―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

 崖っぷちからの逆転だった。今年2月、全14階級のうち唯一代表選手が決まっていなかったパリオリンピック柔道男子100kg級。TOKYO2020の覇者であるウルフ・アロンは、怪我や19歳の現役大学生の新鋭に追い込まれるなか、「柔道人生を懸けた戦い」と表した最終決戦、グランドスラム・パリを制し代表の座を射止めた。
 今回、そんな男のインタビュア−を務めるのは、過去に全日本選抜柔道体重別選手権男子60kg級を制し、現在は柔道YouTuberとして活躍するドンマイ川端だ。年齢差は6歳、福岡の飲み屋で偶然出会った2人が、YouTubeコラボで意気投合。ウルフが「先輩」と慕う川端だからこそ語った本音とは?

◆テレビ出演の「ご褒美」があり、次にいけた

ウルフ:先輩、今日はスーツなんて着てどうしたんですか。結婚式帰り?

――この日のために仕立てたんよ。

ウルフ:えっ、今回のSPA!のギャラに釣り合わないでしょ?

――(カンペを読みながら)えー、史上8人目の柔道三冠(オリンピック、世界選手権、全日本選手権)達成後、国民的ヒーローになりました。テレビ出演も多かったことで、その後の大会で負け続けて批判された時期もありました。

ウルフ:ちょっと思うんですけど……、確かにメディアに出ることで叩かれまくった時期もありましたが、でも出しているメディア側が「出ちゃダメじゃないですか?」と質問をするのはどうかと思うよ?

――でも、あれは……確かにダメだったよなぁ。

ウルフ:当時は喫茶店で、知らないおばさんからも、「あんたダメね」と罵られました。だけど、ダメじゃない。

――怠慢だったよなぁ。

ウルフ:負け続けた理由は、東京オリンピックで金を獲って以降、試合に対するモチベーションが保てなかったのが大きいと思います。正直、「世界選手権」と言われても、ピンと来ないというか……。自分の“次の道”に迷っているなかで続々テレビ出演のオファーが来たから、目立つのが好きだったから出たというだけですよ。負けて悔しい……という気持ちも再確認はできたし、結果として徐々に「パリ」も意識できるようになりましたよ。

――選手たちはよくメディア露出は「柔道界のために」と綺麗事を言うけれど、個人的には金メダルを獲ったご褒美だと思う。ご褒美を受け取らずに、次のオリンピックを目指すのはキツいよな。

ウルフ:先輩、その通りです。ご褒美だと思える選手は、どんどん出たほうがいい。それが結果的に、柔道界のためになれば嬉しい。なんて言いましたが、柔道界貢献は1〜3割、テレビ出たい6〜7割ですけどね(笑)。

◆YouTubeコメントが大荒れでも、受け入れる

――アロンは負けていたときも、YouTube投稿を続けていた。でも、「だから勝てない!」と批判された。

ウルフ:ただ、見てもらっているという意味では、(それも)人気ですからね。逆に見てもらえなくなるという状況が一番怖い。誹謗中傷も、ある意味受け入れる。ネガティブなことを言われたから自分の考えや行動を変えるのではなく、一度決めたことは最後までやらないといけない。変えるのはダサい。まぁ、金メダリストが負けて突っ込まれるのは当たり前ですからね。

――そうだね、金メダリストの肩書きを持つ宿命。

ウルフ:僕らは柔道でご飯を食べていますが、表に出ているのは表層の泡の部分。でも、一般視聴者からすれば、テレビやYouTubeだけで読み取ろうとするので「試合に負けた→バラエティ番組に出ているから!」と結論づけるのは自然な流れとは思っていますよ。

――YouTubeなどで自分が頑張っている姿を載せるのはイヤなん?

ウルフ:カメラが回っていると、追い込みの練習をしていてもどうしてもふざけてしまう。