演説中に銃撃され、軽傷を負ったドナルド・トランプ前大統領と、撤退したジョー・バイデン大統領の後継、カマラ・ハリス副大統領による米大統領選は、事前の世論調査で2人の支持率が僅差となるなど、11月の投票日に向け接戦が続いている。

そうした中、海外通販サイトなどでは、銃撃事件時の写真を使用した非公式のTシャツが販売されており、時事通信や日本経済新聞は香港メディアを引用する形で「銃撃の3時間以内には中国のネット通販で、銃撃直後の写真のTシャツが販売されていた」と報じていた。

「奇跡の一枚」世界中に拡散、AP通信は「強力な権利」主張

通販サイトで出回るTシャツの多くは、星条旗の下でシークレットサービスに守られながら、血を流し拳を上げるトランプ氏の写真を使用している。

この印象的な写真は、過去にピュリツァー賞の受賞経験もあるAP通信のエヴァン・ブッチ氏によるもの。SNSなどでは「世界を変える一枚」「奇跡の一枚」といった声があがっており、AP通信も「誇りに思う」とブッチ氏を称賛している。同時に、写真の権利については「強力な権利を持っている」とも主張していた。

“非公式Tシャツ”購入しただけでも「違法」の可能性

今回、話題になった“非公式トランプTシャツ”のように、他人が撮影した写真を許可なく使用しグッズを販売した場合、法的にはどのような問題が起こり得るのだろうか。

著作権に詳しい杉山大介弁護士は、「日本法にもとづく一般論の話をします」と前置きしつつ、次のようにコメントした。

「まず、思想または感情を創作的に表現しているものとして、その写真の著作物性が認められる場合、写真を勝手に複製してはいけません。勝手にプリントし、複製した場合は著作権を侵害していることになります。

また、トランプ氏のように知名度と集客力を持つ人の肖像については、『勝手に商業利用されない』というパブリシティー権が認められます。

そのため、トランプ氏の写った写真を使用したTシャツを勝手に販売すれば、著作権だけでなく、パブリシティー権の侵害にもつながるでしょう」

一方で、こうしたTシャツを“購入する側”にリスクはないのだろうか。

「この手の話では、基本的には売る側が問題となりますが、購入者であっても必ずしもセーフというわけではありません。

商標権や意匠権を侵害しているものについては、自己使用目的であろうとも、現在では輸入するだけで違法になってしまいます。

たとえばですが、正式品が日本で商標登録されている場合、海外からいわゆる“パチモン”を購入すれば違法です」(杉山弁護士)

観光地や繁華街に並ぶ“非公式Tシャツ”は…

海外通販でなくても、たとえば国内外の観光地や繁華街などでは「権利を取得しているとは思えないような」Tシャツが売られているのを見かける。

こうしたTシャツを購入する場合のリスクについて、杉山弁護士は「特にリスクが高いのは、前述のとおり商標法や意匠法違反ですが、日本国内で買っただけであれば、輸入したわけでもないので、違法にはならないかもしれません」と説明。

そのうえで消費者が避けるべきことについて、次のようにコメントした。

「そもそもコンテンツ系の商品は、そのコンテンツに愛着を持っているからこそ、購入するものだと思います。本来の権利者に利益が渡らないような消費活動はすべきではないのではないでしょうか」(杉山弁護士)

トランプ氏銃撃の「奇跡の一枚」を使用したTシャツは現在、日本国内向けの通販サイトでも出品されているのが確認できる。

米大統領選への投票権を持たない日本人が、どのような意図でTシャツを購入するのかは不明だが、購入する前には法的リスクや、権利の問題についてよく考えるべきだろう。