スケールでかい。『ラストマイル』(8月23日公開)は大きなスクリーンで見て楽しいと思える映画だった。そして大きなスクリーンに満島ひかりと岡田将生は映える。

◆主演級の俳優集結!スター揃い踏みができた理由

物流システムを使った未曾有(みぞう)の爆発事件――最後までハラハラが止まらないクライムムービー『ラストマイル』の完成披露舞台挨拶が8月20日に行われたとき、出席した俳優たちが映画のスケールにふさわしく豪華だった。

満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、阿部サダヲ、石原さとみ、井浦新、市川実日子、綾野剛、星野源、麻生久美子と、スター揃い踏みといった風情があった。

主演級の俳優たちをこんなに集めることができた理由は“シェアード・ユニバース”という企画にあった。

大人気ドラマ『アンナチュラル』(18年)、『MIU404』(20年)と同じ世界線で物語が展開するというものだ。脚本・野木亜紀子、演出・塚原あゆ子、プロデュース・新井順子の3人がそろって手掛けたヒットドラマのメインキャストを『ラストマイル』に集結させたことによって、先述の豪華キャストが実現したのである。

◆『アンナチュラル』『MIU404』どちらも事件もので交差可能

『アンナチュラル』は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」で働く人たちの医療ドラマで、石原さとみは法医解剖医のヒロインを演じ、井浦や市川はその同僚である。『MIU404』は警視庁刑事部・第4機動捜査隊が関わる事件を描いた刑事ドラマで、綾野と星野はバディで捜査に当たる。

いくら同じ制作者が作っていても、時代もジャンルもちぐはぐだったらシェアード・ユニバースできないが、どちらも事件ものなので、機動隊は捜査にあたり、医療チームは謎の死の原因を解明するというところで交差することが可能であったのだ。

舞台挨拶には参加していないが、『アンナチュラル』からは窪田正孝、竜星涼、飯尾和樹、吉田ウーロン太、薬師丸ひろ子、松重豊が出演し、『MIU404』からは橋本じゅん、前田旺志郎、金井裕太、永岡卓也が出演している。出演者が多過ぎて、満島と岡田の話題になかなかたどりつけないが、もう少しお待ちを。

映画やドラマでカメオ出演として、著名な俳優がほんの短い時間、参加する仕掛けがあるが、『ラストマイル』の場合、すでに確かな物語を紡(つむ)いできた役柄としての登場なので、出番が多少短くても、彼らが何を思って仕事に従事しているか伝わってくる。

警察も病院も物流会社の社員たちもマンションに暮らす人たちも、みんながそれぞれの生活があって思いがあって、それが繋がって成り立っているという世界の仕組みがこれほどわかるやり方もないであろう。

◆「物流が止まると大変」という監督の発想から

『MIU404』で道路網が東京の各地(ひいては日本中)を繋いでいることを可視化させていたが、『ラストマイル』では物流網が人間の身体のなかに流れる血管のようだ。

「物流が止まると大変」という発想からこの企画を提案したのは塚原監督で、野木亜紀子が出演者というピースの多い難易度高いジクソーパズルのような脚本を書き上げた。労作である。

2本のドラマを見ていなくても楽しめないわけでは決してない。中心は、新たに設定された巨大物流会社DAILY FAST(通称:デリファス)とそこで働く人たちだからである。

おまたせしました、満島ひかりは、デリファス巨大物流倉庫の関東センターのセンター長・舟渡エレナ役で、岡田将生はチームマネージャーの梨本孔役を演じている。

エレナはエルメスのバーキンを持つおしゃれでバリバリの働き者、梨本は転職入社の2年めで、仕事は粛々(しゅくしゅく)とこなすがエレナと比べるとテンションは高くない。