それぞれが飛び抜けた個性を持ちながら、あまり干渉し合うことなく認め合っている様子が印象的な大学です。彼らのなかには、若くして才能を認められて大きな舞台で活躍している人もいます。

――海外の大学に通ってみて、日本との差に驚く場面はなかったですか?

まるぼろ:かなりありました。これは『ニューヨーク・タイムズ』でも取り上げられたのですが、私が通っているとき、パーソンズ美術大学の教授陣による25日間のストライキが行われたんです。要求は賃上げで、大学へ行ってもストライキをやっている人たちが校舎を囲んでいて、入れないような状態でした。正直、芸術を学びたくて留学したので、およそ1ヶ月にわたって学べないことは少し不満を感じました。ただ、権利を主張するためにすぐに行動を起こす様子を見ていて、海外の人たちの行動力には感服しました。日本においてはあまり見られないことだと思います。

◆戦争に心を痛めていた「ロシア人の彼氏」

――大切なことですね。多種多様な人種がいると、それだけで驚かされる場面もありそうですよね。

まるぼろ:そうですね。たとえば当時交際していたロシア人の彼氏の話ですが、今回の戦争についてかなり心を痛めていました。彼の家族はウクライナとの戦争に反対し、デモなどに参加していたようです。ただ、ロシア国内で疎まれて、政府から制裁を加えられたようです。ルーツを辿ってイスラエルに引っ越したようですが、そこでも戦争に巻き込まれてしまったようです。彼が平和を望んでいたのを知っていただけに、私にとっては否が応でも世界情勢に関心を持たざるを得なかった経験ですね。

――海外暮らしで、ひやりとする場面はありませんでしたか?

まるぼろ:ありました。ニューヨークの空港に到着したとき、空港のユニフォームを来たタクシードライバーが近づいてきたんです。早速乗り込んで目的地についたのですが、ドアを開けてくれないんですよ。それで、「1000ドルになります」って(笑)。日本円で10万円を超える金額です。さすがに法外すぎるので交渉して、結局300ドルを支払いました。どうも正式なタクシーではない詐欺師に騙されてしまったようです。ドライバーは黒人の大柄な人で、怖かったですね。ほかにも、空港でウーバーを呼ぼうとしたら「ここはウーバー来ないよ」とか言って無理矢理スマホを奪おうとしてくれる人もいましたね。あれも怖かったです。

◆将来を見据えて「日本の最高峰を目指す」

――件の投稿がSNSで話題になっていましたが、トロント大学はかなり優秀ですよね。なぜ東京大学に行こうと思ったのでしょうか?

まるぼろ:トロント大学は、パーソンズ美術大学ともまた趣が違って、勉強をかちっとやってきた人たちが集まってきている印象です。いわゆる学力でいうと、私はそんなに高くない方だと思っています(笑)。直球ではなく変化球で勝負するタイプというか。ただ、自分で決めたことをやり抜く力に関しては、少しだけ自信を持っています。

 パーソンズ美術大学を受験するときも、誰の手も借りずに合格を勝ち取れたんです。親にも受験することを言いませんでした(笑)。というのは、ボストンから一時帰国してバンクーバーへ転校するとき、親から「大学でUBC(The University of British Columbia)に進学するなら、バンクーバーへ行っていい」と言われていました。その約束を守るため、UBCからの合格を勝ち取ったうえで、パーソンズ美術大学に進学したいと希望を伝えました。

 件のポストに関連してですが、トロント大の内部からの受験で東大を目指すという意味です。一般受験ではないので、そのあたり誤解があると困るなと思って(笑)。私が東京大学を目指す理由は、将来的に起業をしたいと思っていることと関係するかもしれません。日本と世界の橋渡しができる会社を立ち上げたいのですが、よく考えてみると日本の大学で学んだ経験が私にはありません。海外の経験があっても、日本のことを知らなければ片手落ちですよね。だから、日本の最高峰を目指してみようかなと思ってポストしたんですよね。思わぬ反響があって、驚いていますが(笑)。

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 まるぼろさんは肩に力を入れずにゆったりと話す。やり遂げたいことに囲まれて、新鮮な日々を好奇心とともに生きている。あらゆる人種のなかで揉まれ、そのすべてを広い視野に捉えながら自分の芯を崩さない。

 国際感覚を持ちながら日本から多くを学ぼうとする貪欲な若き才媛から目が離せない。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki