[画像] 実際に引っ越して“最も不便”に感じた地方移住の意外な「デメリット」…東京とは大違いな「ゴミ問題」の実態とは

前もって出すことは許されない

 都会ではゴミ収集が頻繁に来る。少し高級なマンションであれば大抵、ゴミ置き部屋が1階にあり、そこに不燃物・可燃物・缶・瓶・古紙・段ボールといった、収集日が違うゴミを、24時間365日、自分の好きなタイミングで出すことができる。ごみ収集作業の方が回収に来る日に、管理人がそれらを置き場からまとめて出してくれるのだ。だから住人は、ゴミに関しては基本的にストレスフリーで暮らすことができると言えよう。

【写真】ネットニュース編集者・中川氏が疑問を投げかける唐津市専用の「ゴミ袋」

 筆者(ネットニュース編集者・中川淳一郎)は、2020年11月に東京・渋谷から佐賀・唐津へ引っ越した。大都会・渋谷との住環境の違いでもっとも仰天し、かつ、不便に感じたのは、本稿で取り上げる、ゴミ収集のサイクルである。可燃物の収集が週2回というのは東京と変わらないが、不燃物と瓶、資源ゴミ(缶・紙・ペットボトル)は、驚くなかれ、月1回なのだ。ただし、一部高級マンションであればその限りではない。マンションの共同ゴミ置き場に一旦捨て、その後は管理人が中を整頓する。そのため、あまりゴミ出し日は気にしないでいいが、レアケースだ。

「ゴミ出し」は地方暮らしの悩みの種の一つ

 無論、唐津市からは翌年のゴミ収集日のカレンダーが年末に送られるほか、ウェブサイトでも公開をしている。これらにより日程情報は得たとしよう。だが、もし月1回の不燃物・瓶・資源ゴミの日が、出張や旅行と重なっていると、その月はゴミを出せないのである。

 前もって出しておけばいいのでは、ということを都会の方々は思うかもしれない。が、それはできないのである。明文化こそされてはいないものの、これらは収集日の朝3時から8時までに出す必要があり、それ以前に出すと注意されるのだ。各ゴミ収集所はその周辺に住む住民が管理している。そして大抵、収集日の朝6時ぐらいからルール違反をする不届き者がいないかをその現場で監視しているのである。

重要な収入源としての「ごみ袋」

 彼らは、ゴミを出す時間だけでなく、たとえば、規定の袋に入っているかどうかや、ペットボトルのラベルと蓋は取れているかなどもチェックしている。とにかくこの監視人がいると緊張する。唐津に引っ越して間もないころ、瓶の日にビール瓶を持って行ったら「ビール瓶は出せないよ」と言われた。「いや、ビール瓶も出せると市のウェブサイトには出ていましたが……」と返答したら「いや、ダメだよ。持ち帰って」と言われた。

 やはり納得がいかないので家に戻り再びウェブサイトを見たらビール瓶は出していい、と記載されていた。そこで妻のスマホでそのページを見せようと収集所に戻ったら監視人は「いや、ビール瓶も大丈夫でした、すいません」と、一応和解はしたものの、以来、監視人の目が怖くなったのは言うまでもない。

 監視人からは怒られるわ、可燃物以外は月に1回しかだせないわで、地方でゴミを出すのは相当ストレスなのである。しかも可燃ゴミについても、市の税収増加のため、指定の黄色いゴミ袋をスーパー、コンビニ、ドラッグストアで購入する必要がある。「小」が10枚200円、「中」が300円、「大」が400円である。これが市にとっては重要な収入源になっているという。

だったらごみ収集所は使わせない

 このように、ここ唐津には、東京にいた時では考えられないような、難儀なゴミ出し事情が存在する。しかし、さらに困難な話を聞いた。北陸の某市と東京で二拠点生活をする知り合いは、町内会に入ることを拒否した。というのも、町内会に入れば、何らかの行事を仕切ったりする必要が出てくるのだが、もしその時に東京にいた場合は参加できないし、そもそもとして、合理的な人物のため町内会の存在を無駄だと考えているからだ。

 すると町内会は驚きの“報復”に出たのだ。同氏に対し、「だったらゴミ収集所は使わせない」と言ってきたのだ。そこで町内会費を払って収集所を使う、という手はあったものの、何かと煩わしいことは多いし、そもそも参加しづらい状況であることを鑑み、改めて、町内会への参加は断った。

 結局、ゴミを捨てるには、ゴミ袋を車に積んで、大家の家に持っていき、大家さんの使うごみ収集所で捨てる、ということになったという。大家は「そりゃ大変でしたね……」と同情してくれたが、同氏はこのしきたりを時代遅れだと考えている。

別世界のような状況

 このように都会の人からすれば別世界のような状況だが、抜け道はいくつかある。まず、ラベルと蓋を外しておけばペットボトルはスーパーで捨てることが可能なのだ。あと、これはあまりやりたくないものの、懇意にしている飲み屋があれば、瓶と缶はその店に持って行けば回収してもらえる。

 とにかく月に1回しかない不燃・瓶・資源ゴミの日を徹底的に頭に入れ、監視人が出てこないであろう朝3時に捨てに行く、前月に出張があり、出せなかった場合は、一気に2ヶ月分を持っていく、というのが毎月のルーティンになっているのだ。東京から地方への移住をお考えの方は、美味しい空気や大自然ばかりに気を取られず、該当地域のゴミ捨て事情についても、あらかじめ注意されたい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部