今、日本では「訳あり物件」がどんどん増えているという。こうした物件は、自死があったといった事故物件にとどまらない。1つの物件を複数の人が所有する共有不動産にまつわるものもあれば、長く空き家となっている物件のこともある。
 そうした不動産は、所有者が売ってしまおうと思ってもなかなか売れず、問題が残ったまま半ば放置される。

 その数は、「およそ1000万軒前後はあるのでは」と言うのは、株式会社ネクスウィルの代表取締役、丸岡智幸さんだ。丸岡さんの会社は、「訳あり物件」を専門に扱うリーディングカンパニー。毎月約500件の売りにくい物件の相談を受け、適正な再流通に尽力している。

 今回は丸岡さんに、訳あり物件の傾向と対策を、事例をまじえながら教えていただいた。

◆家の相続で突然険悪になる兄弟仲

――相続に関する法改正や二世帯住宅の増加などが背景にあると思いますが、実家の相続で子ども同士が揉めに揉めて、家が売れないというケースが増えているそうですね。

丸岡智幸(以下、丸岡):はい。私の著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』でも記したTさんの例ですが、この方も二世帯住宅に長く住んでいました。Tさんは長男で、建築費は父親と折半でした。

 父親はすでに他界され、認知症で介護していた母親も亡くなり、遠方に住む弟と妹を呼んで相続の話になりました。その弟と妹が、家を売却してそのお金を3等分すればいいのではないか、と言ってきたのですね。

◆第三者の言葉でこじれるケースも多い

丸岡:Tさんは、家の購入資金も負担しておらず、両親の面倒も見てこなかった2人の言い分に愕然とします。何より、ローンはまだ残っているし、中・高生の子どもたちの教育費もかかります。それで、どうしたらよいか相談に来られました。

 かつては相続に関する揉めごとといえば、富裕層に限られていたものですが、最近は中間層にも広がっています。特に、相続するものが家しかないと、トラブルが起きやすいのです。長男が、老父母の面倒を見ていたとしても、法定相続分といって、ほかの兄弟姉妹も遺産をもらえる権利はあるのです。

 くわえて、相続する権利を持つ人の配偶者や子どもの意見が入ってくることがあります。当事者間では話はまとまっても、そうした第三者の言葉に影響されてこじれて、業者も買い取れなくなったというケースは多いのです。当事者の全員が売るということに合意をしないと、売れないのですから。

 ですが、手放したい人が、自身の持ち分の権利を売ることはできます。それで、早くに少しでもお金にしたい、そのゴタゴタから手を引きたいという気持ちが強くて、弊社に相談に来られるのですね。流動性が低い不動産なので、どうしても買い取り価格は安くなってしまうのですが、それでもすぐに引き渡したいという方が、増えているのが現状です。

◆親が生前のうちに適切な対処をするのが一番

――そうした、子どもの間で争いとならないための予防策はあるでしょうか?

丸岡:実家に対する思い入れが強くて、そのまま残しておきたい、あるいは子の1人がそこに住みたいとなることは、どうしても多いと思います。

 ですが、家しか相続する資産がないのなら、親がまだ元気なうちに、親の意思できれいさっぱり売ってしまう、あるいは子に相続してしまうのが一案です。親は賃貸に住み替えるなど負担はあるでしょうけれど、親が亡くなってトラブルの火種になるリスクを考えると、円満な一つの選択肢となりえます。あるいは、しっかりと遺言書のかたちで、どうしたいか書き残しておくことです。

 そのためにも、親が元気なうちに、子どものほうから持ちかけて、将来の相続についてよく話し合うことが重要と考えます。