―[貧困東大生・布施川天馬]―

◆『アサシン クリード シャドウズ』が炎上中
 『アサシン クリード』というゲームをご存じでしょうか? 世界トップメーカーのユービーアイソフトが手掛け、プレイヤーは十字軍時代のヨーロッパや、古代エジプトなど様々な時代地域でアサシン(暗殺者)となります。メインシリーズだけで10作以上もつくられている長寿タイトルです。

『アサシン クリード』はシリーズごとに時代や地域設定などが異なり、次作『アサシン クリード シャドウズ』(以下、『シャドウズ』)は、ついに戦国時代の日本が舞台となりました。同シリーズには日本人のファンも多く、日本の町を駆け巡るアサシンの姿を熱望した方も多いはず。

 しかし、いまこの最新作が大炎上しています。一見すると、「主人公が、日本人ではなく黒人だから」と捉えてしまいがちですが、実はこの問題の背景には、もっと根深いものがありました。今回は、その理由をお伝えします。

◆信長に仕えたとされるアフリカ人・弥助がなぜか「伝説の侍」に

 そもそも、問題となっている『シャドウズ』は、侍の弥助と、くのいちの藤林奈緒江が主人公のダブルキャスト作品です。代々シリーズを通してアサシンは現地人が常でしたが、今回はアフリカ人の弥助が起用されています。

 弥助は、キリスト教宣教師に連れられて訪日し、信長に仕えたとされるアフリカ人であり、彼については少ないながらも歴史文献に記述があります。ただ、本当にわずかな記述しかない上に、彼を侍と断定できる証拠はないようです。

 実際、『信長公記』などを見ても、弥助についての記述は薄く、彼をテーマに一冊の本を仕上げるには、多くを想像で補わなくてはならないでしょう。

 ユービーアイソフトは『シャドウズ』を当初は「慎重な考証を重ねた歴史的正確性の高い作品」として認識しており、インタビューでもそう紹介していました。

 ですが、先ほど述べた通り、弥助を侍と断定するには言い難いにも関わらず、「圧制者から日本を救う伝説の侍」とするなど、正確性が高いとは言えません。

◆ずさんな歴史考証

 もちろん、ゲームなのでフィクションの設定で固めている可能性はあります。ですが、それ以外にも、「城内の畳が正方形」「家臣が当時一般的でなかったとされる正座をしている」「神社の境内で線香を炊く」など、日本について十分な検討と考証を重ねているとは考えられない描写が続きました。

 他のアサシンクリードシリーズに目を向けると、ギリシアやエジプトを舞台とした作品では、しっかりと歴史考証に注意が払われています。教育向けバージョンの「ディスカバリーツアー」まで販売しており、史実に即した作品を作る能力はあるはず。

 日本が舞台になった途端にこの有り様。手抜きと取られてもおかしくありません。

◆製作者は日本と中国の違いがよくわかっていない

『シャドウズ』には歴史的考証以外にも様々な問題があります。たとえば、同作に用いられているコンセプトアートに「関ケ原鉄砲隊」という実在する団体の旗とマークが無断使用されていることが発覚しました。

 同団体はユービーアイソフトに抗議しましたが、数日後に無言で画像を削除しています。更に炎上した後日、ユービーアイソフトは関ケ原鉄砲隊に謝罪文を送ったようですが、問題となったコンセプトアートは、『シャドウズ』のコレクターズエディション版に収録予定となっており、2024年7月20日現在、販売自粛の声明は出ていません。

 そのうえ、『シャドウズ』の日本向けトレーラーには、中国語と思われる繁体字の字幕がついていました。動画は既に非公開となっていますが、「製作者は日本と中国の違いがよくわかっていない」と自ら露呈したわけです。もちろん、公式からこれに関する声明は出ていません。