by Gage Skidmore
過去に政治キャンペーンで利用した音楽が無断使用だったとして、ドナルド・トランプ前大統領がミュージシャンのエディ・グラント氏から著作権侵害で訴えられていた裁判で、連邦地方裁判所がグラント氏勝利の判決を下したことがわかりました。トランプ氏による「フェアユース」の主張は退けられました。
Eddy Grant Wins: Trump's 'Fair Use' of 'Electric Avenue' Was Anything But * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/eddy-grant-wins-trumps-fair-use-of-electric-avenue-was-anything-but-240916/
Donald Trump loses legal fight over using Eddy Grant song without permission | Music | The Guardian
https://www.theguardian.com/music/2024/sep/16/donald-trump-loses-legal-fight-eddy-grant-elecric-avenue-permission
トランプ大統領在任中の2021年1月に、トランプ氏の支持者らによるデモ隊が連邦議会議事堂に進入し、死亡者も出た事件が発生しました。
その後、トランプ氏が「我々は将来にわたり大きな声を上げ、その声はいかなる形でも軽視されたり不当に扱われることはないでしょう」とTwitter(現X)で投稿したことで「さらなる暴力を扇動する意図がある」と見なされ、Twitter、Twitch、YouTube、Facebookなどのソーシャルメディアは一斉にトランプ大統領のアカウントを凍結しました。2022年11月には、Twitterを買収したイーロン・マスク氏がトランプ氏のアカウントを復活させ、一時はTwitterには戻らないという意思を示していたものの、2024年の大統領選を控えてXに復帰しています。
ついにトランプ前大統領がX(旧Twitter)に復帰 - GIGAZINE
トランプ氏はSNSでしばしば騒ぎを起こすことがあり、2024年8月には自身のメディア会社が所有するSNS「Truth Social」に、「歌手のテイラー・スウィフト氏とそのファンがトランプ氏を支持しているような画像」を投稿しました。しかしこの画像はAIで生成されたもので、スウィフト氏自身は民主党候補だったジョー・バイデン氏を支持しており、トランプ氏を強く批判しています。
ドナルド・トランプが「テイラー・スウィフトがトランプ支持者である」とする生成AIによる虚偽の画像を共有 - GIGAZINE
今回争点となっているのは、2020年8月12日に当時のTwitterに投稿された短いアニメーションです。トランプ陣営のスタッフが作成したアニメーションは、トランプ陣営のロゴを掲げた列車が、ジョー・バイデン氏が乗った手押し車に追いかけられるというもの。アニメーションのBGMには、イギリスのシンガーソングライターであるエディ・グラント氏の有名な楽曲「エレトリック・アベニュー」を使用していました。著作権侵害が指摘されたことで削除されましたが、削除されるまでに1370万回以上視聴されています。
「エレトリック・アベニュー」についてグラント氏は許可を求められておらず、グラント氏の弁護士は直ちに使用禁止命令を出しています。しかし、すぐに動画は削除されず、2020年9月1日にグラント氏の弁護士らが著作権侵害を主張し損害賠償を求める訴状を提出したことで、ようやく投稿は削除されています。
訴訟に対し、トランプ氏の弁護士らは「この広告は風刺であり、著作権法の適用外です。また、出所を知らずに再投稿された映像を使用していることも含め、フェアユースに該当する」と主張しました。フェアユースとは、アメリカの著作権法が認める著作権侵害の主張に対する抗弁事由で、著作権者の許諾なく著作物を利用しても、その理由が「利用の目的と性格が非営利」「著作物の性質が機能的(論文や地図など)」「著作物の使用量が少なく核心に触れていない」「著作物の使用が市場に悪影響を与えない」という4つの「フェアユースの法理」に該当していれば、無断の利用行為が著作権の侵害にあたらないケースがあるというものです。
本件を扱ったアメリカ連邦地方判事のジョン・コエルトル氏は、エレクトリック・アベニューの使用は政治広告キャンペーンを支援するための「大規模なコピー」であり、このアニメはフェアユースに適したパロディではなく、あまり役に立たない類似の風刺であるとトランプ氏陣営の弁護側に認めさせました。コエルトル氏によると、トランプ氏の弁護側はフェアユースを主張する一方でフェアユースの法理に該当する根拠や証拠を示しておらず、ムービー自体もエレトリック・アベニューを挿入する必然性を感じられないことから、フェアユースとしては認められないとのこと。
訴えを起こしてから約1年後となる2021年10月には、すでにトランプ氏の弁護側によるフェアユースの主張は否定されつつあり、弁護側は改めて「公務員が職務の範囲内で行動している限り、刑事訴追や損害賠償訴訟から完全に免責される」という絶対的免責(Absolute Immunity)を主張しています。しかし、この主張もすぐに却下されたにもかかわらず、そこから2024年までさらに3年も判決を引き伸ばしています。結果として、2024年9月には2021年に被告の棄却申し立てを却下した際の文言を引用しながら、「トランプ氏の投稿したアニメーションは商業上の利益を得るもので、芸術性のある著作物を、元の構想から攻撃的意図に変容した上で、市場に影響を与えるほど大量コピーを発信した」としてフェアユース法理のいずれも満たしていないとコエルトル氏は結論付けています。
損害賠償として、グラント氏の弁護側は30万ドル(約4200万円)を要求しましたが、最終的な損害賠償額は記事作成時点で未定です。
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