妻の言う通り、不倫をしたのが婚姻関係の破綻した後なら慰謝料の対象になりません。しかし、離婚を切り出すと同時に破綻するのでしょうか? 裁判所の見解では破綻の有無に影響を与えるのは別居期間です。具体的には少なくとも6年は必要です。(東京高裁・平成14年6月26日判決)もちろん、破綻を認定するのに必要な要件は別居期間だけではありませんが、妻が相手の男性と付き合い始めたとき、光輝さんと妻はまだ別居していなかったので、当時、婚姻関係は破綻していませんでした。破綻する前に交際を始めたのだから、それは不倫です。そして慰謝料の対象になります。

◆結局、慰謝料を払わせることに成功したが…

妻は「レスなんだから、しょうがないでしょ? 光ちゃんも外で遊んできても良かったのに」と軽口を叩いたそうです。夫婦がセックスレスだという理由で不貞の慰謝料を減額することを認めた判例を筆者は知りません。筆者の経験上、夫婦がレスではないのに不倫の相談に来るケースはほとんどありません。つまり、大半はレスです。

もしレスを理由に慰謝料が軽くなるのなら、慰謝料の相場が下がってしまうからだと考えます。そもそも光輝さんに拒まれたので寂しくて他の男性になびいてしまったのならともかく、拒んだのは妻の方です。

そこで光輝さんは「レスの原因を僕に押し付けるのは筋違いだろ?!」とやり返したのです。そうすると妻は「光ちゃんのことを早く忘れたいの。彼にも待ってもらっているし……払えば離婚してくれるんでしょうね」と確認しつつ、「30万なら」と言い添えました。光輝さんは「わかった、それでいい」と答えると、慰謝料を払うことを約束する見返りに、記入済の離婚届を手渡したのです。

◆共働きが増えたことで不倫も増えた?

ところで男性は離婚後、すぐに再婚することが可能です。一方、女性は離婚後、一定期間は再婚することが禁じられていました。具体的には2016年より前は6ヵ月、先は100日ですが、2024年から妊娠していないことを証明すれば、男性と同じく、離婚後、すぐに再婚できるようになりました。もし、妻が妊娠していないのなら、役所へ婚姻届に加え、医師が発行した証明書を提出すれば良いのです。

レゾンデートル株式会社(2023年10月に20代〜50代の既婚者男女4,000人にセックスレスに関する実態調査)よると夫婦のうち、51.9%がセックスレス。子どもがいる場合(71.4%)は子どもがいない場合(61.2%)よりセックスレスの傾向が強いようです。

不倫をする確率は異性と出会う確率と比例します。現在はすでに「男は外で働き、妻は家を守る」時代ではありません。なぜなら、専業主婦(458世帯)は共働き(1,177世帯)の半分しかいないからです。

しかも働く女性は10年間で10%以上(340万人)も増加し、現役世代(25〜44歳)の就業率はほぼ同数(女性78% 男性83%)です。(令和4年、男女共同参画白書)つまり、不倫をする確率は男女とも同じです。ジェンダーレスとは男女間の「性差」がなくなる現象ですが、性についても同じ。「妻に限って」と色眼鏡で見るのは危険です。

<TEXT/露木幸彦>

【露木幸彦】
1980年生まれ。国学院大学卒。行政書士・FP。男の離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、「離婚サポートnet」会員は6千人を突破。「ノンストップ」(フジテレビ)、「ホンマでっかTV」(フジテレビ)、「市民のミカタ」などに出演。著書は「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷)など11冊。

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