日産自動車が苦境に陥っている。自動車ジャーナリストの小沢コージさんは「そこまで悲観する内容ではない。とはいえ、全体的に商品戦略が弱いのは否めない」という――。

写真=共同通信社
広州国際モーターショーで日産自動車が披露した新型EVセダン「N7」=2024年11月15日、中国広東省広州市 - 写真=共同通信社

■「利益9割減、9000人カット」の日産は大丈夫なのか

ほぼ1カ月前の11月7日、「利益9割減で9000人カット」の衝撃的ネガティブニュースが世間を駆け巡った日産。今やそれを理由に「日産はヤバい」とか「倒産⁉」とか「ホンダと合併」とかあらゆるテキトー悲観論が乱れ飛んでおります。

かくいう小沢も動画で「サクラが(今年に入り)売れてない」をやったらアッという間に20万回再生しまして、つくづく他人の不幸は蜜の味と言いますか、人間の悲しいサガを思い知らされます。

同時に日産勤務の知り合いが「小沢さん、俺これで3度目だよ」と言ったのが印象的。そう、1999年の「日産リバイバルプラン」と2008年のリーマンショックと今回の2024年度上半期決算です。いずれも社員持ち株が暴落。焦ったのはもちろん「社内連絡ではなくニュースで事態を知ったのが一番ショックだった」とのこと。そりゃそうですよね。周りや他人にいきなり自分の不幸を指摘されるだなんて。

ただし、冷静に見ると日産リバイバルプランでカルロス・ゴーンが来た時やリーマンショック時とは規模感はかなり異なります。

リバイバルの時は有利子負債2兆円超に、1999年度に6844億円の純損失。連結ベースでの人員削減2万1000人で、日本でも村山工場(東京都武蔵村山市、立川市)を閉鎖しました。リーマンショック時は、2009年3月期の連結決算で2337億円の赤字でした。

■自ら問題を公表できるだけマシ

ところが今回は表だった大きな負債はありませんし、一応赤字は第2四半期単独の純利益マイナス93億円ぐらい。人員カットはしても工場閉鎖は言われていませんし、来年3月の年度決算も現状見通しでは1500億円の黒字。なにより直近5年の決算を見るとコロナで赤字に転落しましたがその後回復傾向にありました。

2018年度は黒字で、2019年度は営業利益405億円の赤字、2020年も営業利益1507億円の赤字でしたが、21年からは再びプラスに転じ営業利益2473億円。22年も3771億円、23年も5687億円の黒字となりました。

もちろん来年3月の決算がどうなるかわかりませんが、なにより日産は、コロナ禍はもちろん08年リーマンショック後の赤字も乗り切っているのです。

来年すぐさまダメになるかって考え過ぎです。もちろんここ半年で抜本的な対策だったり、ヘタすると経営陣の交代をも含む改善策を打ち出さないと株主は黙っていないと思いますが、今回は“プチセルフリバイバルプラン”というか、自ら問題を公表できるだけ前向きなのではないかと。なんとか乗り切れると勝手に期待しているのです。

■私が見た「もったいない日産」

ただし、率直な感想としては今年3月にイケイケ気味の中期経営計画「ザ・アーク」で2026年度までに2023年度比で「100万台の販売増」と「営業利益率6%以上」を目指すと言ったすぐ後にこの報告は見え方として残念。「台数増やす」と言った半年後に「人員削減で生産能力20%減」ですから。家の増改築を決めた直後に、奥さんが出てっちゃう熟年離婚家庭のようです。

そもそもカルロス・ゴーンが来た時に、今やキー技術となるハイブリッドの開発を一時凍結し、売れないEVを人に先んじて作りました。日産にいいクルマを作る力はあるし、技術もあったのに、残念ながら先を読み切れてない印象。そこが一番もったいないのです。

カルロス・ゴーン氏(写真=BsBsBs/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

そこで今回、経営改善はその道のプロに任せるとして、商品目線で「もったいない日産」を勝手に指摘していきたいと思います。

まずもったいないのはとにかく商品開発スピードであり絶対量。出せば売れるカテゴリーの商品があるのにそれを出せてない点です。例えば北米市場の失敗の要因は、ハイブリッドを出していないこと。

先ほどハイブリッド開発を一時凍結したと記しましたが、ご存知の通り、日産はハイブリッド技術を持っています。彼らが「ハイブリッドとは言いたがらない」e-POWERです。

■「ハイブリッド」はなんとかならなかったのか

これは2016年に当時のBEV、初代リーフのモーターやインバーターや制御技術を応用した「まかない飯」的ハイブリッドで、エンジンを発電専用に使い、作った電気で駆動モーターを動かすパワートレイン。見ようによっては「エンジンで発電するEV」ではありますが、2つの動力源を使うという意味で完全なるハイブリッドですし、なにより走りの滑らかさではトヨタハイブリッドを上回ります。

