、この気持ちはどうしたらいいのかとか、ノートに書いてその分析をします。
――書くことで気持ちが整理されますか?
はい、やっぱり自分の気持ちを一度認めることで、ストレスが緩和されますね。嫉妬するっていう負の感情は、そういう気持ちもあるよねって理解したうえで、生きていくほうが心の健全かなって思います。

真実は知らないほうが幸せ? それとも知るほうがいい?

――心を寄せていく晴人とのシーンは、こちらまでドキドキしてしまいました! 実際に演じられていかがでしたか?
愛里紗の気持ちに入りやすかったし、私自身も新鮮な気持ちで演じられました。実際に、佐藤くんが本当に純粋な目をしていて、役とすごくシンクロしていて、演じやすかったですね。
――愛里紗の大学時代の友人・中条彩江子(演/さとうほなみ)も晴人に恋をしますが、30代半ばの女性が年下男性に惹かれる理由って何でしょう?
母性本能をくすぐられるんじゃないですか、やっぱり。「もう〜!」みたいな(笑)。どうなんだろう。なんか年下の感じって、ちょっと未知だったりしません?
――わかります、新鮮な気持ちが味わえるのかも?
たしかに! その新鮮さがいいのかもしれない。あとデンジャラスですしね、どう動くか(笑)!
――愛里紗と修の夫婦関係も、気になるところです。愛里紗は修の不倫に気づきながらも黙認し「不都合な事情からは、目を逸らせばいい」と思っています。真実は知らないほうが幸せなのか、知るほうがいいのか、倉科さんはどちらですか?
私は個人的には真実を知りたいタイプですね。知ったうえでの対処をしたい。知らないっていうのは、選択肢を与えられてないから、選択はほしいと思います。
――知ったうえで判断したいと。
そう。「お互い話そう、私も考えたい」っていうのがあります。
――知らないふりをしていても、心の中にたまっていくものがありますよね。
愛里紗みたいに見ないふりをしていると、やっぱりツケが回ってきますよね。

一人でいるのはラクだけど、パートナーと人生を歩んでみたい

――ドラマでは、様々な登場人物の恋愛観や人生観を垣間見るシーンもあります。今の倉科さん自身の恋愛観や人生観について、20代の頃と比べて変化した部分はありますか?
けっこう変わりました。35歳を過ぎたくらいから、ともに人生を歩んでくれるようなパートナーがいたらいいなぁって思い始めて。
――年齢を重ねて変化があったんですね。
一人でいるのもすごくラクだし、誰かに合わせなくてもいいけれど、合わせた感覚を私は知らないから。役者としても私自身としても、まだ見ぬ世界だから見てみたいと思うようになりました。
――新しい自分に出会えるかもしれませんね。
あと、実際に子どもができたときに、たとえば砂遊びや鬼ごっこなど、小さい頃に遊んでいたことをもう一回自分の子どもと経験するのは、また新たな自分が見えそうだなと思って。

すごく大変なことだと思うけど、その大変なことすらも、一回きりの人生だったら経験してみたいなと。

やっぱり、36年間一人だったから、そこはもう見てきたことなので、新たなステージに立ってみてもいいなと思っていますね!
【プロフィール】
倉科カナ(くらしな・かな)
1987年12月23日生まれ。熊本県出身。O型。2006年より女優としてドラマや映画、舞台、CMなど幅広く活躍。2009年、NHK連続テレビ小説『ウェルかめ』で主演に抜擢。主な出演作は、映画
『3月のライオン』、『あいあい傘』、『三日月とネコ』、ドラマ『刑事7人』(テレビ朝日系)、『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)、『正直不動産』(NHK総合)、『隣の男はよく食べる』(テレビ東京系)など。現在はドラマ『バントマン』(フジテレビ系)に出演中。映画『【推しの子】-The Final Act-』が24年12月20日に公開予定。NHKプレミアムドラマ『TRUE COLORS』(NHKBSプレミアム4K・NHKBS)が2025年1月に放送予定。

【作品情報】
Leminoオリジナルドラマ『情事と事情』
毎週木曜0:00(全8話)配信
※第1、2話無料配信
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