毎週木曜日よる10時から放送されている『わたしの宝物』(フジテレビ)に出演する深澤辰哉の演技を見て強く思った。
このさりげない名演は単なるアイドル俳優枠などではないのだと。見る者の心を一瞬でとらえる。映画的な才能の人なんだと。第1話初登場の瞬間を見たら、うなずけると思う。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、俳優としてどんどん重宝される存在になると確信した、本作の深澤辰哉について解説する。
◆どこからともなく聞こえるその声は……
筆者は映画畑の人間だから、テレビドラマにもなにか映画的なものを求めてしまう。同じ映像作品でも映画とテレビドラマではやっぱり全然違う。乱暴な言い方を許してもらうなら、後者は視覚より耳で聞くことを特性としている。つまり、セリフを聞くだけで作品を理解することができるように作られている。
でもそうしたテレビドラマにもワンショットがどうのカットがどうのと、筆者は視覚的な要素を愛でていたい。あえてワンショットという言葉を持ち込んでその魅力を語りたいテレビドラマを見たからでもある。松本若菜が夫からしいたげられる専業主婦を演じる『わたしの宝物』だ。
第1話、外ではいい夫を演じ、家ではひたすら妻にキツくあたる神崎宏樹(田中圭)に、ふっとやわらかな嫌気がさした神崎美羽(松本若菜)がふらりと図書館に行く。「懐かしい」といって手に取った図鑑を眺めていると、「夏野」と誰かが自分を呼んでいる。どこからともなく聞こえるその声は……。
◆ワンショットの空白を置いた初登場
誰だろう、聞き違い? と美羽が顔をあげる。自分の名前を呼んでいる様子の相手はいない。大抵のテレビドラマなら、ここですぐに相手がでてくる。でもあえてでてこない。美羽が声の相手を探す後ろ姿を捉えた引きの画がぽんとワンショット。なんか映画っぽい。
このワンショットの空白を置いて、ある人物が初登場する。美羽とは幼なじみ。よく図書館でともに時間を共有していた冬月稜(深澤辰哉)である。美羽がぱっと横を向くと稜がさぁっと登場する。
稜が「夏野」と繰り返す笑顔を見たこの瞬間以降、ふたりが恋仲になることが瞬間的にわかる。いい。実に的確な演出である。やっぱりテレビドラマにも映画的な空気感、呼吸感がこうして宿る瞬間が確実にある。
◆深澤辰哉が提示する存在の主張
空白のワンショットで一呼吸、しっかり丁寧に置いたことで、そのあとの深澤辰哉の初登場がぐんと引き立つ。直前の空白を残像としてだぶらせるかのように、今そこにちゃんといますよという存在のさりげない主張。
他の俳優なら間延びしていたかもしれない。これは絶対に深澤辰哉でなければいけない。みたいな存在の主張を提示している。深澤辰哉は、画面から浮き立ちながらも画面に溶けいる。
存在そのものの呼吸が聞こえる。だから「夏野」と呼ぶ、その呼び声が強調される。美羽にとっては美しい記憶を呼び起こす声。でも物語上の意味をはるかこえて、深澤の声はぼくらに直に語りかける。
◆段階的に変化したふたりのささやき
美羽と稜は、中学生以来の再会だが、お互いに相変わらずだな、なんだのと、時間の隔たりを感じさせない。図書館だというのに、周囲を気にせず興奮気味に会話するふたりに対して、図書館内の静寂をかき乱す声量に対して、画面外から咳払いで注意される。
稜も着席して仕切り直す。近況を報告し合う。声量はそれほど変わらない。するとまた会話が白熱する。今度は「お静かにお願いします」としっかり怒られる。さすがにひそひそ声になる。この声量の変化は、耳で聞かせるだけでなく、目でしっかり見る声として演出されている。
このさりげない名演は単なるアイドル俳優枠などではないのだと。見る者の心を一瞬でとらえる。映画的な才能の人なんだと。第1話初登場の瞬間を見たら、うなずけると思う。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、俳優としてどんどん重宝される存在になると確信した、本作の深澤辰哉について解説する。
◆どこからともなく聞こえるその声は……
筆者は映画畑の人間だから、テレビドラマにもなにか映画的なものを求めてしまう。同じ映像作品でも映画とテレビドラマではやっぱり全然違う。乱暴な言い方を許してもらうなら、後者は視覚より耳で聞くことを特性としている。つまり、セリフを聞くだけで作品を理解することができるように作られている。
でもそうしたテレビドラマにもワンショットがどうのカットがどうのと、筆者は視覚的な要素を愛でていたい。あえてワンショットという言葉を持ち込んでその魅力を語りたいテレビドラマを見たからでもある。松本若菜が夫からしいたげられる専業主婦を演じる『わたしの宝物』だ。
第1話、外ではいい夫を演じ、家ではひたすら妻にキツくあたる神崎宏樹(田中圭)に、ふっとやわらかな嫌気がさした神崎美羽(松本若菜)がふらりと図書館に行く。「懐かしい」といって手に取った図鑑を眺めていると、「夏野」と誰かが自分を呼んでいる。どこからともなく聞こえるその声は……。
◆ワンショットの空白を置いた初登場
誰だろう、聞き違い? と美羽が顔をあげる。自分の名前を呼んでいる様子の相手はいない。大抵のテレビドラマなら、ここですぐに相手がでてくる。でもあえてでてこない。美羽が声の相手を探す後ろ姿を捉えた引きの画がぽんとワンショット。なんか映画っぽい。
このワンショットの空白を置いて、ある人物が初登場する。美羽とは幼なじみ。よく図書館でともに時間を共有していた冬月稜(深澤辰哉)である。美羽がぱっと横を向くと稜がさぁっと登場する。
稜が「夏野」と繰り返す笑顔を見たこの瞬間以降、ふたりが恋仲になることが瞬間的にわかる。いい。実に的確な演出である。やっぱりテレビドラマにも映画的な空気感、呼吸感がこうして宿る瞬間が確実にある。
◆深澤辰哉が提示する存在の主張
空白のワンショットで一呼吸、しっかり丁寧に置いたことで、そのあとの深澤辰哉の初登場がぐんと引き立つ。直前の空白を残像としてだぶらせるかのように、今そこにちゃんといますよという存在のさりげない主張。
他の俳優なら間延びしていたかもしれない。これは絶対に深澤辰哉でなければいけない。みたいな存在の主張を提示している。深澤辰哉は、画面から浮き立ちながらも画面に溶けいる。
存在そのものの呼吸が聞こえる。だから「夏野」と呼ぶ、その呼び声が強調される。美羽にとっては美しい記憶を呼び起こす声。でも物語上の意味をはるかこえて、深澤の声はぼくらに直に語りかける。
◆段階的に変化したふたりのささやき
美羽と稜は、中学生以来の再会だが、お互いに相変わらずだな、なんだのと、時間の隔たりを感じさせない。図書館だというのに、周囲を気にせず興奮気味に会話するふたりに対して、図書館内の静寂をかき乱す声量に対して、画面外から咳払いで注意される。
稜も着席して仕切り直す。近況を報告し合う。声量はそれほど変わらない。するとまた会話が白熱する。今度は「お静かにお願いします」としっかり怒られる。さすがにひそひそ声になる。この声量の変化は、耳で聞かせるだけでなく、目でしっかり見る声として演出されている。
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