テーマパークが日本にやってきてから約40年。当初は、「テーマパーク」なだけで人気だったものも、絶対数が増えるにつれて、そうはいかなくなる。そこで従来の「量」をさばくやり方から、それぞれのゲストの「質」を取る方向に全体がシフトしているのだともいえる。

◆テーマパーク以外の観光地でも「消費額を増やしていく」方向性

実は、「量から質へ」の転換は、テーマパークだけで起こっているのではない。

観光産業全体の昨今のトレンドでもある。2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、今後の日本全体の観光の方向性として、「量から質」への転換が謳われている。そこでは、これまでのような観光客の量に依存して収支を取るのではなく、一人一人の消費額を増やしていく方向で観光地を形作ることが目指されている。こうした背景には、コロナ禍を経験したことにより、観光客の量だけに頼ってしまう危険性が露呈したことや、昨今話題になっている「オーバーツーリズム」(観光客の増大により、地域住民の生活に悪影響が出たり、観光地の質が低下してしまうこと)の問題も関係していると思われる。

例えば、国内外に69の施設を持つ星野リゾートの代表である星野佳路氏は、とあるインタビューの中で明確に「これからの観光はコロナ禍前に出来なかった量から質への転換が重要だと考えています」と述べ、自社での沖縄のプロジェクトについて説明する。そこでは客単価を下げず、社員教育を徹底して、サービスを徹底させていった経緯も語られている。

◆テーマパークは「行きたい人だけが行けばいい」けど…

「量から質へ」の転換は、テーマパークのみならず、観光業全体、ひいていえば日本全体で起こっている変化なのである。

しかし、「質」を向上させるには、基本的にその施設の利用料を引き上げるしかない。観光立国推進基本計画でいわれていたように、量に頼るのではなく、一人一人の消費額を上げる方向を目指すのならば、当然それぞれの商品やサービスの単価は上がっていく。

また、テーマパークの事例でも明らかなように、「質」の向上は基本的には「チケット料金の値上げ」を意味している。イマーシブ・フォート東京が典型的なように、ゲスト一人あたりにかけるコストをあげていくことが、体験価値の向上につながっていくからだ。

テーマパークだけであればいいかもしれない。「行きたい人だけが行けばいい」といえるからだ。ただ、それが、観光業界全体で起こっているとなると、(卑近な言い方になるが)これからの観光は「金持ち」しかいけない、ということになってしまうのではないか。もちろん、これは誇張した言い方だ。さまざまな工夫で低価格の観光も実現はされていくだろう。

とはいえ、「質から量へ」のシフトは確実に現在起こっていて、「たくさん消費をさせる」方向へ社会全体が進んでいる。

テーマパークからは、日本の観光産業全体で起こる問題も見えてくるのである。

<取材・文/谷頭和希>

―[テーマパークのB面]―

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)