[画像] 市販のドローン、自衛隊の「脅威」に……日本の基地上空は“無防備”? 専門家「レーダーでは難しい」「また無駄な買い物に」

今年3月、海上自衛隊の護衛艦「いずも」がドローンで撮影されたとみられる事件が発生。防衛省はSNSで明らかになるまで把握できず、この後も侵入の事例がありました。日本の基地上空は大丈夫なのでしょうか? 専門家との現地取材を交え、検証しました。

■市販されているドローンが兵器に

鈴江奈々アナウンサー
「今や身近になりつつあるドローンですが、脅威にもなっています」

小野高弘・日本テレビ調査報道班
「ロシア軍が公開した映像を見てみます。ドローンに爆薬を付け、ウクライナの車両を空から攻撃しています。一般に売っているようなドローンが、今や兵器として使われています」

「今回は『日本は大丈夫ですか?』という内容です。日本の自衛隊などの基地が、ドローンが飛んできた時に事実上無防備ではないかということが取材で分かってきました」

■防衛省に大きな衝撃を与えた事件

今年3月、防衛省に大きな衝撃を与える事件が起きました。何者かが中国の動画共有サイトに動画を投稿。ドローンで海上自衛隊の護衛艦『いずも』を撮影したとみられ、艦橋や飛行甲板のすぐ近くを飛行しています。

防衛省はこの動画がSNSなどに投稿されるまで、ここまで接近されていたことを把握していませんでした。

「いずも」がドローンで違法に撮影された現場は、どのような場所なのか。慶応義塾大学SFC研究所の上席所員である部谷直亮さんや所員の平田知義さんと、「いずも」が停泊する海上自衛隊横須賀基地(神奈川・横須賀市)に向かいました。

■電波の障害物も…公園での撮影は困難?

海沿いのヴェルニー公園に入ると、目の前に「いずも」が。横須賀基地やこの公園は、法律でドローンの飛行が禁止されています。撮影者は、どこからドローンを操縦したのでしょうか。

──条件として必要なものは何ですか?

平田さん
「電波が届くことですよね」

電波を使って操縦するドローン。公園は人目につく上、電波の障害になるものが多く、撮影に適していないといいます。

■技術が高くなくても隠れて撮影可能

そこで平田さんが着目したのは、撮影者を名乗る人物が投稿した別の動画です。「いずも」と同じ時に撮影したとみられ、アメリカ軍の空母をかなりの高さから捉えています。

「いずも」に近い取材場所から見ると、空母は湾を挟んだ対岸にあります。この2つをドローンで撮影するのに適した場所とは?

平田さん
「高台から見下ろせる場所。もしくは、飛ばす高さと同じくらいの所から飛ばしているんだと思います」

撮影者は「いずも」と空母を見通すことができる高い建物、もしくは高台に身を隠していた可能性が高いといいます。

さらに平田さんは「空母の動画を見たんですが、そんなに操縦がうまいわけではないんですね」と指摘。それほど技術がない人物でも、身を隠してドローン撮影ができる。横須賀基地は、そのような場所にありました。

■ドローン侵入が増…佐世保基地でも

「いずも」を撮影したとみられる動画が日本の安全保障に与えた影響は深刻です。部谷さんは「最近、自衛隊の駐屯地や施設に対するドローンの侵入が増えたというんですね。いずも事案後に」と話します。

今年7月には、長崎・佐世保市の佐世保基地周辺を飛行するドローンが目撃されています。

部谷さん
「今回の(いずも)事案で、日本のドローンに対する抑止力がゼロと分かったからだと思います。つまり、自衛隊の駐屯地や基地はドローンを飛ばしても分からないし、逮捕もされないと」

■飛ばせる、気づけない…2つの問題

小野記者
「こうして基地の上空にドローンが侵入するのは国の防衛上、問題ですよね。そもそも基地の上空でドローンを飛ばすのは違法。小型無人機等飛行禁止法違反になり、1年以下の懲役や50万円以下の罰金と定められています」

