[画像] 横浜に5失点で敗れ、幕を閉じたJ2山口の天皇杯の冒険。それでも初のベスト8で見せた“レノファらしさ”

[天皇杯準々決勝]横浜 5−1 山口/9月25日/ニッパツ三ツ沢球技場

 雨が降り注ぐニッパツ。

 平日開催とあって、観衆は6201人。それでも地元の横浜サポーターに負けじと、山口の応援団は選手たちの背中を押した。

 滑りやすいピッチ状況もあったのかもしれない。序盤からファウルの数が増え、前半に互いにひとりずつ退場者を出す展開になったが、天皇杯でクラブ史上初のベスト8進出を果たしたJ2の山口は、J1横浜を相手に胸を張れるほど果敢に戦った。

 山口はなかなか難しい状況に置かれていた。クラブ悲願のJ1初昇格へ向けてプレーオフ争いに挑んでいるが、リーグ戦は4連敗中。アウェーでのここ2試合は清水に1−4(9月14日)、そして順位的なライバルの千葉にも1−4(9月21日)で敗れるなどダメージを受けていた。

 しかも千葉戦から中3日で、3試合連続でのアウェー戦となる今回の横浜戦に臨んだ。加えて4日後には、ホームでこちらもプレーオフ進出を争うライバル・仙台との大事な一戦を控えている。

 山口は千葉戦から先発10人を変更したが、それでも今季就任した志垣良監督の下でアグレッシブなスタイルを貫いた。

 4−4−2のコンパクトな陣形を維持しながら、2トップの奥山洋平、末永透瑛によるプレッシングにチーム全体が連動する。これだけ序盤から追い回すと、後半が心配になったが、これでもかと走りまくった。

 16分に山根陸に先制点を奪われたが、 23分にはこちらも狙いとしていた裏へのボールに、2トップが反応し、奥山が相手GK飯倉大樹のミスを誘う形で同点に追いつく。

 後半もラインを押し上げ、アップセットを目指したが、カウンターから裏を取られ、4失点。1−5で敗れる形となった。

 それでも指揮官は冷静に試合を振り返りながら、熱く前を向いた。
【動画】横浜×山口ハイライト
「足もとが悪いなか、多くのレノファサポーターのみなさまが来てくださったことをありがたく思っています。声援が後押しとなって、非常にアグレッシブに試合ができたと感じています。

 実力の差はあるなかで、守備で下がってしまうと、やはりなんでもないところからでも得点できる横浜F・マリノスさんの力がありますので、アグレッシブにプレッシャーを掛けようというプランで入りました。ある程度できた部分も多かったのではないかと感じています。

 攻撃の部分では背後を狙う。前半は背後を狙い、後半は中盤でスペースを作り出そうという狙いを持って戦いました。そのなかで相手がひとり少なくなって、少し我々のペースになるのかなと思いきや、ボールを持った時の軽率なミスが多かったと思います。

 後半は得点を取るチャンスもありましたが、警戒していたカウンターのところで、前線のパワーとスピードがある選手にやられてしまったことは、まだまだ実力の差があると感じています。

 ただ横浜F・マリノスさんに対してアグレッシブに戦った選手を讃えたいと思います。我々はJ1のスタンダードを経験しにここに来たのではなく、勝ちにきたということは出せたと感じています。

 今年始動した時に、J1のスタンダードを求め、ワンプレーワンプレーにこだわって日頃の練習からやっていこうとやってきました。本気のマリノスさんと戦えたことはクラブの財産であると思いますが、良い経験に終わらせることではなく、こういう相手と常々やれるようなレベルに挑むことがクラブの成長につながると思います。

 残りのリーグ戦、プレーオフのチャンスも残されていますので、上を目指して、チーム全体で取り組んでいきたいです」

 また志垣監督は1−1で迎えた後半、前に出た戦い方に関してもこう続けた。

「まだまだ若い選手もいますし、真っ向勝負をしたかったです。あとはどうしても引いて守ると事故が起きてしまいますし、セットプレーだと我々のほうが身長が低いですので、力のある選手を自ゴールに近づけないということで選択をしました」

 キャプテンマークを巻いた佐藤謙介も振り返る。

「リーグ戦で連敗が続いている中で、普段なかなかチャンスがない選手がどれだけ前に行けるか、J1に対してどれだけやれるか、楽しみにしていたゲームでもあったので、結果的には1−5になりましたが、どっちに転んでもおかしくないゲームを途中までできたことは自信にしてリーグ戦につなげられればと感じます。

 しっかり準備し、全員が連動して動けましたし、相手は嫌がっていました。攻撃の部分でも相手の背後にしっかり落とす形は狙い通りにやれていたので、あとは結果に結び付けられたら良かったかなと思います」

 そして収穫と格上の相手との差も口にする。

「真剣勝負をJ1とやれることはなかなかないので、そういうチャンスを掴めたことは大事だと思いますが、やっぱり結果にこだわらなくてはいけない。ただ、こういう真剣勝負を肌感覚で感じられるのは、若い選手にとって良いことなので、チームにとっても大きな歴史の一歩だったと思います。

 ゲームを決め切る力、前に出る一歩、後ろに下がる一歩、相手をブロックする一歩など、最後の部分の一歩というのはだいぶ差があったと思います。そういったパワーを出せるかどうかは大事な部分なので、これをしっかり生かしていきたいです」

 佐藤は「前からアクションを起こすサッカーは、すごく魅力的だと思いますし、選手の良さ、勢いが出て、見ている人たちも躍動感を抱いてもらえるようなサッカーをより目指していきたいです。そして躍動感のなかでも質にもこだわってやっていければ、もっとチームとしてレベルアップできると思います」と今季のサッカーの魅力と今後の指標を語った。

 最後は点差をつけられ、大会を去ったが、果敢に挑む“レノファらしさ”をしっかり示すことはできたと言えるだろう。失点がかさみ苦しい戦いが続くが、昇格プレーオフに辿り着ければ、新たな歴史も刻める。アグレッシブなサッカーでより高みに登れるのか注目である。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)