[7.3 J1第16節延期分 横浜FM 0-1 鳥栖 ニッパツ]
サガン鳥栖DF木村誠二はパリ五輪に臨むU-23日本代表入りが発表されたわずか5時間後、敵地ニッパツ三ツ沢球技場のピッチに立っていた。「情けない姿は見せられないなと」。胸に抱いていたのは日本代表としてのプライドと責任。鳥栖はこの日、後半9分の先制後は特に劣勢を強いられ、横浜FMにシュート25本の猛攻を浴びたが、木村ら守備陣が5バックで耐えながら無失点に押さえ込んだ。
この日の守備陣のテーマはFWアンデルソン・ロペス、FWエウベル、FWヤン・マテウスが並ぶ横浜FMの強力な攻撃陣を抑え込むこと。「マリノスさんは調子が悪い中でもほぼ毎試合点を取っているし、前3枚の外国籍選手が強烈なので、彼らをいかに抑えるかに重点を置いていた」。そんな中、最後まで空中戦で跳ね返す姿が際立った背番号3は「守備陣全員で意識してうまくく戦えたと思う」と胸を張った。
当初は別日程で組まれていたこの一戦は、横浜FMのACL決勝進出の影響により、水曜ナイトゲームに1試合だけ組まれた延期試合。日中の午後2時からパリ五輪に臨むU-23日本代表のメンバー発表会見が行われたが、両チームで唯一の選出有力選手とみられていた木村はホテルの部屋でYoutube配信を見守っていた。
「ちゃんと始まる5分前からJFA TVを開いて、心臓をドクドクさせながら見ていました(笑)」。無事にDF陣の一人として名前が呼ばれた後、さまざまな感情が沸き上がってきたという。
「嬉しさと、ホッとした感じと、また選ばれたことによって責任も生じるし、見られ方もオリンピックの選手となると変わってくると思うので、そういったいものもしっかり背負って戦えるように頑張らないといけないなと覚悟を決めるきっかけになったと思います」
大事な公式戦の直前にメンバー発表が行われるという状況は、決して簡単なものではなかった。
「これひどいですよね(笑)。メンタルブレブレになるじゃないですか。もし落ちてたら立て直せていたか。立て直せていたかもしれないけど、もっと暗い表情で試合していたかもしれない(苦笑)」
もっともそう冗談めかしつつも、気丈に振る舞った木村。「今日なのかというのはありましたけど、それはもうしょうがないこと。代表に関わっている以上はあることなので割り切ってやりました」と力強かった。
今年4月のU23アジア杯で攻守に活躍を見せ、掴み取ったパリ五輪への切符。ただ、今季こそJ1リーグ戦でコンスタントに出場機会を得ている木村だが、昨季までのJ1通算出場数は14試合にとどまっており、21年の京都、22年の山形ではJ2リーグで出場機会を得られないという日々も経験してきた。
ただそうした日々の中でも、一喜一憂せずにトレーニングに取り組んできた自負があるようだ。
「川井さん(川井健太監督)もよく言うけど、ダメでもまた次の日があって、負けたとしても次に試合があるのはサッカー選手としてありがたいこと。やめるという選択肢はないし、次があるなら次があるでしっかり準備しないといけないし、止まってはいられないので。一日一日しっかり練習して、練習試合でも公式戦でも試合に出て、やれることをしっかりやっていくこと。それを続けてきた結果が今に結びついていると思います」
そうしたブレない姿勢は五輪に向けても変わらない。
今回のパリ五輪に臨むU-23日本代表はオーバーエイジの招集に難航し、2008年の北京五輪以来4大会ぶりにU-23世代の選手のみで戦うことが決定。これまで守備陣の手薄さが課題と指摘され続け、オーバーエイジの有力ポジションとされてきたが、補充は実現しなかった。そのためメンバー編成には懸念の声も上がっているが、木村はそうした周囲の目線とも冷静に向き合っている。
「オーバーエイジ入れなくて大丈夫なの?って言われるのはしょうがないと思います。どの世代も守備陣を入れているし、どんなにいい選手がいてもCB一人入れたりすると思う。精神的にもプレー的にも支柱となる存在がいないと見られてしまうのはしょうがないので」
何よりそんな前評判を覆す準備はできている。「その中でもこの世代の自分たちでしっかりできるんだよということを示せれば。今回はCBで西尾と高井と3人でやるけど、3人でしっかり高め合いながら五輪に臨めたらと思います」。共にU-23アジア杯を経験したDF西尾隆矢、DF高井幸大との連係は十分。アジアの頂点に立った盤石のトリオで自信を持ってパリに乗り込むつもりだ。
(取材・文 竹内達也)
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