そうすると妻はいきなり表情が変わり、眼光が強くなり、緊張感を漂わせる感じで自室へ行くと、「ある封筒」を持って帰ってきました。封筒の表面には鑑定機関の会社名が書かれていました。そして優斗さんが封筒を開けると、鑑定書が入っており、そこには「被験者同士は生物学的に親子関係があると判断されます」という文字と、「99.9999%」と確率が表記されていました。優斗さんは自分と息子さんが親子ある確率が99%だと思い、一瞬だけ安堵しました。

けれども、被験者として表記されていたのは優斗さんではありませんでした。それは元彼の名前。つまり、息子さんの父親は元彼、そして優斗さんは父親ではないことが明らかになったのです。さらに妻は「こういうこと。私は何も言わないわ。あなたが考えて……私は言う通りにするから」と。

離婚を決意したものの、息子との関係をどうするか

優斗さんが鑑定書の写メールを片手に筆者の事務所へ相談しに来たのは、妻から匙を投げられたタイミングでした。優斗さんはどのような判断を下したのでしょうか?

「妻の人間性に失望しました。離婚することには何の抵抗もありません。これ以上、妻に裏切られるのはこりごりなんです」と妻との関係に終止符を打つことを即決したのです。厚生労働省の人口動態統計によると2023年の離婚件数は183,814人。一方、結婚件数は474,741人なので3組に1組は離婚する計算です。そのため、夫婦が離婚すること自体は珍しくはないのですが、優斗さんの場合、離婚とは別の問題を抱えていました。

それは息子さんと「親子」を続けるかどうかです。現在、息子さんの戸籍の父親欄には優斗さんの名前が記載されています。家庭裁判所に嫡出否認の申立をし、優斗さんと息子さんのDNAを鑑定し、科学的に「親子ではない」と判定されれば、父親欄を白紙にすることが可能です(民法774条)。今年4月から法律が改正され、申立の期間が延長されました。具体的には子どもの出生から1年が3年に変更されたのです(民法777条)。

◆「息子とは別れたくない」からこそ…

息子さんはまだ3歳に達していないので、まだ間に合います。未成年の子がいる場合、夫婦が離婚する際、どちらが子どもを引き取るのか……親権の所在を決めなければなりません(民法818条)。優斗さんの場合、育児をほぼ担っているのは妻。離婚後も妻が息子さんを育てれば、離婚による影響を最小限にとどめることができるでしょう。優斗さんは「息子から母親を奪うなんてできません!」と言います。そのため、息子さんの親権は妻が持つという前提で話が進んでいきました。

それを踏まえた上で筆者が「どうしますか?」と尋ねると、優斗さんは妻のことに対して即断即決だったにもかかわらず、息子さんのこととなると煮え切らない態度をとります。

優斗さんは「息子はとても可愛いです。僕のことをパパと慕ってくれます。だから僕の子なんだと2年間、騙し騙しやってきました」と苦しい胸のうちを吐露します。さらに「今までいろいろなところへ遊びに行きました。たくさんの楽しい思い出があります。だから、妻はともかく息子とは別れたくないのが正直な気持ちです」と続けます。

親権を決めるにあたり、優斗さんは息子さんへの影響を第一に考えていました。そのため、優斗さんは「息子に罪はありません。かわいい息子を傷つけたくはないんです!」と訴えかけます。

◆元彼が愛情を持っていれば、今の状況になっていないはず?

元彼は自分のDNAを提出しているので、妻から鑑定の結果、自分が本当の父親だと聞かされているでしょう。もし、息子さんに愛情を持っていれば、離婚するのを待たずに、もっと早く迎えに来るはずです。なのに、今の今まで何も動きませんでした。筆者は「元彼は息子さんのことを何とも思っていませんよ」と指摘しました。