ゴミ屋敷では山のように積まれた品々を片付けるなかで、時には排泄物、悪臭、害虫、害獣をも受け止めつつ、人骨を発見するといった驚きの出来事も。
【ビフォーアフター写真】孤独死した母にも気付かなかった家のユニットバス。美しくなりました
関西一円でゴミ屋敷の片付けや不用品回収などの業務を担う株式会社スッキリン(兵庫県西宮市)では、YouTubeやInstagramで依頼者の話や現場の様子をご本人の許可を得た上で発信。それぞれの依頼主が現状から脱出したい、きれいな部屋で改めて一歩踏み出したいという気持ちが伝わってきます。
今回、清掃作業についてお話を聞くなか、母親が失踪したと思っていたある依頼者さんのエピソードを、同社代表取締役の西岡巧貴さん、現場責任者の池上尚吾さんが教えてくれました。
不用品回収中に発見したもの…現場は騒然
――ご依頼の数だけ、お宅それぞれの状況やご事情、背景がありそうです。
公開している動画はほんの一部です。例えば、ペットの排泄物を処理せずそのまま長時間放置された現場は、夏の暑さで排泄物からガスが放出され、部屋に入っただけで舌が痺れ、喉が熱くなります。
ゴキブリの死骸が浴室に詰まっている現場や、うさぎが放し飼いされていた砂埃まみれのゴミ屋敷、ゴミが層になった上で生活することでゴミが踏み固められたミルフィーユゴミ屋敷、ゴミ屋敷で孤独死しネズミやウジ虫が湧いている家、マンションのお風呂場での練炭自殺現場の清掃など本当に特殊な案件が数々あります。
最近で特に衝撃的だったのは、2023年12月にご依頼のあったゴミ屋敷の家から人骨が発見された案件です。
――そんなことが!?
京都府の20代男性の方から、就職で遠方に引っ越すにあたり「自宅の不用品全回収」のご依頼をいただきました。元々は家族4人で暮らしていた4LDKのご実家で、ご依頼時は一人住まい。家は全ての部屋に床一面ゴミが拡がっている状態のゴミ屋敷でした。
スタッフ8名、作業時間7時間を想定して作業を開始したところ、10年間“開かずの間”状態であった和室のゴミを「テミ」という道具ですくいながら回収している中、何重にも積み重なった布団や毛布をめくったところ、スタッフが床上に人骨のようなものを発見しました。
――依頼者さんにはどのようにお伝えを?
スタッフも最初は「理科室にあるような骨格の模型かな?」と思ったようですが、人骨であることを確信し、作業を中止。すぐに依頼者さまに見ていただいたところ「10年前に失踪した母親かもしれない」となりまして。警察を呼び、依頼者さまとスタッフは事情聴取を受けました。
その後、警察により本件は事故処理され、それから約2ヵ月後の2024年2月に回収作業を再開。無事完了し、依頼者さまは引っ越しされ、新しい仕事をスタートされています。
――さぞ驚かれたのではないかと。
発見した瞬間は驚きのあまり声が出ませんでした。人骨だと確認しながらも「え!待って、怖い怖い!」という感じで騒然としていて。状況が整理されてからは皆静かに驚愕しておりました。
――依頼者さんの現場でのご様子は?
最初は驚きで言葉が出ず、混乱されている様子でした。その後、昔の記憶を手繰り寄せるように思案され、出てきた人骨がお母さまのものであると気づかれてからは動揺しながらも状況の説明をしてくださいました。
――気丈にふるまってらっしゃったのですね。
10年前の当時、お母さまはよく家出をして数日間帰ってこないことがあったそうです。「また数日経てば帰って来るだろう」といった具合で。そもそも家族仲があまり良くなかったこともあり、帰ってきたとしてもお母さまは和室にこもり、特に会話などもなかったとのことでした。
元々ご両親共に片付けが苦手で、依頼者さまは幼少期から慢性化したゴミ屋敷の中で生活をされていたようです。お父さまが3年前に亡くなり、お姉さまも就職で家を出て、常態化したゴミ屋敷の中で一人で暮らしておられたので、お母さまのご遺体の異臭などの異変に気づかれることもなく、今回の作業中での発見に至りました。
――その後、依頼者さんは無事新しい仕事もスタートされたと。
はい。「心の整理はついていない部分はあるけれども、前を向いてやっていくしかないですね」とお話されていました。
1回目の回収中止後、その後の様子が気になったこともあり、依頼者さんとはずっとコンタクトを取り続けていました。最終的に弊社に2回目のご依頼をいただき無事完了したのですが、実は3回目の回収のご依頼もあって。
――3回目も?
