「居場所がないのでは」と感じた

「一難去ってまた一難」ということだろうか。東北楽天ゴールデンイーグルスが揺れている。

 去る11月26日、田中将大(36)が自身のYouTubeチャンネルでチーム退団を表明した。その後の石井一久シニアディレクター(51)のオンライン会見や関係者の話を総合すると、今季推定年俸2億6000万から減額制限(年俸1億円以上は40%まで)を大幅に上回るダウン提示を受け、田中は「居場所がないのでは」と感じ、自ら退団を申し出たという。

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「ファンは田中に同情的です。今季は右肘の手術の影響で一軍登板が1試合だけ。その不甲斐ない成績をシビアに評価しなければならなかった石井SDの立場も分かりますが、それでも田中の退団に地元ファンは怒っており、選手たちも驚いていました」(地元メディア関係者)

 今オフの楽天イーグルスは波乱の連続だ。まず、今江敏晃監督(41)を解任した。その当時に囁かれた言葉は、「また、1年で監督を変えた……」。後任に選ばれた三木肇二軍監督(47)は再登板で、今江監督が10人目の楽天指揮官だったが、うち6人が1年で解任となっている。球団が創設されてまだ20年にもかかわらず、である。

選手との対話を重視している三木監督

「今江前監督は昨季途中、チームの打線低迷を受けて二軍から一軍の打撃担当に配置換えとなりました。その後、好機で打席の回ってきたときや代打が起用される際、後ろから肩を抱き、助言を耳打ちしていました。その選手が結果を出し続けたので、当時は『今江マジック』と呼ばれたものです。監督となった今季は、クライマックスシリーズ進出こそできませんでしたが、球団初となるセパ交流戦での優勝を果たしています。若い指揮官とともにチームが強くなっていくところをファンは見たいと思っていたんですが」(前出・同)

 若い指揮官の解任にファンは疑問を呈し、激怒した。そんな暗いムードを一変させたのが、ドラフト会議でナンバー1内野手の呼び声も高かった宗山塁(22=明大)の指名抽選を引き当てたこと。また、今江監督が11月17日の球団イベントにサプライズ登場したことで、ファンの球団に対する憤りも和らいでいった。そんな矢先に起きたのが「イーグルスの金看板」である田中の退団劇だったのだ。

「田中が球団からの大幅なダウン提示に『居場所がない』と感じたのは本当のようです。ただ、金額の問題だけではありません。年俸額の高さがプロ野球選手の評価でもありますが、球団側とのやりとりのなかで、戦力として期待されていないと感じたようです。昨年オフに安楽智大投手(28)が控え室で起こしたコンプライアンス違反(パワハラ)で田中の名前が出ました。穿った見方かもしれませんが、あの騒動も退団の遠因になっているのではないかという声もあります」(ベテラン記者)

監督への評価も低い?

 年俸額の高さが「プロ野球選手の評価」であることは石井SDを始め、球団幹部も分かっているはずだ。石井SDはオンライン会見で選手を客観的に評価しなければならないことも説明していたが、年俸の話をすれば、再登板となる三木監督についても、不可解な点がある。三木監督の就任会見が行われたのは10月だが、ここで語られたのは三木監督の意気込みだけで、「契約年数、年俸は未公開」。年俸等を明らかにしない理由も説明されなかった。

「今江前監督は2年契約でした。契約年数を未発表にすれば、1年で解任になったとしても、ファンからの批難は出ません。今江前監督を解任した際の批難がもっとも大きかったと聞いているので、その辺りを意識したのでしょうか」(前出・同)

 また、年俸の高さは、球団の監督に対する敬意でもある。楽天監督を経験した大久保博元氏(57)も自身のYouTubeチャンネルなどで語っているが、同球団の一軍監督に提示する年俸は他球団よりも低いという。同氏が楽天監督に就任したのは15年だが、その打診があった際、前巨人監督の原辰徳氏(66)に相談したという。

 原氏は「(年俸が)1億円以下なら断れ」と助言、そのときは年俸のことはあまり考えていなかった そうだが、引き受けてから「1億円」と言われた意味が分かったそうだ。

 当時の選手名鑑などによれば、大久保氏の監督としての推定年俸は4500万円。それでも、交渉過程でアップされたと言う。野村克也氏、星野仙一氏、ゼネラルマネージャーを兼務した石井氏は推定1億円だが、今江前監督は推定4000万円。他の歴代監督たちも4000万円台だったと予想される。

「初代監督の田尾安志氏(70)は5000万円だったと言われていますが、実際はもっと安かったそうです。野村氏が監督を引き受ける際も『私にもプライドがある』と言って、提示額を見て怒ったくらいです」(NPB関係者)

 プロ野球監督の年俸額が1億円を超えて久しい。こうした情報を総合すると、楽天は監督に高額年俸を提示しない球団のようだ。その是非はともかく、原氏が大久保氏に伝えたかった真意は、「提示年俸=評価」、「フロント幹部と対等に話ができるようにする」だったのだろう。1年で解任となった監督たちに大きな落ち度はなかったはず。これでは、監督、コーチたちがフロントと対等に話し合い、リーグ制覇に向けて進んでいけるのか、ファンが首を傾げても当然だろう。

三木監督が着手した「野村教室」

「三木監督はフェニックス・リーグに参加した選手たちにレポートの提出を求めました。見つかった自身の課題、それにどう取り組んでいくのかなどの内容です。文字にすることで学び、覚えることが多いという、野村克也氏の教えによるものです。物足りないレポートであっても監督は全てに目を通し、選手個々と面談をする際にも使いたいと言っていました」(スポーツ紙記者)

 野村氏がヤクルト、阪神、楽天で指揮を執った際、ミーティングの内容をメモする作業に苦労した選手は大勢いたが、誰もが「後の財産になった、選手生活の糧になった」 と話している。こうした三木監督によるチーム改革は進められているが、今回の田中退団によるファンの批判が消えたわけではない。

 去る11月27日のこと。契約更改を終えた選手会長の田中和基(30)が記者団に前に現れ、笑みを見せた。今季出場試合数は68、打率1割2分9厘。本塁打ゼロ、打点1。スタメン出場はわずか1試合だ。大幅ダウンも覚悟して更改に臨んだが、提示された新年俸は推定3000万円。900万円のアップ提示である。

「選手会長としてチームを引っ張り、まとめたことを評価していただきました」

 田中和基は申し訳なさそうに答えたが、球団は数字以外のところもしっかり評価していたわけだ。田中将大がいなくなったから出せたのか。田中和基の説明通りだとすれば、楽天球団は選手を大切にする“ホワイト企業”ということになるが。いずれにせよ、再登板の三木監督が着手した「野村教室」はすぐに結果が出るものではない。金看板・田中将大のいなくなったチームの再構築は始まったばかりだ。

デイリー新潮編集部