[画像] サンリオ「35才創業家社長」が成し遂げた大復活劇


サンリオ創業者の孫に当たる辻朋邦社長。コロナ禍のさなかに就任以降、構造改革を進めて業績立て直しを導いた(撮影:今井康一)

サンリオの株価が絶好調だ。3月には34年ぶりに上場来高値を更新し、7月に入ってから、さらにその記録を塗り替えている。

背景にあるのは業績のV字回復だ。サンリオは2015年3月期から、7期連続で減収減益と厳しい時代が続いた。コロナ禍では物販店舗や屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド」が臨時休業を余儀なくされ、2021年3月期には26年ぶりの営業赤字に陥った。

そのさなかの2020年7月、創業者の辻信太郎・現名誉会長の孫である辻朋邦氏が社長に就任した。「第二の創業」として事業構造改革を進め、前2024年3月期には過去最高の営業利益を達成。3年余りで復活を成し遂げた。朋邦社長に、復活劇の舞台裏を聞いた。

“刺激的な改革”に不安はあった

――株価は34年ぶりに上場来高値を更新し、社長に就任した4年前から6倍近い水準です。

お客様に支持していただいた結果だと思うので、単純に嬉しい。実を言うと、これほど調子よく上がっていくとは思っていなかった。前期までの3カ年の中期経営計画では、数字的な目標だけでなく、社内風土の改革を含めてさまざまな目標を立てたが、それを1つひとつクリアした結果だ。


社内改革で機動力が高まったことや、外部要因の追い風もあり、コロナ禍で仕込んできた(1つのデザインに複数のキャラクターを使う)キャラクターミックスなどキャラクターのブランディング強化が、想定以上のスピード感で業績として成果に表れた。

そうすると注目も高まり、これまで組ませていただいたパートナーの方々から「また一緒にやりましょう」という話をいただくようになった。アリババグループ傘下の中国のアリフィッシュ(阿里魚)との提携など、いろいろなニュースをいいタイミングで出せた。非常に楽しい3年間だった。

――改革に当たっては、コンサルや外資系企業などから人材を招聘し、取締役の布陣は大幅に若返りました。ご自身も社長就任時は31歳でした。これまでサンリオを率いてきた先輩方がいる中で、やりにくさはありませんでしたか。

たしかに今まで中途採用などもあまりしてこなかったサンリオにとっては、刺激的な改革だったと思う。外部と内部の軋轢が生まれたらという不安もあった。

ただ、適当に人を入れているわけではない。例えば、数字に基づいた議論がきっちりなされていなかった部分を改革するために、経営戦略経験のある中塚(亘専務、オリエンタルランドやボストン・コンサルティング・グループなどを経て2021年に参画)を入れ、海外展開を進めるうえでは現地をしっかりまとめられる齋藤(陽史常務、ソニーやNAMCO USA INC.などを経て2021年に参画)を招聘するなどした。

社長になってからは1年半かけて全従業員と対話する機会を設けた。そこで、どういう意味があって外部から人材を採っているのかを自分の言葉で伝えられたのは大きかった。


辻朋邦(つじ・ともくに)/1988年生まれ。慶応大学文学部卒業後、事業会社勤務を経て2014年1月にサンリオ入社。2015年企画営業本部担当執行役員、2016年取締役、2017年専務取締役。2020年7月から現職(撮影:今井康一)

結果的に、昔からサンリオを支えてきてくれた人たちもいやな顔一つせず、サンリオの未来を一緒に考えてくださった。外からのものは吸収して、内部で積み重ねてきたものは外から来た人に共有するという形で、外部の方々をスムーズに引き入れてくださり、外部から来た方々がうまい形でポジションにはまってくれた。

実際に業績も伸びたので、改革をやることによって自分たちがよくなるという実感につながった。従業員の改革に対する信頼度が大きく上がり、また次の改革につながるといういいサイクルができた。

創業者の祖父に認められるまで

――物販事業は創業者である祖父の信太郎名誉会長がこだわってきた聖域ですが、アイテムを削減するなどメスを入れていきました。

大きな決断ではあった。従業員の方々も「そこに切り込むのか」と思ったかもしれない。

全国に店舗があり、店頭でものを売ることによるプロモーション効果はたしかにある。しかし、毎年赤字が続いていて直そうとしないのは絶対によくないと思っていた。赤字になっている理由は明確で、昨対売上主義で商品を作りすぎていたことだ。

専務時代には祖父とけっこうぶつかることもあった。ただ、途中ではっと我に返った。90歳を超える、これだけ長く社長をやってきた人と自分は何を言い争っているのだと。自分が正しいとずっと思い続けてもうまくいかない、理解をしてもらわないといけない。

そこから1年くらい毎日15分会話をして、出張した日でも1日1回電話をした。別に仕事の話をするわけでもなく、今日はこんなことあったよと話したり、たまにご飯を食べたり。やりたいことを織り交ぜて伝えていき、最終的には「お前のやりたいようにやってみなよ」と言ってくれた。

その後、物販事業は3年間のトータルで赤字解消を目指していたが、2年目からかなりの利益が出た。実際に売れ行きも株価もよくなり、会長からも認めていただけたと思う。

――名誉会長の理解を得られたのは何が大きかったのでしょうか。

最初にお店を作ったときの思いなどを知るために、昔の会社案内などをあさって読んでみた。すると、僕が考えていたことが1980年くらいにすでに書いてあった。お店はものを売る場所ではない、コミュニケーションをとって笑顔になってもらう場所だと。

ただ物販事業に数百人の従業員がいる中で、習慣などもあり、ビジネスのあり方が変わらず来てしまった。今われわれは「エンターテインメント企業になりたい」と言っているが、昔からそういう考えは会長の中にもあって。それを僕が時代に合わせて変えていっているということだと思う。


――今後はどのような戦略が重要になりますか。

基本的にはグローバルでどう成長させるか、が重要だ。グローバルでキャラクターブランディングを管理する部署を立ち上げた。「ここは一気に全世界で展開したい」というときには、全世界で展開できるライセンシーとも組んでいく。インドなど、まだサンリオのキャラクターのシェアが高くない地域もあり、成長余地は大きい。

10年前に北米でハローキティが流行したときは、そのあと(流行が過ぎると)棚が一気にとられてしまうということがあった。今回はボラティリティを下げるためにも、海外で強いシナモロール、クロミなど、他のキャラクターのコンテンツをグローバルでしっかり作り、いつでもキャラクターが店頭にある状態を目指していく。

海外展開へプロ人材の採用進める

――課題はありますか。

グローバルでブランドをコントロールするプロデューサー人材や、現地と密にコミュニケーションがとれる人材が必要になるのは間違いない。

人材を採るのは大変ではあるが、これだけメジャーなIPがあり、これから進出する地域があり、ゲームやアニメにも取り組む。自分のコントロールでブランディングができ、新しいIPも生み出せる。どうみても今が一番楽しいと思う。

現に、ゲームなどに参入すると話すと、実績のある方々が声を上げてくださることが多い。おごり高ぶるわけではないが、そこはアピールしてしっかり採用したい。

――ゲームでは自社パブリッシングも視野に自ら投資していく方針を掲げています。

ゲームは今後われわれがエンタメに出て行くなら絶対にやるべきだ。世界のゲーム人口はかなり大きい。今まではライセンス許諾の形でやってきて、それは今後も続けていくが、やはりどのような世界観やデザインで何を目指してやるのかということを自社でコントロールすることも大事。

ゲームは確実にヒットするとは言い切れない業界で、リスクがあることもわかっている。投資委員会にゲームの知見がある方々にも入っていただき、しっかり審査している。

ただ当社の場合、ゲームをリリースしてみて伸び率が悪ければ、商品を出してプロモーションをかけたり、新規IPできつかったらハローキティをはじめとする強いIPと組んだり、ということができる。これは、ほかのゲーム会社にはまずない特徴だ。

サンリオのキャラクターやサービスに触れ合ってくれる時間を「サンリオ時間」と呼んでいるが、基本的には入り口は寄り添い、そこから夢中になってもらうという流れだ。最初にどこから寄り添うかはお客さまの自由だと思うが、「ゲーム好きだからやってみようかな、サンリオめっちゃいいじゃん」と夢中になってもらえる可能性もある。

「時価総額1兆円くらいないとダメ」

――IPの作り込み方も変わってきますか。

ハローキティを含めて、われわれのキャラクターにはストーリー性はあまりない。人によって自分なりのハローキティがあって、妹やお姉ちゃん、お母さんだったり、自分の分身だと思っている方もいたりする。だからこそいろんなデザインができて、いろんな企業とコラボレーションできる。

それは今後も続けていくが、ストーリー型のIPは爆発力がある。ここ数年間はクロミが伸びているが、「鬼滅の刃」の初速にはかなわない。ゲーム発、アニメ発のIPにも取り組んで、短期、中期の山も作ることで全体のボラティリティを下げていきたい。


今後についてはグローバル展開を強化するほか、「エンタメに出て行くならゲームは絶対にやるべき」とも語った(撮影:今井康一)

――今後は「時価総額1兆円」を目指しています(7月12日現在、約8300億円)。

根幹にあるのは「みんななかよく」なんです。1人でも多くの人を笑顔にして「みんななかよく」の世界を実現するためには、会社を大きくして、より多くの人たちにアプローチをかけていかないといけない。どちらかというと「時価総額1兆円くらいないとだめだよね」という発想だ。

老若男女も、言語も貧富の差も関係なく、いろんなボーダーを取り払ってみんなを笑顔にしていくためには、エンターテインメントでその人に寄り添った時間を作り、「夢中時間」に変えていく。こうして「サンリオ時間」をいかに多く捻出していくかを考えていれば、おのずと時価総額1兆円も到達できると思うし、その先もあると思っている。

(田中 理瑛 : 東洋経済 記者)