まず姿を現したのはベアシャシーだった。マラネッロがこんな演出をすることも珍しい。よほど中身に自信があるということか。否、それならいつものことだろうけれど?

その姿を見て理由がわかった。カノジョのハダカが神々しいまでに美しいのだ。これは見せずにはいられない。

続けてボディシェルを被せた赤いF80が登場する。そしてさらに理解が進んだ。なるほど、ほとんどレーシングカー的であり、そこに例えばデイトナSP3のようなエレガンスはまるでない。あくまでもシンプルに、まるで板かまぼこのようなシンプルさの上半身に、フロントからリアまでぐるりとエアロダイナミクスを駆使した下半身の組み合わせ、恐ろしく低く傾斜したキャノピーに可変式リアウィングというスタイルは、もはや公道には似合わない。誤解を恐れずに言えば「速いクルマは美しい」という時代が終わったようにも思えた。

もちろん、カンファレンスが終わって真っ先に向かったのは奥に置かれたベアシャシーだった。ホイールベースはラ フェラーリと同じながら、タブと床下はF1のよう。前後のパワートレーンも相当コンパクトにまとめられており、そこにマルティマチックと共同開発したアクティブダンパーシステムが収まる。サスペンションに注目すれば、最近流行りの3D金属プリンター製アッパーアームが目に留まった。

リアのV6ハイブリッドパワートレーンはかなり低く配置されており、そのためリアデュフューザーのスペースを稼ぐべく、1.3度傾けられたという。

前から眺めると、そのスタイルはさらに”異様”だった。昔のカンナムマシンのようにノーズからシールドにかけてカウルが滑らかに上がっていく。あまりにシンプルすぎたから、だろうか?ドーディチ・チリンドリ風のデイトナマスクがなかば無理やり組み込まれていた。ヘッドライトはブラックアウトされた中に沈んで、一見、ノーライト風だ。これまたレーシングカー的に見える要因だろう。

フェンダー周りはF40をモチーフにしたというが、ドア周り以外の造形がこれまたシンプル。リアに至ってはまるでロボットフェイス。もちろんデザインの良し悪しは好みである。スーパーカーらしさの定義がまたマラネッロによって変えられようとしているのかもしれない。価値観を含めた”世代交代の画策”とも言えるだろう。

その夜。すでに購入権を持つという複数のオーナーと会うことができた。マラネッロはプレス発表を前に600人ほどのポテンシャルカスタマーを招待し、同じように見せていたのだ。ただし、車名と値段(台数)を秘して。

「ベアシャシーを見た瞬間、これは買わなければならないと思った」、「ボディを被せないで走らせたい」、「この中身に好きなデザインを被せるワンオフが最高かも」、などと皆、言うことは同じだった。ただし、デジタライズされた若い世代はスタイルも肯定的で、アナログ上等な旧世代ほど疑問符が増えるようだ。

日本からは60人程度がマラネッロを訪れたらしい。ちなみに気になるお値段は、ビリオネアも驚くことだろう、なんとなんと3.6ミリオンユーロ。世界限定799台と、これまでに比べて多いと感じるのは、ひょっとしてアペルタがないから、だろうか?F40のように?その代わり、F40にはLMがあった。電気モーターの出力増には余裕がありそうだ。F80LMなんてのが出てくれば、面白いことになると思う。

マラネッロはいつも我々の想像を超えてくる。これだけは今も昔も、変わらない。

文:西川 淳 写真:フェラーリ
Words: Jun NISHIKAWA Photography: Ferrari