◆鴻海グループの傘下に

 業績悪化に歯止めがかからず、16年3月にシャープは台湾の鴻海グループから3,888億円の出資を受け、同グループの傘下に入りました。鴻海グループはiPhoneや任天堂のゲーム機などを生産するEMS(電子機器の受託生産)大手の企業です。鴻海はシャープの液晶技術を欲しており、特にディスプレイ用半導体「IGZO」の技術を求めていたと言われています。

 この出資によってシャープは16年3月期末時点での債務超過を解消し、以降は戴正呉氏の主導のもと、コストカットを進めました。具体的には原材料調達やオフィス賃貸料の見直し、数千人規模のリストラやマネージャー降格制度の導入などがあります。細かいところでは「堺工場内におけるエスカレーターの停止」や、「中国出張者は鴻海の施設を使う」といった施策があげられます。そして、これらのコストカット策が功を奏し、シャープは2017年3月期から22年3月期の間、営業黒字を維持しました。

◆ディスプレイ需要の低調で業績が悪化

 しかし23年3期、と24年3月期は営業赤字となり、1,000億円単位の減損損失を出したことで最終損失はそれぞれ2,608億円、1,500億円と大幅な赤字となりました。コロナ禍におけるスマホ需要の低迷や、21年度以降のパソコン需要停滞に伴う液晶需要の減少が主な要因です。鴻海傘下で高コスト体質を解消したとはいえ新たな製品群を生み出したわけではなく、シャープの液晶依存体質は変わっていませんでした。

 業績悪化を受け、今期は堺工場での大型パネル生産を取りやめる方針です。また、スマホ・パソコン向けの中小型パネルも減産する計画を発表しています。テレビ生産から撤退するわけではありませんが、アクオスの一部モデルの液晶は外部調達になるとみられます。

 規模縮小策により今期の売上高は10%減の2兆1,000億円を見込んでいます。液晶パネルのシェアは現在、中国がシェアの7割を握り、過去にシャープを追い抜いた台湾、韓国勢も地位を落としました。シャープが再びトップに返り咲くことはないでしょう。液晶で咲き散ったシャープは国産家電メーカーが見せた最後の栄光となったわけです。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_