[画像] 有村智恵が明かすプレッシャーのかかる場面でのマインドセット 心を整えるためにすることは

【連載】有村智恵のCHIE TALK(第6回・前編)

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 不調時やスランプにおけるマインドセットや、実際に行なっていたメンタルを整えるための手法とは? JLPGAツアー通算14勝をあげ、現在はツアー休養中の有村智恵プロに語ってもらった。

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インタビューに答える有村プロ photo by Sportiva

――ゴルフにおけるメンタルの大切さをお話いただきたいのですが、ゴルフとメンタルの関係については、どうお考えですか?

 ゴルフは"メンタルのスポーツ"って言われるくらい、メンタルがプレーに大きく影響してきます。私が「やっぱりゴルフって難しいな」と思うところは、反射的に体を動かすスポーツではないところです。身体が静止した状態から、脳から指令を出して自分の身体を動かさなければいけないスポーツだから、メンタルの影響を受けやすいんです。

 そして、ボールを打っている時間よりも、歩いてラインを読んだり、風を読んだりとか、考えている時間がすごく長いスポーツなので、一度自分を見失ってしまうと、絶対にスコアにならない、っていうことが多かったですね。

――たとえば、優勝争いしている時は、どのような心境で臨んでいましたか?

 優勝争いをしている時は、「この緊張から早く逃れたい」と思ってしまうんです。早く逃れたいから、なにかを決めきれずに打ってしまったり、少し打ち急いでしまったり。でも、それは絶対にミスにつながってしまいます。そのミスで優勝を逃したこともありました。

「今は緊張しているけど、大丈夫。自分がやるべきとことをやっておけば大丈夫」みたいな、そういうマインドで最後の最後までいられた時は、優勝できたことが多かったです。

 結局、"自分との戦い"とも言われますけど、緊張から早く逃れたいという思いから、いつもと違うことをしてしまうと、自分に負けたなって思います。己との戦いをずっと続けている感じがしますね。

【大事な場面では歌う?】

――己との戦いを克服するためには、何を意識すればよいのでしょうか。

 宮里藍さん(ツアー通算14勝/USLPGA7勝ほか海外ツアー通算9勝)が、ピア(・ニールソン)とリン(・マリオット)から教わっていた、「ビジョン54」っていうカリキュラムがあるんですけど、その考え方が面白くて。「数を数えながら打ってみる」とか「歌を歌いながら打ってみる」とか、プレー中にショットのことを考えないための考え方なんです。「シンク・ボックス」と「プレー・ボックス」、つまり、考えるところ(=シンク・ボックス)と、プレーするところ(=プレー・ボックス)で線引きをしなさい、っていうのが彼女たちの理論で、ショットの(動作に入る)ちょっと前のところに、自分の頭のなかで線を引いて、ここまでは考えるけど、この先は考えない、みたいなイメージを持ちなさい、ということです。

 私は、それに取り組んでから、すぐに優勝した経験もあるくらいです。もちろん、頭の中で、ですけど、スイング中やプレッシャーのかかる場面で歌を歌いながらショットをしてみたら、すごくうまくいったことがありました。結局は、スイングについては"考えない"ことが一番難しいので、考えないように、違うことに意識がいくように、いろいろと試していたことのひとつです。

――効果の実感があったんですね。

 ありました。もちろん毎回効果があったわけじゃないんですけど、調子が悪くなってきたら歌う曲を変えてみたりと、プレー・ボックスのなかでもやることを変えていくことで、自分の中でも気持ちをリセットしたり、変化させることもできました。

 スランプの時や調子が悪い時は、自分のミスや、弱い部分、緊張している事実を受け入れた者勝ちだな、ということを強く実感しましたね。スランプに入ってすぐは、それまで調子がよかった分、まだこれはスランプじゃなくて、ただ何かがちょっとずれているだけだ、と思い込んでしまって。メンタル面の不調も、時間が経てば乗り越えられるって思っていて、どこかで不安な気持ちや、「これ何かおかしいな」と思っている気持ちがあっても、その気持ちにずっと蓋をしてやっていたんですね。

 でも、その蓋を開けて「今、ショットを打つのも怖いし、緊張もしている」という気持ちを認めたことによって、キャディーさんにも「ここは(シチュエーションが)怖いから、逃げていいですか?」と素直に話もできるようになって、スコアメイクもできるようになってきたんです。

 そこはひとつ段階が上がったな、と実感した瞬間でした。あまり自分の気持ちに蓋をしすぎずに、緊張している時にはその対策法もあるから、まずは緊張していることを「受け入れる」ことがすごく大事だなって思いました。

【プロゴルファーもみんな緊張している】

――アマチュアゴルファーにも参考になりそうですね。

 ずっとプロゴルファーをやっていて、何回も勝っていたら「緊張なんかしないでしょ?」と言われることも多いんです。でも、緊張はみんな当たり前にしています。「強い人イコール、緊張もしないし、ミスしてもうまく切り替えられる人」と思われがちですけど、(プロゴルファーは)みんな緊張していますし、試合でのプレーは緊張している自分を受け入れたうえでのパフォーマンスなんです。

 緊張はしているけど、日頃から緊張感のなかでいいパフォーマンスをするためにはどうしたらいいかを意識して、練習して、培っている部分もありますし、ミスをしても結局、一番大事なのは次の一打です。次の一打をどうするかを常に考えないといけないスポーツなので、瞬時に状況判断をして、次の一打でいいパフォーマンスをするためにどう改善するかが大事です。

「さっきはなんであんなことをしちゃったんだろう?」と考え込んでしまうと、「なんで?」っていう思考だけで終わってしまうので、次に進むためにも「次に何をしなければいけないのか」を考え続けるようにしていました。

――大きなミスをして焦ってしまう時には、どのようなメンタルで臨めばいいのでしょうか?

 常に右に曲がっている、または常に左に曲がっている状態だったら、シンプルにそれを受け入れて、右に曲がっているなら左を向いて、スライスを打つイメージで戦えばゴルフにはなるんですけど、それが、さっき言った「受け入れる」ということなんですよね。

 アマチュアの方でも、ボールが大きく右に曲がった時、その前までのショットも右に曲がっていたのであれば、常にまっすぐ向き続けることはおススメできません。もちろん、曲がらない方法を考えるのは大事なことですけど、すぐには修正できないという前提で、その日のスコアをメイクするためには、それを受け入れることが大事です。思い切って左を向いて「ちょっと右に出ても仕方ない」と思って打っていくくらいの気持ちが、絶対的に必要なことだなと思います。

 でも、アマチュアの方にとっては、もちろんスコアが大事じゃないわけじゃないですけど、まっすぐ飛ばすこともゴルフの楽しさだと思うので、ナイスショットを打つ快感を得るためにトライするのも捨てがたいですよね。

>>後編【有村智恵に聞く優勝争いのプレッシャーに打ち勝つ方法  メンタルが強い女子プロは?】に続く

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。