さらにこだわったのは味だけではない。普段紅茶を選ばない人が手に取りやすく、パッと見て目を引くようなパッケージを作り込んだ。
「紅茶を普段から選ばない層に向けて、あえて“午後の紅茶らしくない”パッケージに仕上げました。そもそもパッケージを見ただけで『これは紅茶だから買わない』と、即座に判断してしまう人が多いからです。今回はブランドカラーである赤は使わず、英字を並べて、輸入品のような、洒落ている見た目に。初めて見たときに『あ、素敵な飲み物が出ている』と手に取ってもらえる。そんなパッケージを目指しました」
◆SNSで高評価の反面、課題は残る
「これまでのイメージを変える紅茶を作りたい」という想いから、中身やパッケージなど、隅々までこだわった期待の新商品。発売して約2か月、売り上げはいかがだろうか。
「商品自体は、SNSを中心にかなり評価をいただいております。ただ売上については、期待していたよりも厳しい状況です。お店に置いてもらうためには、全ての飲料商品のなかから私たちの商品を選んでもらわないといけません。ただし、夏の季節においては多くの新商品が出る季節。そのためお客様に届けるための多くの工夫が必要なんです」
無糖ブームとはいえ、他業界からも新商品が相次ぐ現状。どんなにこだわった商品だとしても、お店側に売れる商品だと思ってもらえなければ置いてもらえない。また、やっとの思いで置いてもらっても、それが消費者の求めるものになっていなければ意味がない。
「例えば『キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖』。販売した直後は、SNSでもかなり反響をいただき、想像よりも売り上げが伸びた商品となりました。ただ1回バズった後は徐々に落ちてしまっていて。そもそも『ミルクティー=甘いもの』というイメージがあるためか、『甘くないのであれば他の飲み物でもいいや』と選ばれないこともありました。
対して『おいしい無糖』については、40〜50代男性に受け入れてもらえる商品として今も人気が続いています。ただ最近、ジャスミンティーやルイボスティーなどの人気が高まってきたことにより、無糖の紅茶の立ち位置が曖昧になってきています。以前カレーとのペアリングなどを打ち出した際にも、『じゃあ緑茶とは何が違うのか』といった声もあり……。飲料業界全体での無糖紅茶の立ち位置は、考えていかないといけませんね」
◆消費者の“飲用シーン”を提案していく
午後の紅茶と向き合って2年。1年単位で大きく変わるわけではないが、「今と同じことをやっていてはダメ。時代が変わるごとに変化しないといけない」と、西村さんは話した。
同社が「おいしい無糖」を開発した2022年には、“紅茶とお弁当”や“紅茶とカレー”といったこれまでにないペアリングを考案。常に時代の変化に危機感を持って開発に向き合い、社会の需要も踏まえた挑戦を続けている。
「紅茶は嗜好性が高い飲み物であり、アレンジが効く商品です。今後はフルーツ、スパイス、炭酸(ティーソーダ)などと合わせ、より紅茶の強みを生かした商品を開発していきたいと思っています。また『キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION』では、お客様の生活のあらゆるシーンで『リラックスした時間や、ちょっとした楽しい時間を届けられるように』という想いを込め、新しい飲用シーンを提案しました。今後も幅広いシーンで紅茶が飲まれるような社会の実現に向けて、開発や提案を続けていきたいです」
いつの時代も需要にあった商品を開発し、新しい紅茶文化を創造する、キリン。今後も想像しなかったような飲用シーンを、私たちに提案してくれるに違いない。
<取材・文/フジカワハルカ>
【フジカワハルカ】
広島生まれ、東京在住のライター。早稲田大学文化構想学部卒。趣味で不定期で活動するぜんざい屋を営んでいる。関心領域はビジネスと食、特に甘いものには目がない。X(旧Twitter):@fujikawaHaruka
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外部リンク日刊SPA!