[画像] 売れないなら値引きはもう古い? 「 レンタル 」はファッション業界の在庫問題に対する解決策となるか

ブランドや小売業者にとって、ファッションを値引きするのではなくレンタルすることはこれまで必要とされていなかったビジネスソリューションである。

そう語るのはP180だ。レンタルサービス会社カースル(CaaStle)創業者であるクリスティン・ハンシッカー氏と、ウルヴァリンワールドワイド(Wolverine Worldwide)とヴィンス(Vince)の元CEOであるブレンダン・ホフマン氏が新たに立ち上げたこの会社は、今日の小売環境に適応しようと奮闘しているブランドや小売業者の究極のパートナーになることをめざしている。要するに、その支援から恩恵を受けるブランドの株式か所有権と引き換えに、創業者らはファッションレンタルと小売に関する専門知識や金銭的な投資を提供するというものだ。

「P180の目標は定価でよりたくさん販売することであって、レンタルはその基盤を構築するための手段だ」とホフマン氏は語る。「また最終的には、ブランドが早期調達についてよりよい決断を下せるようになり、値下げサイクルと返品ポリシーについて正しい追跡をすることができるようになる。これらのすべてが商品のライフサイクル全体で収益化に影響する」。

「セール」「値引き」という固定観念を打ち破るときがきたか



経営難に陥っているファッションブランドや小売業者の最近の決算報告の多くには、ひとつの共通点がみられる。それは、今日の節約志向の消費者を引きつけるための値引きによる利益率低下と収益不振である。ホフマン氏によると、P180のパートナーは粗利益が10ポイント以上上昇することが期待できるという。

「現在あまりにも多くのブランドや小売業者が厳しい状況に置かれている。パラダイム転換が必要だ」。

テクノロジーやデータ、イールドマネジメントというカースルの得意分野によって、ブランドは「ある特定の衣料品から、いつでも最大の利益を上げる」ことができるとハンシッカー氏は説明する。同氏によれば、ホフマン氏の小売や運営に関する専門知識とP180のパートナーとなるブランドや小売業者の高い評判がこれに組み合わされば、この強みはひときわ大きくなるという。

P180のパートナーとなるブランドや小売業者は、たとえば試着するためだけにお試し感覚で購入された可能性のあるセール品の返品を禁止することができる。あるいは在庫問題を解消するために在庫過多となっている特定のサイズをレンタルに出すことも可能だ。レンタル商品は需要があって品質が保たれている限り、次々と異なる利用者に貸し出すことができる。商品は定価の15〜20%の料金でレンタルされ、カースルの経験上、レンタルされた商品の半数以上が購入される。創業12年となるカースルの既存のブランドパートナーには、ヴィンス(Vince)やマージュ(Maje)、レベッカミンコフ(Rebecca Mikoff)などが挙げられる。

「小売店やブランドで働いていたときに夜も眠れなかった悩みのひとつは、在庫を店頭に出した瞬間に古くなっていってしまうことだった。莫大な損失を出して在庫を処分しなければならないのではないかという恐怖に怯えていた」とホフマン氏は話す。「ヴィンスで働いていた際にカースルを通じてレンタルすることに魅力を感じたのは、そうした責任を最小限に抑えることができるからだった」。

同氏は、ほかのブランドもレンタルを「常に75%オフであるよりもよい代替案」であると考えてくれるだろうと期待している。

急成長するレンタル市場



5月7日にハンシッカー氏とホフマン氏はP180の設立を発表すると同時に、創業25年のラグジュアリー小売店であるエリゼウォーカー(Elyse Walker)への同社初の投資を発表した。現在このパートナーシップにより、エリゼウォーカーでは「ボロウ(Borrow)」というプログラムを通じて厳選されたアイテムのレンタルを提供している。今はカースルの従業員20名がこのサービスを担当している。

