◆ 株式会社「ワンハネ」を設立
今季のメジャーリーグにおいて、悪い意味で多くの話題を振りまいてきたのがア・リーグ中地区に所属するホワイトソックスだ。
開幕から黒星が重なり、4月を終えた時点で6勝24敗。5月以降も負けが込み、7月は3勝22敗、8月も4勝22敗と、歴史的低空飛行を続けている。
9月に入ってからは5勝11敗とやや挽回する兆しも見せているが、チームはすでに来季以降を見据えた再建モードに入っている。
ただし、ホワイトソックス傘下のマイナーシステムは有望株の宝庫と呼ばれるものではない。MLB公式サイトの有望株ランキングで上位60位までに4人が名を連ねているものの、最上位でも13位。チームのトッププロスペクトである左腕ノア・シュルツも再来年のメジャー昇格が予想されており、ホワイトソックスは来季も厳しい戦いを強いられることは確実だろう。
そんなホワイトソックスの傘下、2Aのバーミンガム・バロンズで躍動している日本人選手がいるという。それが身長168センチ、体重68キロの小兵・西田陸浮だ。
大阪府出身の西田は、地元の中学を卒業後、宮城の名門・東北高校に進学するも、あと一歩のところで甲子園出場の夢を逃した。高校を卒業後は、アメリカ・オレゴン州の短大に進学すると、2年連続盗塁王に輝くなど結果を残し、3年次に名門オレゴン大学に編入。ここでもシュアなバッティングと天性のスピードを存分に発揮し、ドラフト候補にまで上り詰めた。
実際に西田は昨年7月のドラフトでホワイトソックスから11巡目(全体329位)で指名され、晴れてマイナーリーガーとしてプロ生活を歩み始めた。
ルーキーリーグとシングルAでプレーした昨季は、計20試合に出場し、打率.224に終わったが、三塁打2本、6盗塁をマーク。今季はシングルAの1つ上、「ハイA」への 昇格を目標に掲げてプロ2年目のシーズンに臨んだ。
西田は開幕からシングルAでレギュラーの座をつかむと、90試合で打率.290、35盗塁と活躍。7月下旬についにハイAへの昇格を勝ち取った。
そして迎えたハイAウィンストン・セーラムでの約1か月間はより濃いものとなった。26試合に出場した西田は、打率.337、10盗塁を記録。その活躍が認められ、9月上旬には目標を上回る2Aにたどり着いたのだ。
2Aバーミンガムでも11試合に出場した西田は、打率.333、4盗塁をマーク。現在4チームによって争われる2Aサザンリーグのプレーオフの真っ最中で最後のアピールをしている。“足”という大きな武器を持つ西田が、この舞台でインパクト大の活躍を見せることができれば、来季のメジャー昇格への足掛かりにもなるだろう。
ちなみに3つのリーグを渡り歩いた西田の今季合計成績は、127試合で打率.304、49盗塁。長打こそ20本(二塁打13本、三塁打6本、本塁打1本)と少ないが、高い出塁率(.418)がそれを十分に補っている。
また、西田はマイナーリーガーという肩書以外に青年実業家としても活動している。昨年のドラフト会議後に、株式会社「ワンハネ」を設立。かつて自身が経験した米国大学への留学サポートや少年野球教室の開催などに尽力している。
昨年、ホワイトソックスと契約を交わした際、野球が「趣味から仕事に変わりました」と自身のXにポストした西田。彼にとっての本職はあくまでも経営者であり、メジャーリーガーとしてプレーすることはあくまでも、さらに上を目指すための手段なのかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)
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