コロナ禍での外出制限では、焼肉はテーブルごとに吸気ダクトが備えられた店内設備が「換気がいい=3密回避」とのイメージが定着して安心できる外食であると評価された。そこに、低迷していた居酒屋などからの業態転換も多く、今となっては店が増えすぎたことによる、オーバーストア状態も経営不振の原因である。これまでの食肉価格の高騰・競争激化・値上げが困難の三重苦で、焼肉店の経営環境は厳しさが続くとみられる。

◆時代の変化に対応してきた焼肉の歴史

 焼肉は高いものというイメージが定着していたが、1990年代、焼肉のファミレス化が進展して拡大した。筆者もその頃、焼肉業界に属しており、現場と本部からその勢いを目の当たりにした。

 焼肉は老若男女問わず人気で、ここ最近は元気な肉食シニアが増えており頼もしい限りである。贅沢な食事だった焼肉が1991年の牛肉の輸入自由化をきっかけに、安く食べられるようになった。今となっては当たり前にある焼肉食べ放題も、仕入れ原価が低くなったから可能になった商品であり、食べ放題文化を30年以上にわたり浸透させてきたのである。

 2001年9月に発生した国内でのBSE問題、さらには2003年の米国産牛肉のBSE問題の表面化、2011年には5人が死亡した焼肉チェーンの集団食中毒事件で、定番である生レバーやユッケが販売禁止になり、お店で食べる魅力が欠けてしまった。

 人気は根強くあり、徐々に復活はしてきたが、昔ほどに回復はしていない。そういった中、お客さんの知識が豊富になり、店を選択する目が厳しくなってきた。店の思惑通り、一方的に儲けられなくなり、品質と価格のリーズナブルさなどで競争力のない店は淘汰される結果になった。

◆大手焼肉チェーンは知恵を絞る

 食べ放題を中心に多店舗展開する大手は、干ばつなど供給要因や為替要因から輸入肉(牛豚)の仕入れ額の上昇に頭を悩ませている。食べ放題を実施する店は輸入牛を使用するのが通常だ。以前は、牛肉だけの注文が集中すると原価的に厳しいから、豚肉にシフトさせるようメニューを工夫していたが、その豚肉さえも高騰中だ。

 お店からすると麺飯類を食べて早くお腹を膨らましてほしいが、「それは別腹」「焼肉だから肉を食べねば」という客も多く、そう簡単に店の思惑通りにいかない。最近は、ご飯の仕入れ値も上がって深刻だ。肉類の高騰からしたら影響度は小さいかもしれないが、焼肉には白米がよく合うから店にしては困った問題だ。

 ということで、大手焼肉チェーンの戦略は、肉以外の低原価の一品メニューも食べ放題にして魅力度を高めつつ、原価率の高い肉の追加量を抑え、原価を圧迫させずお腹を満たしてもらうというものである。お客さんも色々と食べられ、店側も原価低減に繋がる。双方が満足できる食べ放題だ。

◆人件費の抑制にも限度がある

 一般的に外食店は、FL(原価・人件費)コストの管理が重要で60%以内に抑制しないといけない。そもそも焼肉は、調理のメインである「焼く」をお客さんに任せることと、一品メニューを簡単メニューにすることで、職人の必要がなく、コックレスの仕組みを確立して人件費を抑制できる特性がある。

 職人の高い給料が不必要な分を原価に充当しているから、焼肉食べ放題などは費用構造的に成り立っているものだ。しかし、アルバイトを中心に運営する外食店においても、そのアルバイトは完全な変動費ではないため、あまり削りすぎると定着せず、常に新人で運営すると大きなムダが発生する。

 そのため、店への忠誠度を高めて運営力を強化させる人の管理が重要だ。「企業は人なり」はどんな業種業態でも共通した課題である。