資産価格が割高テリトリーに向かっているのは住宅も同様である。ケースシーラー住宅価格指数(2000年=100)は、2006年のピーク(184)から2012年は134へと27%下落したが、2022年には308まで上昇し、10年間で2.3倍となった。その後、2023年初に5%下落したが、2024年6月には325ポイントへと1年間で10%上昇した。現在のレベルはサブプライム住宅バブル時と比し、77%高となっている。

 もっとも、2006年の水準を超えて高騰した住宅価格をバブルと即断するべきではない。(1)販売される住宅の質の上昇、(2)家賃の上昇(=投資採算の向上)、という要素が考慮されるべきである。とはいえ、この両者を加味した均質価格ベースの住宅価格の対賃料倍率は2022年6月比では10%低下したものの、水準はリーマン・ショック時を上回っている。米国住宅は空き家の低下に見るように恒常的供給不足にあり、金融引き締めで住宅が買いにくくなったにもかかわらず、価格が下がらないという構造的問題がある。

 このように見てくると、米国の資産価格はバブルに向かって走り出す寸前にあるように見える。真のリスクは高騰した資産価格が米国長期金利の急騰によって正当化できなくなった時であろう。米国財政赤字の定着も金利上昇要因である。米国では株から債券への投資資金のシフトが起きようとしている。

 このリスクを抑えているものは(1)米国の潤沢な国内貯蓄と、(2)FRB(米連邦準備制度理事会)に対する信認の強さが、この2つが金利急騰を抑えている。このことが米国中立金利の上昇の背景にあると考えられる。

(3)中国不動産バブル、住宅保有の国有化に向かわざるを得ないだろう

 中国の不動産バブル崩壊は確定的であり、修復の見通しは立たない。弥縫策を連発し、目先の安定を演出することが続くだろう。中国バブルは日本よりはるかに深刻であり、究極の解決策は社会主義化(=個人所有の否定)かもしれない。いずれ50兆元(1000兆円)以上の巨額の公的資金投入でバブル崩壊による損失を政府に移転することが必須となるだろう(注1)。それにより企業・家計の損失処理、バランスシート健全化が期待されるが、その後、支援を受けた企業や銀行が資本主義的主体として再生されるだろうか。資本の規律に基づく厳しい不良債権処理(=将来キャッシュフローをベースにした不良債権査定)、金融構造改革が行われないと、経済主体は陶冶されずゾンビ化してしまう(注2)。

(注1) 時期尚早かもしれないが、中国で不良債権最終処理額がどれほどになるか、頭の体操をしておこう。①地方政府の別動隊、地方融資平台の債務残高66兆元(=1300兆円)、②家計債務の累積額(2009~2022年)10兆ドル=70兆元、③中国国内の売れ残り新築物件の在庫は6000万戸(単価2000万円と見積もっても1200兆円=60兆元)などから、ざっと見積もっただけでも1000兆円、50兆元以上に上るだろう。それは110兆元のGDP比約5割に相当する。

(注2) 日本の場合、地価はピークから8割下落して底入れした。この間発生した不良債権は100兆円、対GDP比20%の不良債権が処理がされたが、金融不良債権処理期間(1996年から2006年まで)に日銀のバランスシートは50兆円から150兆円へと100兆円増加し民間の損失がカバーされた。桑原稔氏によると、この100兆円の損失は公的資金注入38兆円、有価証券含み益の充当(ピーク1990年時50兆円)、銀行の利益剰余金処理によってカバーされた。

 中国の住宅価格は新築で10%弱、中古で20%弱の下落にとどまっている。これまでは価格統制により下落は限定的だったが、その分取引量が急減(今年1~7月対前年比24.3%減、ピークの2021年比では半減以下)となっている。よって、統計上も企業財務上も日本で起きたような規模での不良債権は未だ発生していない。その結果、恒大集団、碧桂園などの事実上の破綻企業が追い貸しによって生かされている。当然のこととして住宅価格の先安観が定着し、不動産取引が激減しているのである。