夜の車内。岡田の目元が怪しく光る。薄暗い照明の中でカメラを向いて浮かび上がる表情は、人間離れした何者かの形相だった。『虎に翼』の航一役からえらく飛躍した話題に思われるかもしれないが、ある時点からの岡田将生は明らかに人間性を超越する域に達しようとして、新たな役柄に挑んでいる節がある。

◆航一役の最終ビジョン

 では岡田将生はいったい、どこにたどり着こうとしているのか。すくなくとも、『虎に翼』では、“アラ還”であるはずなのに若々しく感じてしまう航一役の最終ビジョンをどこに見定めているのか?

 ここでもう一度、霞という一語を引っ張りだしておきたいと思う。そう、霞。新潟での勤務時代の航一が、心の内を初めてつまびらかにしたのは第18週第90回のこと。戦中に総力戦研究所の一員だった彼は、戦争責任の一端が自分にもあるのではないかと悩み苦しんでいた。心を開かせたのは寅子だ。

 常連のカフェ「ライトハウス」の店外でひとり冬の外気につつまれた航一の頭上、その髪の毛の何本かに雪のひと粒ひと粒が結晶化していた。毛先で溶けずに、固体の状態を何とか維持しようとする美しさがあった。

 その美しい記憶から、航一は今、越冬した春に空気中を漂う霞のように自らの精神を研ぎ澄ませているように見える。

 のどかの結婚話が持ち上がり父親として心を乱すなど、激しく気持ちを高ぶらせるエモーショナルな瞬間もそれなりにあったりはする。でもその最終ビジョンは、とても穏やかで透き通った霞そのもの。空気に自然となじむおぼろげな存在なのだと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu