とにかく人が集まらない――。

ホームヘルパーの有効求人倍率は15.53倍(令和4年度)。これは、1人のヘルパーに対して15社以上が取り合いをしている状況を指す。人材確保は困難を極めるなか、年間で200〜300人の新卒、1000人近い中途採用を実施している企業が訪問介護のケアリッツ・アンド・パートナーズだ(以下ケアリッツ)。

異次元の人手不足状態にある介護業界において、ひとつひとつ課題を解決しながら、採用を強化しているケアリッツ。代表取締役社長の宮本剛宏さんにその内情を聞いた。

給与を上げづらくしている要因は何なのか

ケアリッツ・アンド・パートナーズ代表取締役社長 宮本剛宏(みやもと・たけひろ)
慶應義塾大学 環境情報学部卒
日清紡績株式会社、株式会社ベイカレント・コンサルティングにて、営業・コンサルタントとして勤務
2008年 ケアリッツ・アンド・パートナーズ創業
2022年 ケアリッツ・テクノロジーズの分社化、東都観光バスの事業承継に伴い、3社の代表取締役を兼任
宮本 介護業界に人が来ない、人気がない一番の理由は、給与水準が低く上がっていかないことだと思います。もちろん政府もいろいろと介護職の給与を上げるような施策を打ってはくれており、確かに給与水準は徐々にですが上がってきてはいます。

でも、結局昨今では他業種の給与水準もそれ以上に上がってきていて、ランキングでみると介護職の順位は低いまま変わっていません。とくに訪問介護業界は6〜7割がパート中心で成り立っていますし、正社員が少ないことも影響しています。
どうしたら給与は上がるのでしょうか。訪問介護にかかる費用は介護保険から支払われている以上、上昇に限界があると思うのですが…。
宮本 それはよく言われることですが、やり方次第だと思っています。問題なのはヘルパーが現場以外の仕事に多く時間を取られてしまっていること。請求業務や訪問介護記録作成など、書類整備に多くの時間をとられてしまい、お客様へのサービス提供時間が削られてしまっているんです。介護業界は想像以上に事務作業が多く、またパートの人数が多いとその管理コストもかかります。

本来ならヘルパーには現場に全力投球してもらい、1日数件だけではなく、なるべく多くのお客様にサービスを利用してもらうべきです。ヘルパー1人あたりのサービス提供件数を増やすことが売上アップにつながり、ひいては給与アップにつながります。

低給与の本当の原因は「小さい会社」が多いこと

宮本 ただ、給与が上がらない根本的な原因は、零細の介護事業所が多いことだとも考えています。従業員が10〜20人しかいない会社では、いわゆる「キャリアパス」が用意できないのです。本当に小さな会社になると、社長とそれ以外(現場のヘルパー)、という体制になってしまうので、そこには管理職はないので出世もなく、全員給与もほぼ大差ないでしょう。

また、市場には「規模の経済」というものがあり、会社の規模が大きくなれば効率化も進みます。小さな会社しかなければ、業界として利益率が上がらないのは当然です。

確かに業界には大手企業も存在はしています。ただ、大手の場合は古くからの業界慣習により、パート中心で構成されていることが多く、そうした体制はすぐに変えられないこともあって、大手とはいえ給与はあまり高くなっていない、という現実があります。
確かに介護職のキャリアパスってよくわからないし想像がつきません。ヘルパーを続けていったとして最終的なゴールって何なんだろう?と。
宮本 そうですよね。結局、小規模事業所に入ってしまうと辞めちゃう人が多いんですよ。3年5年経っても同じ仕事しかしていないし、一般企業だと当たり前にある「キャリアアップ」みたいな考え方が希薄なんです。

それに、そもそも最初からそこまで先を考えて就職先を選ぶ人も少ないです。ですから弊社では、社員が目的をもって仕事を進められるように「キャリアパス制度」をつくり、年2回の評価面談で自分のキャリアの進捗が確認できるようにしました。現場の業務だけでなく、マネジメント力や介護保険や法令などの知識を身に着けることで、職位・給与を上げていける仕組みです。
新卒の場合は最初からマネジメントかプロフェッショナルかを選ぶ方式。どちらを選択してもヘルパー経験(ケアスタッフ)は必須。
>>正社員ヘルパーの年収・給与について
ケアリッツは新卒も中途も積極的に採用されていますよね。
宮本 はい。正直な話、理想とする事業拡大スピードに、まだまだ採用数は追いついていないと思っており、とにかく多くの人に来てほしいというのが現状ですね。

ちなみに前提として新卒と中途では求めている役割が若干異なります。現場(ヘルパー業務)だけを考えるなら、もちろん未経験の新卒よりも中途経験者のほうが優秀です。いっぽうで、法令対応、書類整備となると、現場が得意なだけでは対応しきれないという面もあります。

というのも、介護保険は仕組みがかなり複雑なうえに、行政が管理するものなので提出する書類も煩雑です。さらにその書類作成には絶対にミスがあってはならない。こういった知識は、いくら現場業務をこなしていても身につかないものでもあるので、現場とは別の知識として、勉強をして身に着ける必要があるんです。

現場が大好き!というタイプの方でも、勉強は大嫌いで、書類整備は苦手、といったことも多かったりします。新卒は、どちらかというと現場だけでなくいろいろな業務をやってみたい!という志向の人も多かったりするので、そこは棲み分けてしまえばいいと思っています。
キャリアパス制度や正社員雇用を基本とした採用方針で、20〜30代からも選ばれやすい環境を実現。平均年齢の若さは業界一。
具体的な収入の話として、公式サイトには「努力次第で20代で年収1000万円も夢じゃない」とありました。どんなステップを踏めば実現しますか。
宮本 順調に管理者になり、管理者→エリアマネージャー→ブロックマネージャーとキャリアアップしていけば、ちゃんと実現可能です。もちろん狭き門ではありますよ。新卒でこれを実際に達成できたメンバーは優秀で、おそらくどんな業界にいっても評価される人材ですよ。

