旧ジャニーズ事務所所属タレントのマネジメント業務を行う「STARTO ENTERTAINMENT」が今月5日、コンサートチケットの高額転売者を特定するため大手転売サイトに対し情報開示を求める手続きをとったことがわかった。

同社は先月28日にも、公式サイト上に「権利侵害通報フォーム」を設置。インターネット上での権利侵害と本格的に戦う構えを見せはじめている。

権利侵害にはさまざまなものがあるが、大きな問題のひとつが著作権侵害だろう。

STARTO ENTERTAINMENT所属のアイドルグループをめぐっては、音源やCD・DVDの特典映像、果てはメンバーが出演したドラマの映像に至るまでSNS上で販売、配布されている実態がある。こうした行為の法的問題点について弁護士に聞いた。

弁護士「一言で言えば『著作権法違反』ですが…」

SNS上で「□□(アイドル名) ○○(アルバム名など) 配布」などと検索すると、下記画像のように無断で音源や映像を配布・販売する投稿がいくつもヒットする。特に人気アイドルグループの新曲発売日には、あまたのアカウントが同様の行為をしている。

X上で破格で売買されている人気アイドルグループの音源…(※画像の一部を加工しています)

販売の方法はさまざまだが、音源配布アカウント側が指定したキャッシュレス決済を用いて決済し、ダイレクトメッセージなどで決済済みの連絡をすると、ファイル共有サイトのURLが送られ、音源をダウンロードできるという仕組みが多く使われているようだ。無料配布の場合は、販売方法から「決済」が省かれる。

こうした音源などの販売・配布について、通常であれば「違法行為」であることがすぐに分かるだろう。

著作権法に詳しい前原一輝弁護士も、「一言で言えば『著作権法違反』ですが、さまざまな権利を侵害している悪質な行為です」と断言し、次のように詳述する。

「配布・販売する人は、当然元となる音源や映像を他者に配布・販売する目的で“コピー”しているはずですが、その行為がまず著作権侵害に当たります。

音源は、作詞家、作曲家、演奏者、歌い手など、いろいろな人の著作権が詰まっているものです。無断販売・配布行為は、そうしたさまざまな人の権利すべてを侵害していることになります。映像も同様で、映像の著作権者の著作権を侵害することになります。また、音楽や映像を配布・販売する際に無断でアイドルの写真や氏名を利用した場合、肖像権やパブリシティ権の侵害につながる可能性もあります。

さらに、その違法コピーした音源や映像をダウンロード販売するために、ストレージサイトのサーバーにアップロードする行為は、公衆送信権侵害にあたる可能性があります。 また、媒体(CDなど)に複製して他人に譲渡する場合は、譲渡権または頒布権侵害という別の権利侵害にも該当します。実に多くの権利を侵害していることになりますが、こうした権利侵害の度合いや回数は、量刑の重さ(※)や民事上の損害賠償額で考慮される要素になります」

※著作権および著作隣接権の侵害は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に科せられる可能性がある。

購入者など“受け取った側”にも法的責任が…

SNSで販売・配布している側にも後ろめたさがあるのか、有料の金額も“小遣いレベル”で、中には無料で配布するケースもある。

しかし前原弁護士は「無料配布だろうと少額での販売だろうと、侵害行為に変わりはない」ときっぱり。

「もちろん得た利益が大きければ悪質性が高いと判断されます。しかし、いくら安価でも利益を得る目的で著作権侵害を行っていたのであれば、計画性もあり悪質です。無料配布の場合でも、権利者は経済的ダメージを負っています。無料だからといって、許される行為ではありません」(前原弁護士)

また、音源や映像を“譲り受けた側”も違法となる可能性があるという。

「著作権が侵害されたデータであることを知りながら受け取った場合は、購入者などデータを受け取った人も著作権侵害になるので注意が必要です(著作権法30条第1項3号)」(同前)

原動力は「自己顕示欲」か

しかし、なぜ“小遣い”程度の対価のために、あるいは対価が得られないのにもかかわらず、ここまで明白な違反行為をする人がいるのだろうか。

前原弁護士は、販売・配布する人について「自己顕示欲があるのでは」と分析する。

「『自分は親切なことをしていて、みんなから喜ばれている』『“布教”してあげて、アイドルのためになっている』という意識すらあるように思います。

当然それは大きな誤解で、実際にはただの営業妨害にしかなっていません。アイドルにしてみれば“大迷惑”なはずです。

そもそも無償で音源や映像を譲り受けるような人は、本当の意味でのファンではない可能性があります。そうした“ファンみたいな人”を増やしても、どうしようもないことです。

近年ではアイドルなどもYouTubeやSNSを使って公式的に楽曲や映像を配信しています。そうした公式的なものを、ルールにのっとってシェアする分には誰の権利も傷つきません。それこそが正しい“布教”活動ではないでしょうか」(前原弁護士)

その上で前原弁護士は、アイドルや所属事務所に対しても「権利侵害は『本当に困るんだ』ということを、もっと訴えてもいいのではないか」と提言した。

STARTO ENTERTAINMENT「権利侵害通報フォーム」設置

STARTO ENTERTAINMENTは、一連の著作権侵害について弁護士JPの取材に対し「現時点においては取材をお受けいたしかねます」と回答したが、冒頭の通り先月23日には公式サイト上に「権利侵害通報フォーム」を設置するに至った。

音楽や動画の違法配信・転載についても「違法行為を確認した場合には、弊社違法行為対策班が発信者情報開示請求を行い、事案に応じて厳しく対応してまいります」と記されている。

悪意のある権利侵害は言語道断だが、“推し”を布教したい気持ちから権利侵害に至ってしまうケースもあるのかもしれない。しかし、善意であったとしても、販売・配布行為には逮捕や損害賠償請求のリスクがあること、そして他でもない“推し”の権利を傷つけていることを肝に銘じるべきだろう。