<亀山早苗の恋愛時評>
次々と報道される有名人の結婚離婚。その背景にある心理や世相とは? 夫婦関係を長年取材し『夫の不倫がどうしても許せない女たち』(朝日新聞出版)など著書多数の亀山早苗さんが読み解きます。(以下、亀山さんの寄稿)
◆スピード婚、夫への不信感、子との生活を選択した菊川怜の生き方
女優の菊川怜さん(46歳)が突然、離婚を発表した。そういえば結婚発表も突然だった。帯の情報番組MCをしていた2017年に、実業家で投資家の穐田誉輝(あきた よしてる)氏と交際数か月で結婚したのだ。9歳年上、スピード婚、相手は資産200億円とも300億円とも言われていた。
玉の輿なのかトロフィーワイフなのかと口さがない報道もあった。そして結婚前後に飛び出したのは、穐田氏が3人の女性との間に婚外子が4人いるというニュース(『週刊文春』2017年5月25日発売号)。菊川さんは事前に聞かされていたと気丈に語った。
だが結婚して数か月たっても、まだ同居していなかったことから、いろいろ噂が乱れ飛んだ。東大卒のエリートである菊川さんだが、ほとんどスキャンダルも恋愛報道もなかった人だ。
結婚後も穐田氏は“17歳の高校生と交際、その子がのちに出産した”という噂(『週刊文春』2017年5月25日発売号による報道)もあった。真相はわからないが、菊川さんの結婚生活は茨の道の始まりだった。
◆女性用風俗経営者役でドラマ復帰に見えた吹っ切れた感
その後、現在5歳になる第一子を筆頭に3人の子がいることから、結婚はうまくいっていると思われていた。
彼女自身、ほとんど表舞台に出てくることもなかった。だが今年の春の連続ドラマ『買われた男』で、突然、女優として復帰した。
女性用風俗が舞台のこのドラマで、彼女はセラピストの男性たちを束ねる経営者として登場した。以前では考えられないような役どころだ。ショートカットでさばさばした雰囲気を醸し、悩める男性キャストたちに的確なアドバイスや気づきを与える役で、8年ぶりのドラマ出演と思えないほどこなれた演技を見せた。
失礼ながら正直言って、最初は誰だかわからず、彼女と知って「こんなに演技うまかったっけ」と思ってしまったほどである。
子どもが少し大きくなってきたので復帰と本人は言っていたようだが、とはいえ第三子はまだ2歳。しかも見た目も演技も、何かが吹っ切れたような感があると思っていた矢先の離婚発表となった。
◆5年間に3人出産、それでも夫は変わらない?
今になって出てくる情報によれば、結婚前に婚外子の存在を知っていたと話していたが、どうやら知らなかったらしい。さぞ悩んだことだろう。
だがおそらく、彼の謝罪もあり、「こういう人だけど受け止めよう」と心に決めて結婚に踏み切ったのではないだろうか。もう少し交際が長ければ、そんな彼の噂も耳に入ってきたかもしれない。
一般論だが、東大卒、なおかつ見目麗しい女性となると芸能人でなくても、なかなか釣り合う男性がいないのかもしれない。男がドン引きしてしまうパターンである。だから、というわけではないが菊川さんも当時39歳。
このままだと結婚はともかく、出産は間に合わないという焦燥感があったのかもしれない。夫の瑕疵(かし/傷、欠点)には目をつむり、未来を見ようと決めたのではないだろうか。
そして5年間に3人の子を産んだ。これまた一般論だが、夫を信用できなかったり夫との仲を修復したかったりすることから、次々と子どもを産むケースは少なくない。
穐田氏は自分が代々続く家系の14代目と言っていたようだから、第一子が男の子だったことで喜んだはずだ。だから続けて次男を産んだ。それでももしかしたら夫は変わらなかったのかもしれない。
その「変わらなさ」が女性問題なのか、家庭に目を向けないことなのかはわからないが、とにかく妻の心に寄り添ってくれなかったのは明らかだろう。3人目は女児だが、今度こそ、変わってくれるのではないかという期待があったとも考えられる。
◆「夫をあきらめる」のではなく、いさぎよく離婚した菊川怜
それでも夫というものは変わらないのだ。一般的な夫婦の場合、妻は静かに夫を「あきらめて」いく。そして夫のATM化が始まる。それに気づいた夫は家庭内に居場所を感じられなくなり、さらに夫婦仲は冷え切っていくという負のスパイラルに陥(おちい)る。
ところが菊川さんは、そうはしなかった。仕事に復帰してみて、これならやっていけると手応えも感じたのだろう。潔(いさぎよ)く離婚を選んだ。
彼女は子どもたちを連れて実家に戻っているようだ。これもまた、離婚には適した環境があったといえる。
祖父母が子どもたちを見てくれるなら、自分は安心して思いきり仕事ができる。子育てという意味で親に助けてもらったとしても、独身時代と違って親に依存する関係性にはならないだろう。2級建築士の資格ももっているのだから、そのアイデアを生かした仕事もあるかもしれない。夫の収入を考えれば、養育費もきちんと支払ってもらえるはず。
夫というストレッサーを「排除」すれば、これからの自分と子どもたちの未来が見えてくる。長男が入学する前に答えを出したいという気持ちもあったのではないだろうか。子を優先させる母の心理が見えてくる。
◆「離婚」はネガティブではなく、人生の始まりかもしれない
「離婚」は必ずしもネガティブな結論ではない。父親は父親としての責務をこれからも果たすだろうし、子が望めば親子の縁が切れるわけでもなさそうだと思えば、あとは夫婦が大人の決断をするだけだ。
離婚発表時、彼女は昨年ばっさり切ったショートヘアと、真っ白な衣装での颯爽(さっそう)とした姿をSNSにアップした。思えば、東大卒タレントでありながら、彼女自身はあまりそういうことを吹聴していなかったし、情報番組を担当しているときも自分の意見をゴリ押しするよりは周りとの協調を考えているように見えた。
ここからが、親からも夫からも自立した、彼女自身の人生の始まりなのかもしれない。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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