考え方として、どの業界にいっても年収300万円しか稼げない能力の人材に、介護業界なら400万、500万と稼げるよ、という状況を目指しているわけではありません。他の業界だったら年収1000万稼げるはず、という優秀な人材が、介護業界に来てしまったから年収が300万しか稼げなかった、という状況を打破したいんです。

「業務効率化は業界一」の自負

宮本 弊社の場合は「業務の効率化」によって利益率を上げ、給与水準を上げていく、ということを目指しているため、効率化のためのITシステムは積極的に導入しています。そのおかげで、業界一と言えるような給与水準を実現できている、と自負しています。

システム化というのは、ただやればいいというわけではなく、実際はやらないほうが効率がいいケースもあるんです。この業界では、その見極めができていない企業は多いな、と感じています。
IT化しないで人がやったほうが早いこともありますよね。
宮本 そうなんです。10人分のデータ管理をwebシステム化するくらいなら、単純にExcelでやったほうが早いでしょう。

AIとかロボットといった言葉に飛びつく会社がこの業界には多いように思うのですが、実際にはまだあまり役に立っていないのが現状です。私の前職はITコンサルティング会社ですし、いっぽうで創業から10年はヘルパーとして介護現場にも入っていましたから、ITと現場の両方の知識があり、ボトムアップで必要なものがわかるのが強みです。

例えばシフト管理。どのヘルパーがどのお客様に入るかというマッチングをやっていくわけですが、そこをAI化したがる人はすごく多い印象です。ただ経験上、私は難しいだろうなと思っていて。

結局、こうした自動化のプログラムを組むには前提条件を入れる必要があります。しかし、単純な介護度やスキル、場所だけでなく、人同士の相性だったり、介護特有の前提条件がたくさんあるんですよ。そういうのを考えながらいちいち全てインプットしている時間があるなら、手動でシフトを組んでしまったほうが早い。なので、業界的にシフトの自動化といったものはあまりうまくいっていない印象です。

弊社では実際に業務が効率化できるかどうかといった視点でITシステムを構築し、ほぼ理想的なものを作れたと思っています。いったん区切りがついたことで、IT部門は2年前に分社化(ケアリッツ・テクノロジーズ)しました。

>>ITによるヘルパー業務効率化事例はこちら(ケアリッツ・テクノロジーズ)

質のいい管理職を増やしていきたい

これまでのケアリッツの取り組みをみていると「長く働いてもらうこと」に腐心していると感じます。
宮本 弊社の離職率は、入社後すぐにやめてしまうといった短期離職を除けば、1割前後です。ただ、冒頭で触れたように業界的には離職率は低いとは言えません。介護に限らず、専門職というものはどこの会社にいっても仕事内容が近いため転職しやすく、人手不足なので次の職場も見つけやすい。ですから最終的には「人」で退職を防ぐしかない気がしています。

つまり現場に長く働いてもらおうと思ったら、管理者やエリアマネージャーの質を上げていく必要がある。彼らが現場スタッフをしっかりとケアできていれば、それが最も社員の定着につながるはずです。そのために私たちは、マネジメント教育をしっかり行って、広い視野をもった人材を育てたいと考えています。
社員の職場環境が安定していれば、結果的に利用者に対してのサービスも安定していきますよね。
宮本 おっしゃるとおりです。弊社では、まず働く人を大事にする、ということを明言し、重要視しています。

一般的に福祉業界には、極度にお客様に寄り添う傾向があり、どんな無茶を言われてもそれに応えて当然といった空気があるんです。しかし、そうなると当然従業員には大きなストレスがかかってしまいます。ニュースで目にするような利用者虐待などは、結局は従業員のストレスから始まっていると思います。現場に無理を強いた結果、よくない方向に発散されてしまう。

ですから、働く人を大事にし、社員の待遇を向上させて皆に気持ちよく働いてもらうことが、結果としてお客様へのよりよいサービスに繋がっていくと考えています。

>>ケアリッツの働きやすさを支える制度はこちら
どんな人に来てほしいですか。
宮本 新卒ならリーダーシップのある人がいいですね。優秀な管理者を増やしたいと思っていて、部活の部長やバイトリーダーをやっていたような、ストレス耐性が強いまとめ役タイプに来てもらいたいです。

中途採用は即戦力ならもちろん経験者ですが、ベテランほど「ヘルパーの仕事は現場が一番大事。自分たちは余計な難しいこと(管理)は考えるべきじゃない」という職人肌の方もいらっしゃいます。じつは、中長期でみると管理職に向いているのは、他業種から来た人や未経験者だったりもします。
給与の底上げには事業所の拡大が急務、さらにそのためには、優秀な管理者がたくさん必要ということですね。
宮本 はい。やはり介護業界はいまだに不人気です。弊社は介護業界での知名度こそ上がってはきましたが、一般的にはまだほぼ知られていません。ですから、こんな訪問介護事業者もあるんだ、ということが伝わることがまずは第一歩ですね。

関連情報

ケアリッツ・アンド・パートナーズ
https://www.careritz.co.jp/

2024年現在、東京都事業所数1位の訪問介護事業者。従業員数は約3500人、2023年度の売上は174億円。ITによる介護作業の効率化、介護職の待遇改善に取り組みながら業界No.1をめざしている。


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