学費値上げをめぐり、東京大学が揺れている。5月、国からの運営費交付金が削減していることを背景に、大学側が年間約10万円の学費引き上げを検討しているとメディアが報道。学内の討議プロセスを欠いていると一部学生が反発し、安田講堂前のテント村設置や集会の開催などの抗議活動へと発展した。7月に入り、大学側は11月までに結論を出すとの意向を発表している。
6月に「東京大学学費値上げ反対Rap”Don’t mess stus”」という曲を発表し、抗議の意思を示し続けてきた2人のDJがいる。総合文化研究科修士1年の法念さん(25歳男性)、文学部3年のMasterplum/DJ +M(ぷらむ)さん(20歳女性)だ。7月からはApple Music、Spotify、LINE MUSICなど各種音楽サービスでの配信も始まった。2人は、何を思って抗議活動に加わったのか聞いた。

◆ヒップホップのルーツを考え「やるのは今」と思った

――お2人の関係性を教えてください。

法念:「東大ストリートカルチャー同好会」というサークルの先輩・後輩という関係です。私はもともと「東大サイファー」という、スピーカーを囲んで複数人がフリースタイルのラップをする集まりに参加していたのですが、ぷらむとは、両団体の合同飲み会で知り合いました。

ぷらむ:高校時代にラップに興味を持ちました。とくにAwichや7など、フィーメール・ラッパーと呼ばれる人たちの曲が好きで、大学入学と同時に同好会に入りました。今は渋谷のクラブでライブをしたり、SoundCloud(音声ファイル共有サービス)に曲を作ってあげたりしています。

――「学費値上げ反対Rap」は、どちら側から提案されたものですか。

ぷらむ:私からです。ヒップホップは元々、黒人が社会体制や差別に抗議するところから始まった音楽で、ルーツを考えると、やるならまさに今だと感じました。

私自身、昔はいじめられることが多く、傍観者ではいけないと常々感じていました。社会的地位には義務が伴うことを意味する「ノブレス・オブリージュ」という言葉がありますが、自分自身が東大の内部にいるからこそ、声を上げることで変えられるものもあると思ったんです。

◆報道が出た5月15日は飲み会の最中だった

――この間の経緯で驚いたのは、そのスピード感です。5月15日、東京大学の学費値上げについて朝日新聞や日本経済新聞が報じました。その4日後、五月祭が行われる本郷キャンパス内で抗議のデモ行進が行われ、法念さんも参加しています。なぜこんなにも早く行動を起こせたのですか。

法念:これまで学内外を問わず、さまざまな形で運動を行ってきた学生が多くいた事実は無視できないでしょう。報道が出た5月15日、私自身は東大生たちとの飲み会の最中でしたが、「これはまずいね」と一緒にいた人たちと言い合っていました。その間にも反対運動を呼びかける人たちがXで何名か現れ、なかには五月祭でアクションを起こそうというものもあり、私もとりあえずそれに参加することにしました。

◆学費値上げは「多様な学生が入学する妨げになる」

――お2人が学費値上げに反対する理由を教えてください。

法念:大きく分けて2つあります。1つは自分自身の問題で、博士課程への進学を考えているために学費の値上げは自分の将来に大きく影響しうるからです。もう1つはいわば社会正義の問題で、学費値上げは多様な背景を持つ学生が入学する妨げとなると考えるからです。

例えば、東大には授業料免除制度がありますが、学部生は基本的に独立生計での申請が認められていません。つまり、例えば進学に親の理解が得られず学費を払ってもらえない境遇にある学生は、授業料免除を受けられない可能性が高いのです。しかも授業料免除や多くの奨学金は、入学してからでないと審査結果がわかりません。私は、学費は無償化するか、せめて学生が自分で払える額に引き下げるべきと考えています。