登場人物の誰かに感情移入してもらえると、その人物の視点から佐々田のことを考えてもらえるかなと思っています。

◆私が高校生の頃は「死神」でした(笑)

――佐々田には、沢村さん自身が投影されているのですか?

スタニング沢村:抱えている事情や、虫や森林浴や料理が好きなところが同じなので、最初はそう思っていました。でも今となっては、色々なキャラクターに自分の要素が入っているなと思います。

 例えば、自分の問題の根幹から逃げ回りがちなところは高橋と似ているし、オタク的なところは前川さん。私が通っていた高校は私服で、黒づくめの墓掘り人みたいな格好をしていたのでファッション的には「死神」の小野田くんでした(笑)

――佐々田が、陽キャの高橋に絡まれて戸惑っている様子は、学生時代はこういう場面があったなと懐かしく感じました。

スタニング沢村:たまにありますよね、陽キャ側が飽きると終わるんですよ(笑)。からまれている方としては、こそばゆいというか、「なめられてるのかな?」と思ったり。でも、ときには自分がダルがらみする側になってしまうこともあるなと思います。

――作品内のスクールカーストの分布図が面白かったです。

スタニング沢村:私のイメージですけど、軽音部はサブカル系グループ、漫画好きはオタク系グループに分かれているのですが、意外と漫画の貸し借りをしたりして繋がっているところがあると思います。

 佐々田は、周りからは陰キャと言われているかと。自然散策が好きなので、“アウトドア系”のグループがあったら入れるかもしれないですね。

◆編集さんとの合言葉は「不作法にならない」

――本作では、「トランスジェンダー」というテーマが語られるシーンが少ないように感じるのですが、なぜでしょうか。

スタニング沢村:私は創作する時に、物語の中に直接的に人を属性分けするようなワードや社会的な問題への言及を入れ込もうとすると、どうしても筆が進まなくなるタイプだったのでそうしたんです。

 読んだ時にテーマばかりが際立たないように「“不作法(ぶさほう)”にならない」を合言葉にして、編集さんと常にディスカッションをしています。

 でも、トランスジェンダーであることを描こうとすると、結構すぐに“不作法”になりがちなんですよ。実際に生活で困るのはトイレのことだったりするので、すぐに社会的な仕組みや政治の話になってしまう。

 社会問題も視野に入れつつ、個人の受け取り方の問題に限定しないように、嘘偽りのない形で物語として描くのはさじ加減が本当に難しいです。

◆悩みがあっても、笑っているし友達もいる

――確かに、主人公が酷い目に遭ったり、差別に苦しむシーンばかりだと、読んでいて辛くなってしまうかもしれないですね。

スタニング沢村:私が子供の頃に見たトランスジェンダーを扱った作品は、ほぼ全部暗かったんです。特に印象的だったのは、『3年B組金八先生』で上戸彩さん演じる、学校では女子として扱われるトランスジェンダーが登場した第6シーズン。

 当事者の辛さを描くという点では画期的な作品だったし、それによって救われた人は沢山いると思うのですが、私は「悩んではいるけど、毎日こんなに辛くないし、笑顔で過ごしてるんだけどなあ」と思っていました。

「ここまで辛そうな顔をして生きていない私は、本当のトランスジェンダーとはいえないのかな」と感じて余計塞(ふさ)ぎ込んでいました。

◆性自認について悩む子供がいたら

――もし、性自認について悩んでいる子供がいたら、どう接してほしいと思いますか?

スタニング沢村:子供が自分から「トランスジェンダーかもしれない、病院に行きたい」と言っていたら相当悩んでいると思うので、真剣に聞いてあげるといいんじゃないかと思います。