岡田将生の温かな微笑みが見たかった。『虎に翼』(NHK総合)で、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)にやりづらさばかり感じさせていた星航一(岡田将生)が、やたらと笑顔を見せるようになったのである。

 とことん謎な人物像だけに、この微笑み自体が謎に美しいヴェールに包まれている。でも、もしかすると寅子と航一の関係性がさらに親密に温められるのかも?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、岡田将生扮する星航一の変化に注目しながら、SNSでもにわかに論争を呼んでいる、ひょっとしたらひょっとするかもしれない“良い夫婦”関係を想像する。

◆意外な人物からの迷言

 東京の家庭局から新潟地家裁の三条支部支部長として異動した佐田寅子は、孤軍奮闘の毎日である。地方のムラ社会に根付く慣習とのせめぎ合いやひとり連れてきた娘・佐田優未(竹澤咲子)との心の溝など、なかなか骨が折れることが多く、つらい。

 そんなとき、ふとしたタイミングで思いがけず迷言(?)をくれる意外な存在がいる。最高裁判所初代長官・星朋彦(平田満)の息子で、寅子とは東京時代に長官の著書を改稿した仲だった判事・星航一だ。

 航一とは、第16週第76回、新潟の地で再会したものの、寅子の心の声を代弁する尾野真千子によるナレーションが、「相変わらず、いろいろと読めない」ともらしていた。本作史上最も風変わりで、謎に謎を塗り重ねたような人物像の航一だが、実は誰より寅子の変化を察知する能力がある人でもある。

◆帽子を被った男性は過去にも…

 三条支部の書記官・高瀬雄三郎(望月歩)が地元の名士と起こした暴力沙汰に区切りはついたが、優未との関係はなかなか温まらない。第79回、支部長室で寅子は航一相手に、戦病死した夫・佐田優三(仲野太賀)との記憶を優未にうまく話せないことを告白する。

 黙って聞いていた航一は、「溝をうめようと必死にもがいていて、とんでもなく諦めが悪いですね」と精悍な美声で、彼なりに精一杯、正直にコメントする。少し苦い顔をする寅子だが、航一からの意外な褒め言葉を受けて、心の重りは多少なりとも軽くなった様子。

 航一は、右手に持った帽子を被って静かに帰っていく。寅子が見送るその背中が、以前と違って不思議と頼もしく写るのは、なぜだろう。帽子を被った男性を寅子が見送るのは、このときが初めてではない……。

◆花岡悟との違い

 さかのぼること、第7週第31回。一度はいいなずけの仲になりかけた人、明律大学の学友・花岡悟(岩田剛典)とレストランで食事をしたあとだった。赴任先まで一緒について来てほしかったが、ジレンマの中で口ごもってしまう花岡の去り際。

 いつも紳士然としていた花岡が帽子を被る。ただ黙って右手をあげて、寅子に別れを告げる。花岡にしろ、航一にしろ、帽子を手に持ち、それ被った男性たちは、必ず寅子に静かに背を向ける。

 ただ、航一の場合は、花岡と違う。静かだけれど、どこか温かなものを徐々ににじませ始めている。実際、第79回以降の航一は、自然と笑顔になる率がグンと上がっている。

◆岡田将生の微笑み

 第80回、航一は寅子を元気づけようと、行きつけの喫茶店に行かないかと提案する。初めての誘いだ。寅子は、「あら」と大はしゃぎで喜ぶ。毎週水曜日だけ、新潟地方裁判所刑事部の事件を担当することになった寅子は、初出勤のお昼に約束の喫茶店に連れて行ってもらう。

 そこで再会したのが、男爵家の令嬢で学友だった桜川涼子(桜井ユキ)。入口で、寅子と涼子に挟まれて、航一は薄っすら微笑みを浮かべている。ちょっとした誘いに過ぎなかったが、妙な引力で旧友との再会を引き寄せた。