回収時に、不要なものは手放し、必要なものは手元に置いておいていただくのですが、依頼者さまご自身すごくモノを大切になさる方で、1部屋分くらいの荷物を手元に残したままでした。しかし、引っ越し先にすべて持っていくことができなかったようで、「やはりこれは処分します」とのことで3回目の回収を行いました。
3回目にお会いした時には、依頼者さまの顔つきや話し方が大きく変化されていて驚きました。「前を向いて頑張っていこう」という気持ちがすごく伝わってきて、その変化が私たちもとても嬉しかったです。
――スッキリンさんが親身になって寄り添われたことが伝わってきます。
3回目も弊社を呼んでいただけたので、信頼関係を築けていたのではないかと思います。とてもありがたいことです。
――「捨てられない」「もったいない」という気持ちが強いとやはりモノが溜まりやすいのでしょうか?
「思い出」というカテゴリを普通の人よりもだいぶ広く取っている方は、「思い切って処分」ということがなかなかできません。モノ一つ一つへの思い入れが大きい分、なかなか捨てられない印象はあります。
――ちなみに今回の現場のお見積り費用は?
当初の見積りは40万円だったのですが作業中止になったため保留に。事故後の2回目の作業見積りは、前回作業での人件費、トラック代、事件に係る対応などを含めて追加費用10万円で計50万円でした。
――こういった不測の事態を、スタッフの方々はどのように受け止め、心の整理を?
人骨が発見されたとき、現場のスタッフは驚愕しておりましたが、心の整理に関しては、一般の方よりも事実を事実のままに受け止めることに時間はかからなかったと思います。
というのも、月に平均して少なくとも10件程度は孤独死現場の残置物回収のご依頼をいただいており、仕事の内容や意義を認識して日々の業務にあたっているためです。
メンバー全員が「社会に貢献している」という認識・自負を持って自らの仕事に従事しています。大変な仕事ではありますが、依頼者さまと直で接する機会も多く、直接御礼を伝えてくださったり、依頼者さまが喜ばれたりホッとされる様子をダイレクトに感じられる仕事であるため、何よりもやりがいは大きいです。
また、メンバーの心身面のヒアリングも行っており、そのときの状態が難しいと判断した場合は現場には行かせません。作業後の匂いや衛生面に関しても、社に戻ってからシャワー等で必ず身なりを整えてから帰宅するようにしており、社内も美化や環境整備に尽力しています。
◇ ◇
国土交通省の「死因別統計データ」によると自宅での死亡者数は、13.4万人(2000年)から18.8万人(2019年)へと約5万人も増加しています。
警察庁が発表した、「警察取扱死体のうち自宅において死亡した一人暮らしの者」(※ 警察庁刑事局捜査第一課に報告のあったもの)は、令和6年第1四半期(1〜3月)分暫定値で、総数は21,716人。40〜44歳が259人、45〜49歳425人と数字が増えていき、85歳以上は4922人でした。またエリアでいうと、警察庁(東京)2593人、埼玉1279人、千葉1294人、神奈川1324人、愛知1374人、大阪1879人と人口からも都心部の方が多く、ほかの県は2ケタ、3ケタとなっています。
スッキリンでは、亡くなられた方の遺族からの依頼も珍しくはありません。なかには、家族にも知られたくないという思いもあったからか、亡くなった後にゴミ屋敷状態を知ったという家族もいるそうです。日が経っていた場合は、通常の清掃では対応できず、特殊清掃が必要となります。その際は、最後の姿をひとめでも…とお別れの挨拶をしたくても、止められてしまうような惨状です。また、生活保護を受けながら亡くなった場合、遺族でさえも葬儀に関与できず、すべて行政が執り行った後に通達がきた例もあったそうです。
「便りがないのは良い便り」と考えてしまいがちですが、親や親戚、友人の関係性によっては自宅を訪問したり、メールや電話での連絡をとったり、相手の状況を把握するためにも意識されてみてはいかがでしょうか。
(参照)
死因別統計データ(国土交通省)
令和6年第1四半期(1〜3月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)