◆マイノリティな病気であることの辛さ

「自分の病気はマイノリティ・オブ・マイノリティ。共感してくれる人、苦しみを共有して励まし合える人が本当にいないんです」と、矢野さんは続ける。

「つい先日、YouTubeにコメントをくれた方が、どうやら似たような目の病を抱えていることがわかったんです。こういうとき不便だよね、つらいよね、という実感を共有できたとき、ふるえるほど嬉しかったですね」

 光が完全に遮断された、真っ暗な部屋で24時間。外には一歩も出られない。入浴も、光刺激がもっとも少ない真夜中の時間帯に、体調を見ながら妻の介助を得て入っているという状態だという。

「新型コロナが流行していたとき、ホテルで一週間隔離されてつらかった、というエピソードをよく耳にしました。ご本人は、たしかにつらかったのでしょう。でも僕は、『ネトフリ観られるんでしょ? スマホ触れるんでしょ?』と思ってしまいましたね。目がちゃんと使えて同じ状況になれるなら、5年隔離されてもいいくらいです」

 また、「先天的に目が見えないのか、後天的に目が使えなくなったのかの違いも大きい」と矢野さんは話す。

「そこにはまた、違った苦悩があると思います。しかも僕の場合は、症状が出だしてからまだ7年ほどですし、40歳を過ぎてからの発症だったので、健常者より耳や触覚が発達しているとか、そういうことはないです。いきなり真っ暗闇の中に放り込まれた、という印象が今も拭えないですね」

◆病気を知ってもらうことの取り組み

 矢野さんは現在、YouTubeやnoteなどで、病状の変化や日々思うことをありのままに発信し、「この病気を知ってもらうこと」を目指した活動を行っている。

 YouTubeチャンネル「やのひろば」では、「まずは病気のことを知ってもらうこと」を主眼とし、病状の変化を伝える動画を投稿。日々の生活のなか感じたことなど、何気ない近況が、夫婦の温かい空気感、息の合ったテンポで語られている。

 また、病気についての発信だけでなく、矢野さんが落語を実演している動画も配信しているようだ。

「実は、笑点の新レギュラーになった落語家・立川晴の輔さんと旧縁があって、落語を教えてもらったんです。聴くだけでなく、実際にやるのはとても楽しく励みになるのですが、いかんせん台本を見ることができません。落語家の実演を聴いて覚えるしかないので、本当にちょっとずつしか覚えられないんですね。ひとつの落語を通しでできるようになるまで、30日はかかってしまいます」

 なお、現在は病状が芳しくなく、落語の実演はなかなか再開できずにいるとのこと。

◆Zoomでの交流が“唯一の外部との交流”

 そのほか、音声で交流するためのルーム「やのZOOM」を可能な限り開放。Xや所属するオンラインコミュニティでURLを投稿し、そこに訪れた人とざっくばらんに交流している。過去には、お笑い芸人のねづっち氏や、チャンス大城氏も入室したことがあるようだ。

 もちろん、矢野さんと会ったことのない人が入室することも可能。矢野さんは、「たまにYouTubeや、メディアへの出演をみて、『初めてなんですけど』って来てくれる人がいるんです。いつものメンバーが来てくれるのも嬉しいですが、初めての人が来てくれると、めちゃくちゃうれしいですね」と話した。

◆SNSが「命を繋ぐ生命線」

 まったく外出することができないため、基本的に直接会うのは妻の久美子さんのみ。そのため、Zoom上で声を通じた交流を行うことが、精神的な支えとしても大きいのだという。

「Zoomがあって、そこに来てくれる人がいることで、外の世界の人たちと繋がることができます。ここでの交流が外の世界の人と交流できる唯一の手段と言っても過言ではありません。来てくれる人がいることもありがたいですし、SNS媒体が増え、さまざまな発信ができる世の中になったことも本当によかったと思っています」