[画像] J1で55ゴール 武藤雄樹がJ3のSC相模原に移籍したワケ「自分が最後にやりたいと思えるチームでプレーしたい」

SC相模原
武藤雄樹インタビュー(前編)

ベガルタ仙台、浦和レッズ、柏レイソルと、長年J1の舞台で活躍してきた武藤雄樹がこの8月、J3のSC相模原に完全移籍した。かつて、日本代表でも存在感を示した彼が、その決断を下したのはなぜか。そして、彼がSC相模原で目指すもの、求めるものを含めて、話を聞いた――。


SC相模原に移籍した武藤雄樹 photo by Sano Miki

――35歳にして、シーズン途中でのJ1からJ3への移籍。簡単な決断ではなかったと思いますが、今回の移籍を決めた理由を教えてください。

「まずは、柏レイソルで出場機会がかなり失われていたというか、練習をやっていても、なかなか自分に(試合出場の)チャンスはないだろうなっていうのを感じていたことですね。年齢的にもキャリアの終わりが見えてきたなかで、それでも『やっぱりもう一回プレーしたい』という思いが自分の心のなかにはあったので、それならば自分を必要としてもらえるチームや、競争させてもらえるチームに行こう、と。

 じゃあ、どこに移籍するか、となった時に、自分のモチベーションが上がるチームに行きたかった。モチベーションが上がる理由は人によっていろいろあると思うんですけど、僕は神奈川県座間市出身で、座間はSC相模原のホームタウンにもなっている。自分がここで力を出すことによって、地元を少しでも盛り上げられればいいなと思ったし、それがすごく自分のモチベーションになるかなと思ったのが、(移籍の)理由です」

――今季の早い段階から移籍を考えていたのですか。

「本当に正直なところを言うと、僕のサッカーキャリアはレイソルで終わるかなって考えていたので、移籍はあまり考えていなかったんです」

――つまり、柏を辞める時は引退する時だ、と。

「もちろん、レイソル(での現役生活)が長く続けばいいなとは思っていましたけど、行けるところがあるなら(次のクラブへ)行こうというのは、もともとの僕のキャリア設計のなかにはありませんでした。でも、レイソルで紅白戦(のメンバー)にも入れなかったりして、かなり厳しい状況になってみて、そこで自分はどうしたいのかともう一度考えた、という感じです。(他クラブから獲得の)話があるなら考えなきゃいけないというか、探さなきゃいけない。そんな心境になりました」

――今季柏でのリーグ戦出場はすべて途中出場の3試合(出場時間48分)のみ。限られた時間で結果を残すのは難しかったですか。

「今年のキャンプ前にチームとして走り込みがあったんですけど、僕も若い選手とそんなに変わりなく走ることができました。ただ、やっぱり試合に出ていないと、キレとか、連続性とか、そういったものが落ちてしまうと感じていて......。それが落ちたなかで、たまにポンって試合に出た時の難しさですよね。

 今年に限った話ではなく、30歳を超えたくらいから感じていた部分ではありますけど、ベテランになればなるほどピッチに立ち続けないとコンディションを保つのが難しくなる。若い時のほうが(コンスタントに)試合に出ていなくても、『コンチクショー!』っていう気持ちで体が動いていたというか(笑)。そんな部分はあるのかなって感じます」

――それでも、Jリーグでは30歳をすぎて結果を出すストライカーも多いし、ベテランならではの味も出てくるのではないですか。

「僕自身も、間違いなく若い時に比べてプレーの幅が広がっているとは感じています。30歳を超えた選手が点を決めるのも、やっぱり経験を重ねて、いろんな駆け引きが巧みになっているからじゃないかなと思いますし。

 なんでもかんでもがむしゃらに走れなくなる分、ひとつのプレーに対して集中するというか、僕がレイソルで7点取ったシーズン(2022年)なんかはそうだったんですけど、あまり余計なことをせずにゴール前に集中していました。若い時のように、守備もやります、ボールも引き出します、ゴールも決めますっていうのは、歳を重ねると体力的に難しくなるので、そうやってひとつのプレーに集中することが、もしかしたらゴールを取れる要因になるのかもしれません。

 でも、だからといって、僕はそれがすべてではないと思っているし、僕自身はゴール前にドンと構えているタイプでもない。チームのスタイルだったり、監督が僕に求めることだったりというのがあるので、その最適なバランスを相模原で見つけたいとも思っています」

――移籍先を決めるにあたって、J3というカテゴリーは気になりませんでしたか。

「関係なかったですね。もちろん(プロ入り以来)ずっとJ1でやってきていて、そこでやれることのすばらしさは感じていましたけど、相模原から話が来た時に『J3だから嫌だな』っていう感じはまったくありませんでした。J2でも、J3でも、自分が最後にやりたいと思えるチームでプレーしたい。その感情のほうが強かったです」

――相模原がJ2昇格の可能性を残しているなかで、J1からの移籍加入選手は期待が大きい。その分、重圧も大きいのではないですか。

「(移籍交渉時に)チームの強化の方からは『J2昇格を狙っているから、そこで力を発揮してほしい。(J2に)連れていってほしい』ということは言ってもらいましたし、そこはすごく意気に感じました。ここに来たからには必ず結果を出してJ2昇格の力になりたい。それが地元への貢献とか、地元をより盛り上げることにもつながってくると思っています」

