最初はちょっと面倒だと感じた、靴を脱ぐ習慣がすっかり身についた彼は、アメリカの自宅では、靴を脱ぎたくない来客用に、玄関に使い捨ての靴カバーを置いているとか。

◆言葉の壁を丁寧にやさしく受け入れてくれる日本人

日本国内の短期出張が多かった空軍時代。北海道へ行ったときは、同僚とお酒を飲んだ後に立ち寄ったラーメン横丁で、まだ20代だったジェイムスさんを地元のおじさんたちが優しく受け入れ、意気投合したエピソードを語ってくれた。

同僚たちが先に宿舎へ帰ってしまった後も、ひとり店に残り、おじさんたちからズーズーと音を立てて食べる、ラーメンの正しい食べ方をおしゃべりしながら学んだそうだ。ここまで話を聞くと、日本語が達者だと思いきや……実はジェイムスさん、日本語はほとんど話せない。

5年間の日本生活で覚えた日本語は「どうもありがとうございます」「おはよう、おやすみ」「こんにちは、こんばんは」「行ってきます、行ってらっしゃい、おかえり」「いただきます、ごちそうさま」などだそう。

ちなみに「ありがとう」だけ、なぜ「どうも」という丁寧な言い回しなのかと尋ねたところ、アメリカ出身のロックバンド・スティクスの80年代の曲の中にある「ドモアリガト・ミスター・ロボット」という歌詞が頭に残っているからだと、実際に陽気に歌ってみせるひょうきんな彼だ。

「今でこそスマホに翻訳アプリを入れて会話をする人が増えているが、ジェスチャーと英語だけでも会話が成り立つのは、日本人が外国人に対してオープンで、目の前の相手を理解しようという優しい想いが強いからかもしれない」と続けるジェイムスさん。

「日本に来ている自分が、本当なら日本語を話す努力をしなければいけないのに、英語でゆっくり話したら通じるとでも思っていた若僧の自分に、多くの日本人は面倒くさそうな顔をせずに、一生懸命理解しようとしてくれた」

そんな素朴でフレンドリーな人たちの笑顔と、誠実さがにじみ出る日本人とその文化に魅力を感じるというジェイムスさん。最後に優しくも真剣な表情でこう語ってくれた。

「心の温かさと美しい文化をもつ日本は好きだ。同時に、過度の礼儀や形式に囚われ過ぎて窮屈そうだという印象もうける。もっと肩の力を抜いて、自分の気持ちや意見を自由に表現することで、一人ひとりの誠実さと思いやりの心がさらに生かされると思うよ!」

<取材・文/トロリオ牧(海外書き人クラブ)>

【トロリオ牧(海外書き人クラブ)】
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでウェイトレスや保育士などの様々な職種を経験した後、アメリカ政府の仕事に就く。政府職員として17年間務めるがパンデミックをきっかけに「いつ死んでも後悔しない人生」を意識するようになり2023年辞職。RVキャンプやオフローディングを楽しむのが最高の癒しじかん。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員