2022年に創業者のエリゼ・ウォーカー氏は、2023年度の売上高が1億ドル(約155.5億円)に達する勢いだと語っていた。

この発表以降、ブランドや小売業者から「多くの」関心が寄せられているとホフマン氏は話す。また、P180はカースルを守る働きもしている。

厳しい経済状況のなかで人々が財布の紐を締めるとき、ブランドはしばしば主要商品を補完する商品やサービスを縮小し、結果として墓穴を掘ることになる。グランドビューリサーチ(Grand View Research)によると、レンタル市場は2030年までに23億3000万ドル(約3624億円)の市場に成長する見込みだ。そのため今後はさらに多くのレンタル会社に加え、リセール会社や革新的な素材、小売技術企業がブランドや小売業者と同様の契約を結ぶようになると考えて間違いないだろう。

「消費者に直接販売するレンタル業界のほかの企業とは対照的に、カースルは消費者に販売する企業に販売をしている。業界が苦境に立たされているとき、このビジネスは我々にとってさらに厳しいものになる。なぜならそうした企業は何よりもまず、収益の拡大や店舗管理、そして利益に注力しているからだ」とハンシッカー氏は言う。「だがP180と提携することで、企業らがビジネス上の何か大きな問題に取り組んでいるあいだ、当社は企業のための利益牽引センターになることができる。我々は優れたブランドが再び力を発揮できるよう支援し、そこから収益化の面でイノベーションを起こすことができる」。

売れ残りやすい奇抜な服……実はレンタルでは人気者に?



ファッションを愛する女性たちは、レンタルファッションの台頭により多くのブランドや小売業者がデザインや仕入れに関して冒険をしなくなったとしても、「本物の(F)」ファッションが生き残っていることを知れば安心できるだろう。また今の時代の消費者の購買習慣に合わせることも目的のひとつであり、コストパフォーマンスは高いが主張に欠ける定番アイテムに重点を置いている。

消費者はインパクトのある服をいわば一時的な流行のデザインとみなす傾向にある。そしてその服はたとえば何かのイベントのためにたった一度しか着用されないため、コスト的には割に合わずにバーゲンに出されるケースが多い。一方でそうした大胆なデザインは、レンタルチャネルでは大人気である。

「派手で目立つプリント」で知られる創業16年のファッションブランドであるレイチェルアントノフ(Rachel Antonoff)の場合、現在レントザランウェイ(Rent the Runway)とヌーリー(Nuuly)が二大小売企業だと創業者のレイチェル・アントノフ氏は5月初頭に米Glossyに語った。これらの企業はブランドから卸値で購入してレンタルを行っている。レイチェルアントノフはサックス(Saks)やノードストローム(Nordstrom)のような「大手」の小売パートナーを確保することを目標に、最近になって落ち着いたデザインをラインナップに加えたばかりだと同氏は言う。

「我々はブランドがもっと思い切った選択をできるよう後押ししたい。ブランドを完全に自由にさせ、それぞれが得意なことや楽しいことができるようにしてあげたい」とホフマン氏は語る。「初めてエリゼウォーカーを訪れたとき、ブランドは大々的なセールの真っ最中で、セール品となっていたすべてのプリント柄とカラーを目にした。そしてそうしたアイテムは1回限りのレンタルにまさにぴったりだった」。

エリゼウォーカーとのパートナーシップを補完するPoC(概念実証)として、P180は今後4〜6週間以内にブランドパートナーを発表する予定だ。各パートナーにとって、1回限りのレンタルサービスが普及したあとは定期的な収益を保証するサブスクリプションモデルの導入が目標となる。

「これは若者が自分の洋服を揃えていく方法だ。他社レンタルサービスもそれを検証している。当社は小売業者やブランドのなかに自らを組み込むことで、そこに異なる要素を持ち込むだけだ。これは実績のある技術を新たな方法で応用することなのである」。

[原文:Luxury Briefing: Does fashion rental hold the answer to the industry’s inventory problem?]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)