川崎市とさいたま市よりもなぜ、浜松市民が幸せなのか……「幸福度ランキング」に見る恵まれた街の条件

財政状態は健全か、個人所得は高いか、失業率は低いか、犯罪・災害は多いか――日本全国の街をさまざまな角度から分析すると、意外な土地柄が見えてくる。あなたは今の街に住んでいて、幸せですか？

「やらまいか！」

「おいしょー！」

カリッと焼かれたキャベツたっぷりの餃子と脂の乗ったカツオを肴に、こんな威勢の良い掛け声が夜な夜な飛び交う街をご存じだろうか。

29歳の徳川家康が城を築いて以来、本田技研工業、スズキ、ヤマハなどの世界的企業が生まれ、出世の街と呼ばれる浜松市である。

「やらまいか」とは「やってやろうじゃないか」というチャレンジ精神を表し、「おいしょ」とは「浜松まつり」に由来する合いの手だ。

「『駿河乞食に遠州泥棒』という言葉をご存じですか？

飢饉のときに駿河（静岡市）の人はお上に物乞いをするけど、遠州（浜松市）の人は泥棒をしてでも自力で食べ物を手に入れる。何でも自分でやろうという『やらまいか精神』が市民にはあるんです」（浜松市に住む70代女性）

そんな浜松市は、20ある政令指定都市（人口50万人以上の街）の中で「幸福度ランキング」（日本総合研究所、'22年）の1位を獲得している。

すなわち、日本の大都市で最も住民が幸せに暮らしている街なのだ。

一体なぜか――まずは「幸福度ランキング」について、日本総合研究所の研究員・本田幸太郎氏が解説する。

「幸福はその人の考え方で変わる主観的なものです。しかしたとえば『一人あたり市民所得』が多く、稼ぐ力が強い街は幸せな住民が多いのではないか、『財政健全度』が高い街は教育や医療面で住民を幸せにできているのではないか。

私たちは『人口増加率』や『自殺死亡者数』『勤労者世帯可処分所得』など、社会・経済基盤に関する要素を基本指標に定めて、幸福度を算出しているんです」

基本指標のほかに、健康分野では「ホームヘルパー数」や「一人あたり医療費」「体育・スポーツ施設数」、文化分野では「書籍購入額」や「常設映画館数」「語学教室にかける金額」など、計40種類以上のデータも合わせて算出する。

結果、浜松市が1位になった。その理由を本田氏が分析する。

「浜松市は『勤労者世帯可処分所得』が3位。工業が発達し、スズキやヤマハなど大企業の本社もあるため、家計が安定していると言えます。また『一人暮らし高齢者率』や『生活保護受給率』が最も低く、持ち家比率は2位。

稼いだ人が老後に年金でしっかり暮らせており、『要介護等認定率』が2位なので、元気なお年寄りも多いことが推察されます」

実際、浜松市役所企画課の担当者はこう語る。

「浜名湖や天竜川ではアクティビティが楽しめ、盛んな農業に基づき地産地消を進めているので、住民の健康寿命は長い。加えて、自治会の加入率が9割以上と政令指定都市の中では突出して高く、社会との接点が持ちやすいことも健康の要因だと思います」

コロナ禍以降、浜松市への移住が急激に増えている理由は、東京まで新幹線で1時間30分で着く利便性もあるという。

気候も温暖で、日照時間は全国の自治体の中で4位と、屋外で活動できる日も多い。

古くからのチャレンジ気質が富をもたらす多数の優良企業を生み、恵まれた自然環境も相まって、幸福度の高い街がつくられたのである。

ランキング2位は、川崎市。その理由は、「仕事」にあるという。

「製造業が盛んで、『製造業労働生産性』や『正規雇用者比率』『女性の労働力人口比率』が1位です。『高齢者有業率』も4位なので、女性や高齢者も含めて働きやすい街。労働者人口が多い街ですから『勤労者世帯可処分所得』も2位と高い。川崎市の強みは、雇用が強くて所得が高いところにあるんです」（前出の本田氏）

だがその一方で、教育分野は弱い。武蔵小杉駅周辺などに子育て世代が流入してきたものの、「教員一人あたり児童生徒数」が多く、教育施設が足りないのだ。

高所得者の多い3位のさいたま市も、川崎市と同じ課題が見える。「人口増加率」は2位だが、「教員一人あたり児童生徒数」が最下位。昨年度は生徒数が増えすぎたために、市営プールを潰して学校を建てる用地を確保するなど、教育機関の整備が追いついていない。

文化的に恵まれている街は4位の京都市だ。「図書館・博物館等施設数」や「社会教育費」、文化活動を行うNPO法人の数がそれぞれ1位と、文化的活動を楽しむ環境が整えられている。

後編記事『東京都内で最も住みやすい街は文京区。では、最も住みにくい街はどこ？…都内の市区で唯一、鉄道も国道も走っていないあの市です』へ続く。

「週刊現代」2024年7月13日号より

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