MLSロサンゼルス・ギャラクシー
吉田麻也インタビュー(後編)
◆吉田麻也・前編>>「ヨーロッパの都でやれることは、ほぼなくなってきた」
2023年夏、ロサンゼルス(LA)ギャラクシーに移籍した吉田麻也。SNSを見た仲間からは「明るくなった」「楽しそう」と言われるそうだ。
移籍までの経緯を語ってもらったインタビュー前編に続き、後編では欧州とアメリカの違い、さらには日本代表でともに戦った盟友たちの相次ぐ引退について、心境を語ってもらった。
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吉田麻也が「引退」について今の心境を述べた photo by Ryokai Yoshiko
── LAギャラクシーに入団して約1年、アメリカでプレーする楽しみは得られていますか?
「楽しいですよ。アメリカのレベルは、僕がいた時のシャルケよりうまい」
── 当時のシャルケの順位(ドイツ1部で18位)よりギャラクシーは上という感じ?
「これはね、比べるのが難しい。サッカーが違うんですよ。僕のシャルケ時代のパス成功率って50〜60パーセントなんです。なぜなら、ほぼロングボールを蹴っていたから。でも、今はつなぐサッカーだから、ほとんどの試合で90パーセント以上になるんです。それだけでも別の選手みたいですよね。
僕はこのスタイルがすごく合っているんで、めっちゃやりやすいです。でも、昨季はチームにビリー・シャープっていう選手がいて、シェフィールドにずっといたイギリス人なんですけど、彼なんかは『なんで(ロングボールを)蹴らないんだよ』って言うんですよ。やっぱりイギリス人の感覚とは違う。
だから、ひと言でレベルの上下を言うのは難しいですけど、ここ(LAギャラクシー)のボールを持つ戦術は理にかなっていると思うし、ちゃんとサッカーをしている楽しい感覚があります。でも、国とかクラブによって色があるし、そのチームのやり方は監督が決めるから、シャルケでは自分がそこにフィットできなかった悔しさも、もちろんあるんですよ」
── たしかに苦しいシーズンでした。
「苦しい時期でしたよ。シャルケのやり方で残留に導くことはできなかったのは、当時キャプテンだった自分の責任でもある。難しかったけど、やっぱり自分に矢印を向けるべきだなと思うんですよね」
【遠いアウェーの試合では負けないことが大事】── アメリカのサッカーは、欧州とはまったく違うと。
「まず、野球みたいにカンファレンス制ですし、交流戦があるんですけど、3試合やるところもあれば2試合のところもあって『アンフェアじゃない?』って思うことも。でも、こっちの人はそういうものだっていうから、もう受け入れるしかない」
── 欧州的な方式に変わっていったりするのでしょうか。それともアメリカはアメリカのままなのでしょうか?
「やっぱり土地が広いっていうのは、一番のネックというか違いですよね。遠いアウェーの試合では、勝たなくていいけど負けないことが大事になります。結局はプレーオフに上位で行って、そこで優位に戦わないと優勝できないんですよね。リーグ戦の1位が優勝ではないんです」
アメリカの生活にもすっかり慣れた様子 photo by Ryokai Yoshiko
── MLBみたいですね。
「3連戦があったりしても、その期間にシアトルやバンクーバーといったケガのしやすい人工芝のスタジアムが入っていたら、ここはもう無理しないぞ、みたいな。ここで無理をしてホームで勝ちを逃しちゃいけないっていう考え方になります」
── 監督もそういう言い方をするのですか?
「そうです。うちの監督はそういう考えをすごく理解している人で。グレッグ(・ヴァニー/LAギャラクシー監督)はトロントFCにセバスティアン・ジョビンコがいた時、MLSで優勝している監督なんですよ。面白いです」
── アメリカはメキシコやカナダとの共催で2026年のワールドカップ開催地です。
「準備が大変そうですよね。アメリカってすごく広くて、時差もあるし、その土地ごとでカラーが全然違いますから。これにメキシコ、カナダが入って来ると、もう気候から言葉からなにからなにまで違う。
2026年のワールドカップはイースト、ミドル、ウェストとゾーンが分かれるんですけど、ミドルのゾーンに入ってテキサスに行くことになったら、本当に暑いし湿度もあるし、中東みたいで大変だと思いますよ。そういうのを肌で知るのも大事だろうから、準備が相当大事になると思います」
【同世代が指導者として切磋琢磨したら面白い】── 今年の夏には日本代表の仲間だった岡崎慎司さん、長谷部誠さんが引退しました。引退発表を受けて、どのような気持ちでしたか?
