近年、墓じまいをする人が増加。永代供養やバーチャル霊園など、供養方法も多様化している。とはいえ、まだまだ昔ながらのお墓にこだわる人も少なくない。今回は、古いお墓を建て替えるタイミングでトラブルに直面した、井出文乃さん(仮名・40代)に話を聞いた。
 井出さんの先祖のお墓は古いもので、墓地の敷地自体は同じでも、戦死した人とそれ以外の人が入る墓石が別になっているものだったとか。また、どのような経緯で建てられたのかわからない小さなお墓も4つほど。ひとつの墓石を除いては、経年劣化していた。

◆お墓の建て直しを相談

「母は、いつかはどうにかしなければならないと考えていたようです。そして父が亡くなったときに、お墓を建て直したいという話になりました。最初は、墓じまいをして永代供養するという意見で一致していましたが、事情があり、お墓を建て直すことになったのです」

 けれど、依頼する業者に心当たりはない。周囲に墓石を建て直した人もいなかったため、ひとまずネット検索。そのなかから60年近い歴史があり、仏壇仏具などの店舗をいくつも展開する地元企業を選んでお願いすることになった。

「紹介された担当者と会ったとき、相槌を打つタイミングや返答の内容から、話をきちんと聞いているのかと疑問に思うことはありましたが、母は信用しきっている様子。150万円超えの工事費は母がすべて支払うとのことでしたから、決定権を持っていたのも母でした」

 思ったことを母には伝えたが、「あの人は良い人」「親身になって話を聞いてくれる」と墓石の建て替えを続行。仕事が忙しかった井出さんは、母が担当者と話し合って作成してもらった図面などをチェックし、進めていった。

◆首をかしげるほど別物のお墓が

「一戸建ての自宅を建てるときには立ち会いしたり、こまめに様子を見に行ったりすることが常識となっています。でも、お墓の建て替え時に立ち会いをするという頭はありませんでしたし、図面も出来上がっていたため、そのとおりに建つと思っていたのです」

 ところが、依頼どおりだったのは墓石のみ。お墓の向きも違えば、根石(お墓の下に積む礎石)の高さもまったく違う。井出さんは、「建て替え後にはじめて墓地へ行ったときには、誰のお墓なのかと首を傾げるほどの別物ができていた」と話す。

「しかも、こういう話は意外とあるということを後で知りました。しかも、出来上がったお墓は以前よりも面積が広くなっていたのです。ただこれも、打ち合わせ段階からスペースを広げようとしていた業者へ、事前に疑問をぶつけていたことでした」

 そして、「お墓参りに来た人が嫌な思いをしたらいけないので」と管理者に確認しようとしたところ、「こういうことは、私たちに任せてください」と業者。母がお願いするというので、井出さんも業者に一任したのだとか。

◆会社の人が誰一人、状況を把握していない

「でもあとから確認したところ、実際には墓地の管理者への連絡すらしていませんでした。ただ、管理者に確認してみたところ、区画がはっきりしていないのは事実で、法的な問題はないようでした。とはいえ、周囲のお墓には申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 さらに、根石が高すぎて危険な状態。最初は担当者を通して元の図面どおり修繕するようお願いしていたが、実はその担当者がひとりでどうにかコトをおさめようとしていたことが発覚。会社の人には誰ひとり相談していなかったのだ。

「数か月経っても修繕工事が進まないため、私が母を説得。担当者の個人携帯ではなく、会社に電話して『現状を把握したい』と伝えたところ、会社の人たちは誰ひとり状況を把握していませんでした」