[画像] 最高益でも「陳謝」、三菱UFJの熱狂なき株主総会


6月27日の株主総会には会場・リモート合わせて3000人以上が参加。1.5兆円という空前の純利益を上げながらも、経営陣に高揚感はなかった(記者撮影)

「行政処分がなされたことにつきまして、ご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを、深くお詫び申し上げます」。6月27日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が都内で開いた株主総会。冒頭、おもむろに議長席から立ち上がった亀澤宏規社長は深々と頭を下げた。

同社は2024年3月期決算において、過去最高となる1兆4907億円の純利益を叩き出している。今年度からは新たな中期経営計画も始まり、さらなる成長曲線を描こうとしていた最中だ。だが、総会3日前の24日に冷や水を浴びせられる。MUFG傘下の銀行と証券会社に行政処分が下ったためだ。

株主から処分の影響を問う声

総会は慶祝気分に包まれるどころか、経営トップの謝罪で幕を開けた。

証券取引等監視委員会が三菱UFJ銀行と三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券に行政処分を下すよう金融庁に勧告した6月14日は、ちょうどMUFGが総会の事前質問を受け付けている時期だった。当然、株主からは行政処分に関する質問が集中。亀澤社長は「厳粛に受け止めている。銀証連携ビジネスに対する認識や、モニタリング部署による認知や牽制が不足していた」と陳謝した。

会場での質疑応答でも、株主から原因究明と再発防止を問われる場面があった。亀澤社長は「真摯に受け止め、経営責任を果たしたい。報酬減額も含めて必要な対応をする」と、役員への処分の可能性にも言及した。

行政処分が業績の逆風となる懸念については「現時点で対外的に開示が必要となるような、大きな影響は判明していない」(亀澤社長)と払拭した。とはいえ、足元では複数の事業会社や政府系金融機関が三菱UFJモルガンを起債の主幹事から外すなど、影響はじわじわと顕在化している。

より懸念されるのは、行政処分を契機に銀証連携が後退しかねないことだ。

関係者の話を総合すると、行政処分の対象となった行為をめぐって、監視委とMUFGの認識は食い違っていた。顧客を軽視しグループの利益追求を優先したとみる監視委に対して、MUFGはあくまで現場担当者の勇み足であり、組織としての処分には値しないと考えていた。両者の主張は平行線をたどるも、最終的にMUFGが折れた格好で決着した。だが、社内では現在でも、行政処分に対して微妙な空気が流れる。

認識の齟齬を象徴する一例が、「バーター取引」だとして監視委が法令違反を認定した事案だ。監視委の発表によれば、三菱UFJ銀行は公募増資を検討している企業に対して、引き受け会社にグループの証券会社を加えるよう依頼。その対価として、金利の引き下げや弁護士費用の免除などを提示したという。

関係者によれば、公募増資を検討していたのは国内の上場REIT(不動産投資信託)だ。グループ会社同士の連携を掲げるMUFGは、収益性もグループ全体の「総合採算」を重視している。今回の例で言えば、「これだけ低い金利で融資に応じるのだから、せめてグループの証券を引き受け会社に入れて証券サイドの手数料を獲得したい」という思いがあったようだ。

他方で、REITは銀行ごとの融資シェアを子細に公表しているため、低い収益性であっても融資を断ればシェアの低下を通じて、取引に消極的という印象を市場に与えかねない。実際、依頼された期間10年融資は採算が合わなかったが、三菱UFJ銀行にとって応じない選択肢は事実上なかったようだ。

この一連の対応について、MUFGは「顧客軽視ではない」という立場を取ったようだ。だが、監視委はあくまで「銀行が引き受け業務に携わることは禁じられている」とし、法令違反だと認定した。

MUFGが待ち受ける「重い課題」

わだかまりを抱えつつも、MUFGは今後、現場に対して抑制的な運用を求めざるをえない。すでにメールのやり取りの監視や注意喚起の自動音声を通話時に流す施策を導入しているが、今後はAIによる通話のモニタリングなども検討し、7月中にも再発防止策を取りまとめる考えだ。

総会後半では、株主から「グループの中に銀行と証券が一緒にいて大丈夫か」と、連携そのものを憂う声も上がった。


行政処分に対して陳謝するMUFGの亀澤宏規社長(写真:三菱UFJフィナンシャル・グループ)

折しも、内閣府が6月21日に公表した骨太の方針では、銀行と証券の情報共有を制限する「銀証ファイアウォール規制」の緩和が検討事項に盛り込まれた。政府の後押しを追い風に、他のメガバンクグループが銀証連携を強めて案件を奪いに来れば、MUFGの業績にボディーブローのごとく効いてくる。過去最高益に浮かれる余裕もなく、銀証連携と法令順守の両立という重い課題がついて回る。

(一井 純 : 東洋経済 記者)