8月上旬から中旬にかけ、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発令。期間中、SNSでは「地震雲(地震の前兆を示す雲)が出ている」といった投稿が散見された。しかし専門家は「雲の見た目から地震の影響などを判断するのは不可能」として、正しい認識を持ち余計な不安を煽らないよう呼びかけている。

【写真】こんな雲も地震雲と言われがちですが…違います!

SNSで目立ったのは「これやばい雲じゃない?」「3本線の地震雲出てた」「そろそろ来るか」といった投稿。中には5万件以上「いいね」が寄せられるなど、広く拡散されたものもあった。

「雲は地震の前兆にはなりません」「世間一般で地震雲として騒がれている雲は実は日常的によくある雲で、全て気象学で説明できる雲です」。そう断言するのは、雲研究者で気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎さん。荒木さんは大ヒット映画「天気の子」の気象監修を務めたことでも知られる。

例えば、空に立つように細長く伸びる雲は地震雲だと言われがちだが、これはただ飛行機雲が伸びたものだという。なお実際には「立っている」わけではなく、地上から空を見ている方向と同じ向きに伸びているだけで、同じ高さに水平に発生している。

また、青空と雲の境界がはっきりと分かれている場合も地震雲と呼ばれることが多いようだが、このような雲は気団の境目で発生し、ごくありふれた現象だという。波打つように広がる波状雲についても「地下の異常に伴って発生している」と主張する人がいるが、荒木さんは「波状雲は大気重力波に伴うもの。発生には大気の状態が非常に重要であり、重力場(※重力が作用する空間)の変動は無関係」とする。

これ以外にもソフトクリームのような形の「吊るし雲」、朝焼け、夕焼け空などさまざまな空の事象が「地震の前兆だ」と喧伝され、しばしば荒木さんのSNSに問い合わせのメッセージが来ることもあるというが、どれも「普段から空を見上げていれば頻繁に出会える」ものばかりだという。荒木さんは「地震雲という考え方は、日常的に空を見ていない方がたまたま空を見上げたときに目に入った雲や、大きな地震の後に見かけた至って普通の雲に当てはめられているように考えられます」とし、認知心理学の分野に近い領域ではないかと推察している。

その上で「自分の知らない現象を不吉なものとしてカテゴライズして安心しようという心理が働いているのかもしれません。地震が不安であれば日頃から備えましょう。その上で雲は愛でましょう」と呼びかけている。

(まいどなニュース・小森 有喜)