――シーズン途中の移籍に難しさはありませんか。

「(浦和レッズから2021年途中に)レイソルに入った時もなかなか結果を出せず、自分のプレーとチームのスタイルをフィットさせていくことの難しさがありましたし、それは今も感じるところはあります。ただ、今回の相模原(への移籍)に関しては、ちょうど(J3の)中断期間だったので、ミニキャンプを張ったりしてチームに馴染む時間はあったのかな、とは思っています」

――武藤選手にとってはプロ入り以来、相模原が4クラブ目。これが3度目の移籍です。

「基本的に移籍する時は、僕はいつもポジティブに考えていて、すごく前向きにチャレンジするワクワクした気持ちでいますし、今回も本当にそう。J3だからという気持ちはまったくなくて、ここで自分が何を成し遂げられるんだろうっていう、前向きな気持ちで来ています。今は本当に充実しているというか、日々熱い気持ちを持ってトライできているなと感じています」

――加入から1カ月あまり。チームの雰囲気はどうですか。

「雰囲気はすごくいいですね。みんな、トレーニングから本当に真摯にサッカーに向き合っていますし、(シュタルフ悠紀リヒャルト)監督も、明確に役割を与えてくれるというか、言葉にして伝えてくれるので、そういったところのやりやすさも感じています。

 ここのところ結果が出ていなかったので、そこでなかなかこう......、やっぱり自信を失っていくような部分はありましたけど、今季のJ3はとんでもない大混戦で進んでいるので、チームがバラバラにならず、ブレずにやっていきたい。そのなかで、僕はこれまでにいろんな経験をしてきたと思っていますし、そういう部分でもチームの力になれたらいいなと思います」

――豊富な経験があるからこそ、リーダーとしての役割も期待されます。

「そういったことも期待していると、チームからも、監督からも言われています。僕もできる限り、若手にアドバイスしたり、チームをまとめたりすることができたらいいなと思います。

 そうは言っても、僕がそういう(リーダー的な)キャラクターかと言われると、そうでもないなとも思うのですが(苦笑)、これまでのキャリアのなかで、浦和だったら阿部(勇樹)さん、レイソルだったら大谷(秀和)さんのような選手が、常に真摯にトレーニングに向き合う姿を見て、『あの人がやってるんだから、自分も!』って感じてきましたし、そういった姿を今度は自分が見せなきゃいけない。声だけでなく、しっかり背中で引っ張って、チームを一歩でも前に進められるような仕事ができたらいいなとは感じています」

――実際にJ3でプレーしてみて、J1との違いは感じますか。

「もちろん違いはあるんでしょうけど、そんなに特別大きな差はないのかなとは思います。ただ、細かいところで言うと、たとえば『そこで(ボールを)失ったら危ないよね』みたいなところでのミスは、相模原だけでなく、相手チームも含めて多いような気がします。そのミスを突いて(相手が得点を)決めきれなければ、ミスをしても大丈夫なんだって、そこの価値観は変わらないと思うので、逆に僕がそういったミスを突くことができれば、そこでのミスはダメなんだって(いう意識が生まれて)、レベルが上がっていくと思っています。そういったところも、練習から伝えていければいいなとは思います」

――移籍加入以前は、相模原というクラブをどう見ていたのですか。

「はじめは『相模原に(Jクラブが)できたんだ』くらいでしたね。でも、座間市がホームタウンになったっていう話を聞いたりするようになって、僕が子どもの時は横浜や平塚に試合を見に行っていましたけど、今は地元でJリーグの試合が見られるんだなって。しかも、相模原にはレジェンド、スター選手たちがどんどん入ってきて、川口(能活)選手とか、稲本(潤一)選手とか、僕が憧れていたような選手を間近で見られるのはすごいなって思いながら見ていました」

――武藤選手の家族や知り合いも、応援に来やすくなったのではないですか。

「それは、めちゃくちゃ感じますね。思った以上に地元の仲間からの反響はありました(笑)。僕が初めてギオンス(ホームの相模原ギオンスタジアム)で試合(第26節AC長野パルセイロ戦)に出た時も、すごい雨だったんですけど、僕の友だちがたくさん来てくれたり、子どもの時の指導者の方が来てくれたり。今でも応援してくれているんだなって感じて、すごくうれしかったです。僕は(小学生の時に)FCシリウスっていうチームにいたんですけど、そこの子どもたちもJリーグや相模原に興味を持ってくれたらうれしいですね」

(つづく)


photo by Sano Miki

武藤雄樹(むとう・ゆうき)
1988年11月7日生まれ。神奈川県座間市出身。武相高→流通経済大。2011年、ベガルタ仙台入り。2015年に浦和レッズへ完全移籍し、同シーズンと翌2016シーズンにふた桁ゴールを記録。主力選手として活躍し、数々のタイトル獲得にも貢献した。2015年には日本代表入りも果たし、東アジアカップで2試合に出場し2ゴールをマーク。その後、2021シーズンの途中に柏レイソルに移籍。そして今季、8月に地元のSC相模原に加入した。