吉田健司さん(仮名・30代)は、仕事を終えて帰宅途中に、あおり運転に遭遇した。

「1日の疲れが残っていて、穏やかな音楽を聴きながら妻の軽自動車を運転していたんです」

 すると、後方から激しいクラクションが響いたという。バックミラーを見ると、黒塗りのセダンが吉田さんの車に異常なくらい接近していた。運転手の男性Nはイライラした表情だったそうだ。

「何度もクラクションを鳴らし、左右に蛇行しながら迫ってきました。心臓はドキドキして冷や汗が流れていました。私は制限速度を守って走っているのに、Nの態度はますますひどくなっていったんです」

 Nは、吉田さんの車を無理やり追い越そうと、車線を変更し進路を妨害するような行動を続けた。

「これは危険だ!」と感じた吉田さんは、最寄りのコンビニに避難することにしたという。そして、車を停めたと同時に、Nが車から降りてきて……。

「何やってんだ! 邪魔だ!」

 と、吉田さんの車に向かって怒鳴り声を上げた。吉田さんは冷静に対応しようと決心。「警察を呼びます」と告げると、Nの態度は一変し、平謝り状態になったそうだ。

◆数人の野次馬がスマホで証拠を集めてくれた

「反省している様子はなく、たばこに火をつけ始めました。そのとき、目撃者の1人が『一部始終見てましたよ。証拠もあります』とスマホの動画を見せてくれました。私はNの車のナンバーを確認して、すぐに警察に通報したんです」

 目撃者の証言が決定的な証拠となり、Nは警察に拘束され、吉田さんは無事にその場から離れることができた。そして後日、警察から連絡がきたのだが、そこで衝撃の事実が判明する。

「Nは、私の父親の会社の社員だったんです。さらに、Nの妻と私の妻が同級生であることがわかりました」

 この一連の出来事が周囲に知れ渡り、Nは会社を解雇されることになった。そして、家族ごと引っ越したそうだ。

「あの恐怖の瞬間を思い出すと心がざわつきますが、加害者が適切に処罰されスカッとした気持ちになりました」

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。