深刻な人手不足が叫ばれる今、多くの職場が採用難にあえいでいる。そうしたなか、ひと昔前までは採用されなかったような“ヤバいバイト”が現場に大量発生しているという。常識やモラルが疑わしい人材でも雇わざるを得ない、壮絶現場の実態とは?バイトの横暴で疲弊する社員や店長、バイトリーダーたちを直撃!
◆店中に消毒液をまき散らす泥酔“タイミーさん”が襲来
人員不足の救世主として注目を集めているのが、タイミーなどのスキマバイトアプリ。だが、店にやってくるのは“その日限り”の単発バイトゆえ、トラブルが発生することも。
「初めてタイミーを利用したら、とんでもない目に遭いました」
と語るのは、都内で焼き肉店を複数経営する葛城正人さん(仮名・54歳)。業界関係者も訪れる、知る人ぞ知る名店のオーナーだ。
「人手不足のなか、何とかシフトを回していましたが、お盆期間になって、バイトのコたちが一斉に帰省してしまって。予約は満杯だったので、仕方なくタイミーを利用したんです」
そこでアプリ内で評価の高かった20歳前後の女性を採用したという葛城さん。
「店に来たときから、明らかに酒に酔っていてろれつも回っていない。帰ってもらおうとしましたが、『接客はできるので』の一点張り。皿を割りまくり、客をドン引きさせたあげく、気がついたら、ハイテンションで席の消毒用のアルコールを店中にまき散らしていました」
最終的には客からもクレームが入る事態に。「二度とタイミーは利用しない」と語るが、そうもいかない現実が迫っている。
◆コロナ禍の大量解雇が人手不足を加速
バイトの定番といえば飲食店での接客業だ。しかし、「今では人手不足の煽りを特に受けている業界でもある」と、飲食業界に特化した弁護士の石粼冬貴氏は語る。
「かつては、飲食店も面接の時点で“ヤバい”とわかる人は採用していませんでした。ただ、人手不足が加速したため、採用基準をかなり下げざるを得ないのが今の実情です」
石粼氏が相談を受けたなかには、信じがたいようなケースもあったという。
「当日欠勤、音信不通になるのはまだいいほう。むしろ、コミュニケーション能力に難があり、一般常識がなさすぎて手間がかかる人のほうが大変。印象的だったのは、質問が異様に細かい人。勤務中だけでなく退勤後にも、スマホを2〜3スクロールしないと読み切れないほどの長文LINEで店長に質問し、周りをただただ疲労させていました。母親同伴で面接に来た30代もいましたね。そんな人でも人手不足だと『いるだけまし』と採用してしまうのです。スキマバイトを募集してみても、無断欠勤や途中で帰る人も多く、まともな人が集まりづらいのが現状です」
現在の飲食関連の有効求人倍率は約3倍。1人に対して3つの仕事がある状態だが、ここまで人手不足に陥った理由は何なのか。
「ひとつはコロナ禍で休業や時短営業を迫られたときに、アルバイトを大量解雇せざるを得なかったこと。需要が復活した今でも、彼らが働き手として店に戻ってこないというのが大きな原因になっています。それと時給制の接客業バイトは、タイパ重視かつSNSの非対面コミュニケーションに慣れている現代の若者には『割に合わない仕事』と敬遠されているようです」
人手不足は他人事ではない。ヤバいバイトの増殖による“崩壊現場”に顧客として居合わせる可能性もあるのだ。
【弁護士・石粼冬貴氏】
法律事務所フードロイヤーズ代表。飲食法務を専門的に取り扱う。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』(旭屋出版刊)など
取材・文/週刊SPA!編集部
※9月10日発売の週刊SPA!特集より
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