「ただ実際に飛ばしていて、その気になれば飛ばせてしまうのが問題です」

鈴江アナウンサー
「飛ばせてしまうのも問題ですが、気づけないというのは大問題ですよね」

小野記者
「それが2つ目の問題です。現状では自衛隊は、ドローンが飛んできても発見が難しいのではないかということです」

「この2つから言えるのは、例えば一般に売っているドローンに爆薬を付けて誰にも気づかれず飛ばし、自衛隊の艦船のレーダーなど大事な部分にぶつける。艦船は無力化します。高くても数十万円のドローンが、何百億円もする船をダメにすることもできてしまいます」

森圭介アナウンサー
「機密性の高い所に飛ばすこともできますし、相手の目的が分からないのに見つけられないのはかなり厳しいですよね」

■佐世保のドローン侵入、米軍の反応は?

小野記者
「長崎の佐世保基地の周辺でもドローンが目撃されていました。近くにアメリカ軍の基地もあり、在日アメリカ軍はこのことについて取材に『最近の基地周辺でのドローンの飛行について承知している。担当局が捜査している』と回答しました」

「『捜査している』とまで言っています。アメリカ軍が、記者の問い合わせにこうしたコメントをするのは異例のことです。そのぐらいアメリカ軍は危機感を持っています。日本の当局になんとかしてほしい、というメッセージだと考えられます」

■ドローンをどう探知?…自衛隊の説明は

陣内貴美子キャスター
「こうしたドローンは、見つけるのは本当に難しいのでしょうか?」

小野記者
「ドローンが飛んできたら、自衛隊は本来2つの方法で探知すると説明しています。まずはレーダーなどで捉えるというものです。ただ、専門家の部谷さんは『民間で売っているような小さなドローンをレーダーで捉えるのは、今の技術ではかなり難しい』と言います」

「もう1つの方法は、ドローンが発する電波をキャッチするというものです。ドローン本体と、操縦する装置との間でやり取りしている電波があります。ドローンの電波は特徴があるので、電波を検知する装置で捉えるというわけです」

「しかし平田さんは『脅威となるドローンがどんな電波帯を使っているのか調査できていないのでは。実際に脅威となりそうなドローンを飛ばし、本当にアンテナが電波をキャッチできるか機材の検証をする必要があるが、それを行っていないのでは』と指摘します」

「つまり、機材はあってもきちんと運用できていないのではないかということです」

■防衛省の受け止めと対応は?

山崎誠アナウンサー
「こうした現状もある中で、日本の防衛省としてはどう捉えているのでしょうか?」

小野記者
「護衛艦『いずも』にドローンが接近したとみられる問題がありました。防衛省は『ドローンの技術が急速に高まっているからだ』と釈明しています。そしてドローン対策の新たな機材の導入も含めて、84億円の予算を求めています」

森アナウンサー
「数字だけ見ると多額ですが、対策としてそれが十分なのかどうなのか。費用対効果を含めてまだまだ分からないですよね」

小野記者
「吉田統合幕僚長は新たな機材の性能について『検証は行っている。検証した機材と同等以上の機材を今後導入するので、ドローン対処の実効性は高まっていく』と述べています。つまり、新しい機材を導入して対処すると言っています」

■専門家「実戦で役に立つか検証を」

小野記者
「これに対し、部谷さんは『これまで導入した機材が役に立たないものだと認めることになるが、それを改修したり、何がダメだったのか国民に説明したりしなければ、税金の無駄遣いになるのではないか』とくぎを刺します」

「また『新しい機材を導入するにしても、実戦で役に立つのかきちんと検証しないと、まだ無駄な買い物になってしまう』とも話しています」

小野記者
「日本を守るために役に立つ装備になっているのか、取材を続けていきます」

(9月18日『news every.』より)