ただ残念なのは、これが基本日本国内や一部アジアのみを見据えた暫定的アイデアで、今でこそ違いますが、当初は海外展開をほとんど図ってこなかったことです。

確かにシリーズハイブリッドは高速域での効率に弱点があり、長らくハイスピード環境の欧米では通じないと言われてきました。ただし、日本やアジアでは売れますし、またホンダのように高速エンジン直結モードを加えれば高速域の効率は上がります。そこになぜ手を付けなかったのでしょうか。

また現状でも日産エクストレイルに搭載する1.5リットル可変圧縮のVCターボを使ったe-POWERはかなりのパワーが絞り出せます。FFモデルでも204psに330Nmのパワー&トルクですし、日本のWLTCモード燃費はリッター19km前後と悪くない。

高速ぶっ続けのアウトバーンでは燃費が落ちると思いますが、パワーはありますし、これまた直結モードを加えたり、金額は張りますがバッテリー量を増やせばなんとか対応できないものかと。

■国内販売車種がホントに少ない

ここは燃費の領域になり難しい話になってしまいます。ただ、言い方は悪いですが電動感が楽しめるだけのハイブリッドでも出す意味はなかったのだろうか?と少し思います。

持っている技術をなんとか市場に合わせるべくアレンジする。その努力は本当に足りていたのでしょうか?

例えば他社の話ですが、今年国内に出たスズキ・フロンクスはそもそもインド生産のグローバルカーで、ストロングハイブリッドもないことから、他社では日本導入をあきらめていたかもしれません。

スズキ フロンクス(写真=IXTA9839/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

しかしスズキ開発陣はなんとインド工場にプロペラシャフト製造ラインを追加し、日本仕様専用に4WDを設定、インド仕様には必要のない最新先進安全技術も搭載し、専用の足回りに専用内装を組み付けて日本クオリティに仕上げました。その努力はなかなかのものです。

なにより日産は国内で車種がホントに少なすぎます。今さらトヨタと比較するのは酷ですが、流行りのSUVで比較してみましょう。

トヨタが、小さい順にダイハツ製造のライズ、トヨタ独自開発のヤリスクロス、カローラクロス、RAV4、ハリアー、クラウンクロスオーバー、クラウンスポーツ、ランドクルーザー70、250、300、ハイラックスと10車種以上用意するのに対し、日産はハイブリッド系でキックスとエクストレイル、BEVでアリアの全3種類のみ。

これでは台数を伸ばそうと思っても伸ばせません。

■欲しいクルマが少ない上、供給が迅速に行われていない

もちろんこれはカルロス・ゴーン時代に培った「日本より海外を重視する戦略」の裏返しで、その分北米や中国で伸びていればいいわけですが、現実そうなってはいません。結局日本も見れていなかった上、海外主要マーケットも完全には読み切れていなかった。厳しい言い方にはなりますが、そういうことになってしまいます。

さらにBEVに注力していた日産ですがフラッグシップSUVのアリアは国内で22年頭に納車して以来、一部限定仕様を除き、ベーシックグレードしか売られてませんでした。人気の4駆のトップグレードはなかなか手に入れられなかったのです。

同様に数はさほど出ませんが、スポーツイメージを左右する日産フェアレディZも発売してすぐに注文がいっぱいになって受注停止。先日11月に2025年モデルを2月に発売すると発表しました。

欲しいクルマがそもそも少ない上、供給が迅速に行われていない印象です。

そのほか国内に限っては、今やラージミニバンで人気絶頂を誇るトヨタ・アルファード&ヴェルファイアに唯一対抗できる日産エルグランドですが、2代目までは売れましたが2010年発売の3代目が不振。以来14年間フルモデルチェンジされていません。来年行うと噂されていますが、やはり遅過ぎます。

日産・エルグランド 250ハイウェイスター プレミアム 2020年モデルの特別仕様車、アーバンクロム(写真=Kazyakuruma/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■理念の前にお客の欲しいクルマ

一時期大人気だった背高コンパクトカーのキューブも2020年に3代目と共に生産終了ですし、3列シート版のキューブキュービックは2代目で消え去っています。

終盤、売れなくなってきていたのは事実ですが、代わりのクルマも出ていません。特に3列シートのコンパクトミニバンは、現状トヨタ・シエンタとホンダ・フリードの独占マーケット。車種があれば第三勢力でもある程度は販売数も見込めるので、続編があっても全くのノーチャンスではないはずです。

どれもほぼ日本マーケット専用車であり、グローバルカーに比べ台数も見込めないので開発に踏み切れないのもわかりますが、それにしても売る車種が少なすぎます。

とはいえすぐに新車開発しろといっても無理で少なくとも2年前後年はかかりますし、今回の危機には間にあわないかもしれません。

とにかく結局のところ自動車メーカーは魅力ある新車を出してナンボ。お客の要望に応えるか、新たなデマンドを生み出すことがすべてです。

それがどこかで当たっていればいいですが、世界的に新車パワーが減っている上、母国・日本で明らかに注力不足。エンジニアのやる気であり、人気車を生み出す勘を養うためにも国内でのヒット作は必要不可欠ではないかと考えます。

今はツラいでしょうが、なんとか日産ファンのためにも頑張ってほしいところなのです。

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
自動車ライター
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3〜4本配信中。
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(自動車ライター 小沢 コージ)