[画像] 「時代遅れ」のままになってない? イメージ刷新 で新たな顧客層を狙う3ブランドの事例

記事のポイント新戦略でブランド再構築を図るQVC、メンズウェアハウス、ミラの事例を紹介。QVCは、他ブランドが注目していない50歳以上の女性をターゲットに、顧客層の拡大を狙う。老舗ブランドに限らず、ミラのようなスタートアップ企業もビジネスニーズの変化に応じて新しいアイデンティティを確立する必要性に気づいている。
QVCが今年、マーケティング戦略の変更を決定したとき、ブランドマーケティング担当バイスプレジデントのアネット・ダンリービー氏は、一部の企業から意識されていないことが多いデモグラフィックの力を活用したいと語った。QVCはこれまではミレニアル世代やZ世代の購入客からの注目を集めようとしていたが、今回は50歳以上の女性に注力しようと考えたのである。「あらゆる層を追い求めたが、それはうまくいっていない」とダンリービー氏は語る。「優良顧客に対する尽力を倍増させることにした。それは50歳以上だ」。

50歳以上の顧客に注力する狙いとリーチ方法

そのために、QVCはマルチチャネル展開の「エイジ・オブ・ポシビリティ(Age of Possibility)」ブランドキャンペーンの一環として、全国各地でライブ放送やイベントを主催している。4月にローンチしたこのキャンペーンのために、マーサ・スチュワートやクイーン・ラティファのようなセレブから、アメリカがん協会のカレン・クヌーセン博士をはじめとするリーダーまで、50歳以上の女性50人がブランドアンバサダーに選ばれた。

QVC「エイジ・オブ・ポシビリティ(Age of Possibility)」のキャンペーンページ

ダンリービー氏は、米モダンリテールが主催したモダンリテール・マーケティングサミット(Modern Retail Marketing Summit)において、ブランド認知を再形成する方法について語った登壇者の1人だ。QVCやテーラードブランズ(Tailored Brands)傘下のメンズウェアハウス(Men’s Warehouse)のようなレガシーブランドは、ブランドについて時代遅れのイメージを抱いているかもしれない消費者に対して、自社を改めて紹介する必要に迫られている。しかし、そのようなブランドは、巧みなマーケティングキャンペーン、真実味あふれるストーリーテリング、新しいアウトリーチ方法により、ターゲット層の間で購入先としての存在を再び印象づけることができる。ダンリービー氏によると、QVCでは50歳以上の女性は常にコア消費者だったという。しかし、現在のマーケティング環境においてこの層はほかのブランドから必ずしもアプローチされていなかった。同氏は、QVCの調査で、ブランドに支持されていると感じているのは50歳から70歳までの女性の3分の1未満であることがわかったと述べた。広告内で自分のような人々が表現されていると感じている人は約21%とさらに少ない。それに対してダンリービー氏は、「QVCチームは50歳以上の女性にとって、人生の希望と可能性を強調したかった」と言う。QVCチームは自社の起業家ネットワークからアンバサダーを選び、力強いストーリーをほかの人々に共有した。「最高の人生を送っている50人の女性のグループを立ち上げ、50歳になっても人生は終わらないことをほかの女性たちに示した」。すべてのブランドアンバサダーキャンペーンが同じというわけではない。シェフのカーラ・ホール氏のようにライブイベントを行うアンバサダーもいれば、デザイナーのステイシー・ロンドン氏のように、新コレクションを発売する際にインスタグラムで紹介されるアンバサダーもいる。QVCはまた、Facebookの力も活用しており、そこでは38万8000人以上の女性が「Over 50 and Fabulous(50歳以上で素晴らしい)」グループに所属しているが、ダンリービー氏によると、メンバーの多くは、このグループがQVCによって立ち上げられたことさえ知らないかもしれないという。QVCが克服しなければならなかった最大の課題は、顧客がすでにQVCに対して一定のイメージを持っているかもしれないという点だった。「当社にとってブランド認知度は問題ではない」とダンリービー氏は言う。「だが、誰かがQVCのことを耳にして、QVCについて知っていると思っていても、実際にはよく知らない。我々の仕事は、顧客に印象や考えを変えてもらい、(購入先として)考慮してもらえるようになることだ」。

最大の課題は、時代遅れというブランドの印象を変えること

メンズウェアハウスとジョス・A・バンクス(Jos. A. Banks)を傘下に持つ紳士服持株会社テイラードブランズの最高ブランド責任者、マット・レピキー氏は、同社が克服しなければならなかった大きな課題の1つには、ブランドが商品自体にいたるまで古臭いと思われていたことがあったと語る。「フォーカスグループに参加して、カルバン・クライン(Calvin Klein)のブルーのスリムフィットのスーツを見せた。すると、『スリムフィットのスーツを扱っているのか? 貴社の製品はボクシーなものばかりだと思っていた』というような反応がかえってきた。いや、そうではない、我々は(顧客から)着たいと思われる商品を取り扱っている」。このような認識の変化は商品とマーケティングの両方を通じて生じるものだ。レピキー氏は、メンズウェアハウスはYouTubeやTikTokショートなどのチャネルでのチュートリアルに注力していると、オンラインで語っている。昨年、同社は広告パートナーを変えて、ユーモアのある軽めのコマーシャルを制作した。そのうちの1本には、結婚式から就職面接、ゴルフコースへと急ぐ男性がその合間にメンズウェアハウスに立ち寄っては新しい服を探す様子が描かれている。「消費者が当店に来られるさまざまな目的を示すために、間口を広げている」とレピキー氏は述べる。

メンズウェアハウスの新コマーシャル「When you look this good, you can do anything.」

新しいアイデンティティで成功した冷凍食品企業ミラ

ブランドに対するイメージに関する議論はレガシーブランドに限ったものではない。スタートアップ企業もビジネスニーズの変化に応じて新しいアイデンティティを確立する必要性に気づいている。冷凍小籠包ブランドのミラ(Mìlà)は、D2Cからオムニチャネルへの拡大に伴い、パッケージとマーケティングに複数の変更を加えた。最初の卸売パートナーはコストコ(Costco)で、2023年半ばから発売が開始され、2023年10月にはターゲット(Target)の150店舗以上で取り扱われるようになった。共同創業者のジェン・リャオ氏は、スーパーの買い物客に自社を改めて披露することができた主な方法の1つは、俳優のシム・リウとの提携だったと話す。リウ氏は自身のコンテンツでミラの小籠包を利用しており、ミラのキャンペーンの事実上のスポークスパーソンとなっている。また、ミラはターゲット(Target)での発売時には、現金20ドル(約3000円)が入った赤い封筒を用意し、店舗あたり1点の商品にテープで留めて進呈した。

俳優シム・リウが出演するミラのコマーシャル

このリニューアルではフォントや写真、色などのパッケージング要素や、冷凍食品コーナー以外で自社を紹介するためのマーケティング戦略にも注力した。ラベルに英語と中国語の両方を記載するというような、同業他社のアドバイスに反する意図的な選択をしたこともあった。ほかの多くの冷凍食品ブランドも、包装に透明部分のカットアウトを加えて中身を見せたりはしているが、パッケージの色調は明るくはない。リャオ氏は今後さらに変更を加える可能性があることは否定していない。「だが、いまはまだ展開に注力しており、これまで構築した多くの需要に対応している」と述べた。[原文:How companies like QVC are reintroducing themselves to customers]Melissa Daniels(翻訳:ぬえよしこ、編集:戸田美子)Image by QVC