[画像] Jリーグ「選手契約制度の改定」に対する批判、その論点のズレ

Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊によるレポートをお届けします。

Jリーグ公式発表「選手契約制度の改定について」

2024年9月24日(火)、Jリーグは「選手契約制度の改定について」というリリースを発表。プロABC契約の撤廃を含む、選手契約制度の大幅な改定が示された。

この「ABC契約撤廃」、「新人の年俸上限が現行の480万円から1,200万円へ増額」という改定について、一部サッカーファンから「ヨーロッパクラブの引き抜き対策になっていない、意味のない制度改定だ」「高校や大学卒業後、Jリーグを経由せず海外クラブ入団事例が頻発しているのに、1,200万円では海外クラブの高年俸に劣っていて何も対策になっていない」との批判が寄せられている。

こういった批判については、批判する側の論点が違うしズレているため、その点を解説していきたい。

真の目的はJリーガーの待遇改善

まず、この改定は海外クラブ引き抜き対策がメインではなく、Jリーガーの待遇改善等が第一の理由だ。そこはJリーグ公式プレスの中でも「プロサッカー選手のステータス向上」と目的が明確に記載されている。日本プロサッカー選手会(JPFA) 吉田麻也会長らの長年の要請がついに受理された形だ。

昨今の日本国内における賃上げ等の情勢も踏まえて新卒Jリーガーの年俸を上げるのは自然な流れであり、「憧れのJリーガーにさせたんだから最初は安い年俸で我慢させる」といったクラブ側のやりがい搾取を改善させる形だ。

また、副次的効果で、本改定は海外移籍時の移籍金増額もある。年俸の安い選手だと多くの移籍金をとれないが、それなりの年俸の選手ならば移籍金額も現状多い1億円程度という低額ではなく、さらなる上積みへと繋がるため、年俸増と移籍金額増はリンクする。

ここもJリーグ公式プレスの中で「海外クラブ移籍による移籍金獲得額の向上への寄与」と目的が明確に記載されている。

年俸上限1,200万円への引き上げは、海外流出引き留め工作ではない。オランダ・エールディビジでは最低年俸が3,200万円※なのでそれに劣るし、1,200万円に上げたところでさほど引き留めに意味をなさないのは明白だ。

※ EU外選手の雇用に最低年俸(40万ユーロ)が義務づけられている。ただし20歳未満はその半額20万ユーロ(約3,200万円)

海外引き抜き対策・国内にとどめるのは不可能

そもそも海外クラブからの引き抜き対策なんて突き詰めれば不可能である。海外志向が強い選手は年俸にこだわらない。それこそJより安い年俸でも海外挑戦した例すらある。

元東京V・浦和・神戸の相馬崇人は2009年に浦和からポルトガルのマリティモに移籍したが、浦和在籍時数千万円の年俸だったにも関わらず、マリティモでは年俸600万円でプレーした。大きな減俸を受け入れてまでもヨーロッパでプレーしたい、という決意。そもそも浦和を退団してからのマリティモ加入であり、極めて海外志向の強い選手の代表的事例である。

こういった海外志向の強い選手たちは、いくらJリーグの年俸が上がろうとも海外に挑戦するだろう。

現状、サッカーに取り組む子供たちの将来の夢はプロサッカー選手になること、海外でプレーすること、W杯に出場すること、この3つが柱だ。仮にサウジアラビアやカタール並みの高給を出せば、選手は自国リーグに留まるとは思う。ただ、それが健全な状況とは言い難い。そしてそこまでの高額年俸を提示するのは非現実的だ。

そして、ヨーロッパこそがフットボールの本場だと認識するのは日本の選手たちのみならず世界中の認識。そこを止めるのは無理。止められないからこそ、その流れの中で制度改定すべきこと、つまり移籍金額増を目的として制度改定を行ったのだ。

今回のJリーグ改定は、海外引き抜き対策ではないのでそれ目的と誤認している人からすれば意味のない制度改定と思うだろうが、その理由が主ではない。あくまで選手の待遇改善、そしてこの止められない海外移籍という大きな流れの中で最善を模索した改定である。


ライター名:中坊

紹介文:1993年からサッカーのスタジアム観戦を積み重ね、2023年終了時点で962試合観戦。特定のクラブのサポーターではなく、関東圏内中心でのべつまくなしに見たい試合へ足を運んで観戦するスタイル。日本国外の南米・ヨーロッパ・アジアへの現地観戦も行っている(本記事は一週間後、中坊コラムに転載します)。

Note:「中坊コラム」 https://note.com/tyuu_bou 
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