また、客商売である以上、重要となるスタッフの育成をはじめからやり直したりすることも有るそうだ。平田さんは「商いは人である」と考えており、ラブホテルに関わらず、「スタッフの丁寧かつ正確な接客や応対が事業を成功させる鍵だと話す。

◆「同業他店との差別化」を重視していない理由

なお、近年は女子会や推し活などのプランや、リゾートを模した内装など、それぞれのラブホテルがさまざまな施策を通して「差別化」を図っていることが多い。だが、平田さんはラブホテル経営において同業他店との差別化は重視していないそうだ。

「私のコンサルティングは、“お客様にとって素敵で便利なホテルづくり”を目指しております。そのために重要なのは同業他社との差別化ではなく、想定顧客層の嗜好に合致した設備や意匠、料金システムの構築です。ラブホテルに限らず、設備をご利用頂く事業においては、その設備の価値が売価と適合していなければいけません」

ラブホテルの料金は、新築開業時の新しい内装や設備を前提に設定されるのが一般的だが、経年劣化しているのに開業当時と同じ料金を設定したままにしまうと、割高と感じられてしまい、利用者が減ってしまう恐れがある。そのため、ラブホテル経営においては設備の新陳代謝を行い需要と供給のバランスを調整しておくことが肝要なのだそうだ。

◆“人気が出るラブホ”の作り方

そして、人気のラブホテルを作る上で平田さんが大事にしているのが「高品質な日常」というキーワードだ。近年では内装に拘ったり特別なプランを用意したりと「非日常」という言葉が一人歩きしているが、平田さんのコンサルティングするラブホテルは、豪華ではないが上質な空間づくりを意識しているという。

また「装飾においては外側と中身で統一感を出すことが一番大事です。ラブホテルにやってくるお客様が望んでいることは実は非日常ではなく、いつもとはちょっと違う日常なのです。非日常を売りにすると興味本意の顧客を集められますが、ラブホテル経営においてはリピートを増やすことが重要なので、『高品質な日常』を演出する事が大事になります」とも。

◆「余韻に浸らせること」で、リピーターが増える

平田さんの会社には、装飾やデザインを得意とする女性スタッフが長年在籍しており、ベッドや椅子、電飾、観葉植物に至るまですべてをイチから取り寄せて統一感のある部屋を作り出すのだそうだ。

彼女が部屋を作る上で意識しているのが、“バランス”。ベッドだけ超高級という一点豪華主義ではなく、すべての家具や装飾に満遍なくお金をかけてバランスよく配置することが、上質な空間を作るためのコツなのだ。

「良いラブホテルを作るうえで大切なのは、お客様の期待感に合致させる事で、そのためには、入店から退店までのストーリー性を重視できるかどうかが鍵になるので、外観から入り口、階段、内観、調度品に至るまでの動線すべてにおいて、期待を裏切らないような構造にできるように努めています」

平田さん曰く、成功しているラブホテルは、ユーザーが退店するときに“足取りが遅くなるホテル”だという。「もう少し居たいな」と余韻に浸らせられることができると、次回からも足を運ぶリピーターが増えていくのだそうだ。そのようなホテルでは、ユーザーが帰り際に次回に来る際の部屋を選ぶ姿も見られるという。

「1個の小さな改善では結果は出ないが、それも100個積み重ねることで結果がでる」と平田さんは話す。商売に近道はなく、適切な努力を重ねることで、結果につながることを、ラブホテル経営が教えてくれる。

<取材・文/越前与 写真提供/株式会社スパイラル>

【越前与(えちぜんあたる)】
ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。