「長谷部さんは誰もが『今年(引退)だろう』って感じていたんじゃないかなと思うんですけど、岡ちゃんはそうですね......この間、ラジオで笑福亭鶴瓶さんが言ってたんですけど、鶴瓶さんってうちの父親と同じ72歳らしいんです。で、鶴瓶さんは最近、知っている人が死んでいくたびに心が痛むと。
死と引退は全然違うけど、引退ってやっぱり選手としての区切りじゃないですか。そう考えると、同い年や同世代が辞めていくと、心を削られる部分がすごくあるんですよね。寂しい......とはまた少し違うんですけど」
── 岡崎さんは「他人の引退には何も感じない」って言っていましたが、人によって感じ方は違うものですね。
「岡ちゃんは案外、心がないというか、泣いたりしない人なんですよね(笑)。この間、岡ちゃんと電話した時に『お前も監督になって代表監督を目指すだろうから、今度はまたその座を狙って競争やな』みたいなことを言ってたけど、『岡ちゃん、俺、そんな気持ち固めてないんだけど』って思って(笑)。
でも結局、同世代の槙野(智章)だろうが、うっちー(内田篤人)だろうが、岡ちゃんだろうが、指導者になったら日本の頂点はそこ(代表監督)だから、みんながまた切磋琢磨したら面白いかなとは思います」
── 吉田さんは日本プロサッカー選手会の会長を務めているので、監督というより組織のトップを目指すタイプかなと思ったりもします。
「よく言われます。でも、引退後なんて自分でも何をしていいかわからないですから、やっぱりまずは指導者のライセンスは取らないといけないと思うので、そこから始めようとしているところです。引退後の選択肢としては(指導者の道も)あったほうがいいかなと」
── 実際、引退後のことを考えたりしますか?
「ノープランですね。ハセさん(長谷部)もその質問にはノープランって答えていたでしょ? アメリカにきて、シュンタさん(清水俊太/LAギャラクシーに19年間務めるトレーナー)に出会えてから、体の痛いところがほとんどなくなっちゃって。また、今後プレーできる時間が長くなっちゃうじゃんって思っているところです(笑)」
【内田篤人を見て「実績があれば、また輝ける」】── そうなんですか。
「でも、なぜノープランかと言うと、1年、1年が勝負なんですよ。たとえば今、半年間や3カ月のケガが2回ほど出たら、もう契約更新してもらえないですからね。僕の場合は1年半契約なので、今年いっぱいで切れるから、どうなるかなというところです。
契約が更新できれば、続けるし、できなくなったら、違う道を選ばなきゃいけない。自分がやれると思っていても、需要がなければ意味がないし。だからもう、考えても仕方ないので、目の前のできることをやっていくしかないんですよね」
── そこに集約されるんですね。
「でも、引退に関して思ったことがあるんです。うっちーとか見ていると、また違うステージでも輝けるんだなって。あれだけの実績があれば、また輝けるんだなって」
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インタビューはおよそ2時間半続いた。多少シリアスな内容に流れつつも、話が重くなりすぎないのは、美しいロサンゼルスの空と海のせいだろうか。
吉田の培ってきた経験から、日本サッカー界が学ぶものはきっと多いだろう。今後も多方面から必要とされる人間だと、あらためて感じさせる時間だった。
<了>
【profile】
吉田麻也(よしだ・まや)
1988年8月24日生まれ、長崎県長崎市出身。2007年に名古屋グランパスの下部組織からトップチームに昇格。早々にレギュラーの座を掴み、2008年には北京五輪代表にも選ばれる。2010年1月〜VVVフェンロー、2012年8月〜サウサンプトン、2020年1月〜サンプドリア、2022年7月〜シャルケ04でプレーしたのち、2023年8月にMLSロサンゼルス・ギャラクシーへ移籍。日本代表としてワールドカップに3度(2014年・2018年・2022年)出場し、通算126試合12得点。ポジション=DF。身長189cm、体重87kg。
外部リンクSportiva